十二 蛇口

 やあ。


 日に日に暑くなってきているね。


 それでいて、雨は例年よりあまり降りそうにないときた。

 このままでは、今年の夏は節水が求められるかも知れないよ。


 そうなると、意外と馬鹿にできないのが水道の蛇口の閉め忘れかな。


 ほんの少し開いているだけで、一日放っておくとリットル単位で垂れ流しだった、なんてことも有り得る。


 最近ではレバーを上げ下げするものだとか、センサーで自動式のものだとかが普及をしているようだけど。

 うちのような田舎では、まだまだひねる蛇口が主力だからね。気を付けたいところだよ。







 そうそう。


 蛇口と言えば、知人の通っていた小学校の話を思い出した。


 君の母校でもなかったかな。

 学校の七不思議というあれさ。


 トイレのなにがしさんとか、階段の段数が増えるとか、夜中に銅像が動くとか。

 言ってみれば、都市伝説のようなもの。


 彼女の母校では当時、その内の一つに蛇口の話が入っていたそうだ。



 彼女が通っていた時点ですでに古い校舎だったから、いろいろがたがきていたらしくてね。

 中でも、どんなにしっかり閉めておいても、いつの間にか緩く開いて、ぴちょんぴちょんと水滴が垂れてしまう蛇口があった。


 初めの内は古いから仕方ない、と言い合っていたのが、誰がいつ見ても大抵水が垂れているせいで、その内色々噂が立ってしまったんだ。


 気付けば堂々と七不思議に入っていた、との事だよ。



 いつも水が垂れている、という点だけでランクインしたかと言えば、違う。



 色々尾ひれがついて改変された末。

 一人でいる時に、水が垂れている蛇口を見たら、すぐに立ち去さらなければならない。

 という内容になっていたらしい。





 立ち去らなければどうなるか。






 彼女自身は怖くて確認しようとも思わなかった。


 けれど、そういうものへ挑むやんちゃ坊主とは、やはりどこにもいるようでね。


 同級生の男子が、度胸試しとばかりに一人で閉めにいったそうだ。




 すると、どうなったと思う?












 校門で待っていた友人達の元へ、実行した子は青い顔をして帰って来た。


 震えが止まらないままにその子が言うには、蛇口に触れた瞬間に、首をきゅっとつかまれた感じがしたのだとか。


 そのまま閉め切れば、自分の首はどうなるものかわからない。

 だから途中でやめて逃げ出してしまった。




 そう力説する彼の言を、友人達は脅かそうと演技しているのだと思う事にした。


 でなければ皆、平常心を保てなかったのだろう、と彼女は言っていたよ。


 何故なら、帰って来た子の首回りには、うっすらと一筋の青あざが浮かんで見えたそうだから。








 うん。


 子供のドッキリにしては凝りすぎだと思えるね。



 もしもその子が、初手で思い切りひねっていたらどうなっていたんだろう。




 残念ながら、今となっては確認のしようもない。


 知人の卒業後、校舎が建て替えられたせいか、七不思議から蛇口の話は消えてしまったんだ。



 もしかすると。

 古くなった蛇口が、早く交換して貰いたくて訴えていたのかも。



 それとも。

 きつく閉められるのが苦手なタイプだったのかな。





 なんて。


 古いものには魂が宿る、といった概念を思い浮かべてしまうね。




 色々と溜め込みやすいせいか、水回りの怪異は存外多いらしい。

 他にも思い出したら、また声をかけようか。



 じゃあ、またね。

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