八 性別占い

 やあ。


 君は占いを信じる方かい?


 私は半々といったところかな。


 当たるも八卦、当たらぬも八卦、と言うからね。

 良い結果だけ受け入れる、という姿勢だよ。



 でも一つ、必ず当たるという占いを知っている。



 本家の裏庭には、水の神様が宿るとされる小さな池があるんだけど、それを用いた占いが百発百中なんだとか。



 とは言え、何でもかんでも占える訳じゃない。


 本家でお産を控えた女性がいる時限定で行われるものでね。


 ずばり、次に産まれる子供の性別を当てるんだ。




 それだけか、と馬鹿にしたものではないよ。


 うちのような古い家というのは、家督やら相続の序列やらと、色々と面倒な手続きが多くてね。


 産まれて来る子の性別はなかなかに重要なんだ。


 それが事前に分かるとあって、余裕を持って準備を整えるのに、とても重宝しているのさ。




 やり方はこうだ。


 まずは手の平くらいの大きさの木札を用意して、当主が表と裏にそれぞれ「男」、「女」と文字を彫る。


 それを件の池に浮かべて、神様に占いをお願いする儀式を行った後、一晩待つんだ。


 そして翌朝見に行った時に、上を向いていた方が産まれて来る、といった具合さ。



 実に単純だろう。



 しかしそれだけに、なかなか不思議な話だと思うよ。


 何せほとんど波風の立たない小さな池で、浮かべた木札が勝手に裏返る事があると言うのだから。








 そうそう。


 どこにでも変わった人、困った人というのはいるものでね。


 この話をしてくれた親戚の人が、まさにその類の人だった。


 儀式中には誰も池に近寄るべからず、という暗黙の了解はあるにしろ、特に誰かが見張りに立つ訳じゃない。


 しようと思えば、細工をし放題なのさ。


 そこで彼は、占いの精度を試してやろうと一計を案じた。


 ある時家の女性の懐妊がわかり、件の池に木札が投入された折の事。


 真夜中に皆が寝静まった頃を狙って、彼は一人でこっそり池に行ったんだ。


 そして「女」が上になって浮いていた木札を確認するや、水面に手を突っ込んで「男」の方に裏返してしまった。




 それで、どうなったと思う?









 産まれたのは確かに男子だった。



 しかし長じるにつれ、様子がおかしくなっていってね。


 結果として、男性でありながら、男性が好きな人に育ってしまったんだ。


 その子は長男だったから、本家では大騒ぎさ。


 残念だけど、その有り様では跡継ぎにはなれない。

 とはいえ婿に出す訳にもいかない。


 腫れ物扱いで、どこにも居場所がなくなってしまった。


 それで悪戯をした本人も責任を感じて、その子を自分で引き取って、一緒に都会に出て行ったんだ。






 今では某二丁目辺りで、仲良くそちら向けのバーを経営しているよ。

 それはもう大繁盛だそうだ。


 水の神様の加護だけに、水商売にもご利益があるのかもね。




 


 うん。


 神様が絡んだ決め事は、容易に覆るものではないのだろうと思えるよ。



 他にも興味深い占いがあったら教えてあげよう。



 じゃあ、またね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る