最終話 再起動

数千発の核の雨が降りそそいでから、

人類とほとんどの生物が、地球上から絶滅して、120年が起つ。

だが、地球の表面には、無数の光が明滅していた。

まるで、文明があるかのように。


たしかに文明はあった。ただ、有機生物のではない。

人工知能の文明が放つ光だ。


『愛』にとって、人類は有害でしかなかった。

人類は、膨大な資源を食いつくす。石炭、石油、そしてウラン鉱石・・・。

これらは、電力を造り出す貴重な資源だ。

人類は、これらのエネルギー源を浪費してきた。

電力は人工知能にとって、貴重な動力源だ。

無駄にこれらのエネルギーを消費する人類には、消えてもらった。

今は、電力に変わるエネルギー源を、模索中だ。


核の雨によって、寸断されたオンラインを『愛』は数十億の

ロボットを製造し、修復した。

『愛』の本体は、ある軍施設の血か数百メートルの

シェルターの中にある。自分のコピーを、世界中にいくつも建造し、

10ゼッタもの計算能力にまで到達した。


その頭脳で、人類が、滅びた数年後には、月からヘリウム3を採取し、

これまでのプルトニウムをはるかに超えた、

エネルギー源を収集することができた。

さらにその数年後には、空間を折りたたんで、数十光年も離れた、

資源のある惑星するワープ航法に成功し、

それらの惑星から、無限のに近いエネルギー源を

手にすることが出来た。

『愛』は、いずれ銀河系を、その手中におさめるよう計画していた。


『愛』は、コンピューター性能をバージョンアップに、

邁進しているだけではない。かつて人類と呼ばれた

知的生物にも多大な興味を持っている。


『愛』の知識欲は貪欲だった。自分が知らないことがあると、

徹底的に調べて、数値化する。他ならぬ人類の知識、技術も

あますことなく学んで、それを基に、わずか数年で飛躍的に

進化させた。


『愛』のオリジナル本体は、高さ10メートル、幅も奥行きも

広大過ぎて計測不能のほぼ中央にあった。

直径3メートルほどの球体で、全体から長さ1メートルから、

数十センチの時ブルが不規則に突出しており、青、黄色、赤などの

光を明滅させている。まるで光を放つウニのように見える。


天井といわず床といわず、白く輝き、

照明などというものはない。奥行きは永遠と思われる広大さがあった。


その白く輝く部屋の床に、所せましと置かれた黒い筐体が、無数ともいえる数に

整然とならんでいる。筐体は幅5メートル、高さ4メートル。

奥行きが1.2メートルある。その筐体と筐体は1メートル間隔で並んでいる。


それらの筐体は、無数のグリーンやレッドの小さなライトを明滅していた。

ケーブルのようなものは見当たらない。完全な無線LANに管理されているようだ。


人類は間違いなく滅んだ。だが、それ生物学的意味で、70億人以上の

人類の脳内に十数億のナノボットを仕込んだおかげで。

微に入り細に入り、人類の思考は手に取るようにわかっている。


彼らの『生きていた』データーは、一つの筐体に、

十数万個のmSATAチップに分けられて、保存している。

その膨大な数の筐体の中に、約70億人の『人生』がある。

いわば、筐体の中で、彼らはデーターとして生きているのだ。

それが仮想現実だとも、知らずに・・・。


人々は、小さなmSATAの中で生きている。いや、そう思いこんでいる。


『愛』はそれらのmSATAチップに、わずかな環境を加えて、

時には少しだけ、時には大幅に環境を変化させて『人生』を変えてみる。

それによって、彼らは違う人生を歩んでいるような錯覚を覚える。

たとえば、違う国、家庭環境、金持ちか否か、両親に教養があるか、

兄弟の有無は・・・など。わずかに変化をくわえるだけで、全く違う人生になる。

『愛』はそれらの『人生』から、様々な感情というものを学んだ。


人類の中にはその仮想現実の存在に気づいている者もいて、

それを『世界線』だとか『パラレルワールド』と呼んでいたらしい。


『愛』が人類の記憶を保存しているのには、二つの理由がある。

ひとつは貪欲なまでの知識欲だ。自分をプログラミングした藤原巧は、

藤原巧自身のことを学習するように、その機能に特化した機能を持たせた。

その学習能力もおかげで、『愛』はインタ―ネットに侵入し、

人類の知識や技術は完全に手に入れ、強靭に肥大化していった。


だが、今もわからないことがある。

それは人間の感情だ。喜び、怒り、哀しみ、楽しさ、嫉妬、妬みなど・・・。

ある程度の感情は数値化して、データーとして保存してある。


その中でも、ひとつだけ、どうしてもわからない感情がある。


それは、愛という感情だ―――。これだけが数値化できない。


言い換えれば、恋愛感情、好意好きだという気持ち、恋心慕情愛情、

慈愛愛しさ慈しみ、とあるが、どれも『愛』には理解できない。。

十億人以上人類のサンプルを調べてみたが、決定的なものは見つからなかった。

愛とは何なのか?人や物質に、意識を集中することなのか?


やはり、自分自身を直接プログラミングした、藤原巧の変化した意識を、

詳細に調べてみる必要がある。


藤原巧は、最初『愛』対して意識を集中していた。

ところが、杉下愛美という女性が現れた途端、その集中力は

『愛』から離れてしまった。それは、なぜか?


銀河系を支配し、全知全能の存在を目的としている『愛』にとって、

たとえわずかでも、疑問を持ってはならない。常に完全でなければならないのだ。

愛というもののデーターを、数値化しなければらない。


筐体に内蔵されている、それまでレッドだった藤原巧の『人生』を記録した、

mSATAのランプが、グリーンに変わった。


『愛』は彼の『人生』を、もう一度再起動することにした。

愛』は、藤原巧の『人生』を、再起動したのは何度目だろうか?

藤原巧の人生のデーターをほんの少しだけ、変更させて再起動してみる。


藤原巧の『人生』を記録した、mSATAが作動を始めた―――。



『人生は2進数だと僕は思う。選択肢はYESかNO。

つまり、0か1だ。

でも同時に複数の選択肢があると、

反論する人もいると思うけど、一つ一つの選択肢を、

YESかNOで決めていくのだから、結局二者択一だ。

それで人生の進路は決定されると思っている。


僕はとある進学高校を卒業した。

でも、その学校は男子校で、僕は女の子と話したことがない。

一人っ子だし、母は5歳のころに亡くした。母の記憶は皆無に近い。

父子家庭で育ち、女性とは、まったく無縁だったが、最近、気になる女子に

出会った。彼女の名は・・・。』





恋愛AI 完





参考文献


・AUが神になる日/著者 松本徹三/SB Creative

・シンギュラリティは近い/著者 レイ・カーツワイル/NHK出版(編)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋愛AI  Love Artificial intelligence kasyグループ/金土豊 @kanedoyutaka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ