第二十一話 ある一つの覚悟

  随分と夜中だ。辺りに人はなく、鉄筋が飛び出たコンクリートの残骸やら破片やらが散らばり、かろうじて建物として残っているものが建っていた。真夏ということもあり、風は吹いていても生暖かく、居心地としてはあまり良いものではなかった。そしてそのかつて建物であったであろう物の残骸などで殺風景となっている場所にポツンと場違いな綺麗なパイプ椅子が置かれていた。本来この時間には来るべき存在があった。それは最大で三人の人間と人ならざるものが一体。俺は周囲を歩き回りながら、現れない来客に焦りを募らせていた。

 「どうして来ないんだ?」

 俺の問いに答えるものは勿論いない。この場には俺しかいないのだから。誰も答えを教えてくれるわけではないにも関わらず、俺はどうしてもこの焦りを言葉で表現し、払拭したかった。普段ならもう土人形――と言っても今日はアスファルトから生み出したので土ではないが――が人間を攫ってきているはずだ。だが一向に俺の元へ戻ってくる気配がない。初めての事態に俺は今土人形に起きていることを考えるが、考えられるものは一つしかなかった。

 「消滅したのか…?」

 目を閉じて感覚を研ぎ澄ますが、土人形の気配は全く感じられなかった。むしろ、何も感じないという虚無感だけが漂う。

「どうやったら消滅するんだ?」

 今まで土人形が消滅したことはなかった。土人形に与えた目的の最優先事項は人やカメラに見つからないことだった。なので自動消滅以外に外部の力で消滅させられることはまず無いはずだった。ならば自動消滅した理由は何なのだろうか。思いつくものは何も無い、土人形は人造ではあるが一応命を持つ、ある種の生命体だ。無闇に絶命しようとする筈がない。そもそも生きて俺の元へ戻って来なければならない。なので消滅、つまり死ぬということは土人形が必ず避けることの一つのはずだ。消滅となれば外部からの力がなければ不可能だ。ここまで思考した俺は信じがたくも確信を持たざるをえない答えを得た。

「俺と同じ力を持つ者がいるということか。」

 そうとしか考えられなかった。そして俺はこれを排除しなくてはならない。だがどうすればいいのだろう?土人形を倒すということはそれ相応に戦えるのだろう。そして何人いるのか、どんな能力なのか、まだ何も知らない俺にとって今対策を講じることは出来ない。ならば俺がやることは俺が自らの目で相手を見なくてはならない。俺は拳を強く握りしめ覚悟を決めた。自分と同じ能力者を倒すということを。

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