第十八話 実験と成果

「フンッ…!」

全身に力を入れて両手で生成したバスケットボール状の氷の塊を思いっきり武田さんが構えた斧にぶつけた……が、見事に弾き返され僕は大勢を崩してしまった。

「いやぁ、氷でどうやって戦うんだろうなぁ?」

武田さんは氷を使った戦い方を考えていた。僕も以前から考えてきたが特に何も思い浮かばなかった。強いて言うなら……氷を投げるくらいだ。だが能力で生み出した氷はあくまで普通の氷と違いは無い。武田さんが使うような斧と本気でぶつけても割れないことは分かったので単純に体の使い方や力でどうにかなるのだろう。だが問題は氷をどのように使うかだ。今のままぶつけるだけならそこらへんの鈍器を使った方がマシだ。

「なぁ、今藍澤は何も無い所から氷を生み出したよな?」

「は、はい。」

言われてみれば僕はただ念じる、想像することで氷を生み出している。何も材料などは必要無い。それを確認すると武田さんはだったら、と少し目を見開き、思いついたことを提案してきた。

「水に触れたら氷ってもっと早く生成されるんじゃないか?」

アイデアとしては理にかなっている気がした。だが能力を使う時点で理にかなっているかはやってみないと分からないだろう。

「ちょっと待ってろ。」

と言って武田さんは駆け足で部屋を出て行き、水を入れたペットボトルを数本持って来た。

「今から床に水を垂らすから触れてみてくれないか?」

そう言って武田さんは床に水を二メートルほど一直線に垂らしていった。僕はしゃがみ人差し指の先を床の濡れてる部分に触れて凍るようイメージした。そう念じてから次第に指先が冷えていき、文字通り氷を触れているようだった。そう感じた瞬間、水はすぐに氷へと凝固した。思わずおぉ、と声が漏れた。

「これならダイバーの動きを封じるのに使えるんじゃないか?」

「そうですね。後、問題は強度ですかね。」

「そうだな、ゴーレムは力が強いからただ固めるだけじゃまだ強度は足りないかもしれないしな。でも確実に隙を作ったり時間を稼ぐことには使えるはずだ。」

「そうですね。」

なんとか使い道が見つかって安堵した僕は大きく息を吐いた。すると何か思いついたように武田さんが手をパンと叩いた。

「藍澤、ためしに俺の足で実験するか。」

「え、大丈夫ですか?」

武田さんは自分が実験台になるというのに何故かやる気満々でいる。案外ドMなのだろうか。そんな武田に狼狽えている間にたけだは持ってきたペットボトルの中の水を自分の左足、近くの床およそ半径十センチメートルほどにぶち撒けた。

「どうなっても知りませんよ。」

僕は武田で実験することに多少の抵抗を感じつつも好奇心には勝てなかった。僕は床に触れ水を氷へと凝固させた。

「うおー!冷たい冷たい!……ってか全然脚動かねぇな。」

武田さんは無理矢理脚を動かそうとするが中々上手くいかず、初めての経験への興奮から浮かんだ笑顔は段々焦りへと変わった。

「あー、藍澤?この氷…どうすればいいんだ?」

「ど、どうしましょうか?」

 次第にお互い冷や汗が噴き出してきた。

「うおー!ヤバいって!これはヤバいぞ!脚抜けねぇ!てか冷てぇ!」

「大門地にお湯ないか聞いてきます!」

 頭を抱えて大声で焦る武田さんを氷からなんとか救出するために僕は一階へと駆け下りていった。大門地は僕が今まで見せたことない程焦っていたのを見ていささか動揺していた。僕は武田さんの今の状況を説明した。説明後、大門地を見ると、手を口に当て、肩を若干震わせて、笑いを堪えていた。

「自分で能力のことを試すか普通…しないだろ。」

 腹を抱えて笑いながら大門地は風呂場へ行き、シャワーで桶にお湯を溜め始めた。それにしても何も無い所から氷を生み出すより水を凝固させる方が早くできるようだが、まだまだ荒削りだとは思うが戦闘には使えることがよく分かり、安心した。

 大門地からお湯が入った桶を受け取ると二階へ行き武田さんの脚をガッチリと固めている氷にお湯をかける。お湯を全て使ってもすぐには溶けなかったが大門地が別にお湯を持ってきてくれて、さらに武田が戦斧で少しずつ氷を砕いたことでようやく武田さんの脚を氷から抜くことができた。

「あー、脚の感覚が無くなってたな。」

 武田さんはあっけらかんとしている。

「すいません。やり過ぎました。」

 僕は武田さんに頭を下げた。

「いやいやそんな気にすることじゃないって。俺から提案したんだし。それにしても予想以上に戦闘で使えるな、藍澤の能力は。」

「そうですね、まだ考えなきゃいけないことはありますがなんとかなりそうな気がします。」

「そうだな。後はダイバーとの実戦経験なんだが、結構危険なことをしなきゃいけないからな。」

「あー、まぁそうなりますよね…。」

 ダイバーは能力者を襲う場合、一人でいて、周りに人がいない時を主に狙ってくる。

「それにしても武田さんはよく僕がダイバーに襲われた時に間に合いましたね。」

 襲われた直後はそんなことを考える余裕も無かったが武田さんはよく間に合ったなぁと思った。武田さんはあぁ、と言うと

「いかんせん能力者を襲うダイバーは昼間からずっと藍澤のこと狙ってたっぽかったからなぁ。授業終わってからダイバーを追いかければ十分間に合ったんだよ。」

「そうなんですか…。」

 ダイバーは能力者に対して相当攻撃的なのだろう。

「ところで、今度夜空いてる日あるか?ダイバーを誘い出したいんだが。」

「あー、予定確認したいんで決まったら連絡します。」

「おう。」

 そこで二人で一階に降りると窓から夕日の光が差していた。

「二人ともお疲れ様。まぁこれでも飲みな。」

 大門地は食卓にコップに入ったコーラを2つ置いた。僕と武田さんは二人で一気に飲み干すとプハーっと息を吐いた。二人でコップをキッチンに戻して今日はそのまま帰宅した。

 夜。僕はベットの上で横になりながらカレンダーを見ながら武田さんと夜に会えそうな日を考える。能力のことは家族には言ってないのでどう誤魔化せばいいかを考える。

「友達の家に泊まる……バレるかぁ。」

 後日に親同士の会話でボロが出そうだと予想し、却下。

「一人旅……急すぎる。」

 今まで1度もやったことがない、かつ予定を詳しく聞かれたらうまく答えられないので却下。

「武田さんには結構無茶なこと言われたなぁ…。」

 軽く答えてしまったが今になって後悔した。何も良い考えが思い浮かばなかったので、もう家から抜け出すことにした。

「もう、やるしかないな。」

 覚悟を決めて武田さんに連絡をし、明後日の夜に決まった。そうと決まれば寝るだけなのだが、決まると同時に緊張が一気に高まり、その日はなかなか寝付けなかった。

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