第十七話 戦い方

 七月八日、僕は昨日武田さんに連絡した通り放課後に大門地の家で合流する予定だ。大門地の家につくと、大門地だけがいた。大門地は手作りと思われるパンケーキを出してくれたので、僕はそれを食べていた。すると彼女は僕に予想外の質問を投げかけてきた。

 「藍澤は昨日何か変なことなかったか?」

 それに対し昨日はずっと上の空だった僕にとっては常に変だったので、よく分からなかった。僕が上手く答えられずにいると大門地はさらに深く質問してくる。

「胸が苦しくなって、息苦しくならなかったか?」

 そう言われてピンと来た。確かに一分ほど妙に胸が苦しくなるような感覚に襲われた。だがなぜ大門地は分かったのだろうか。

「あったって顔だな。それはダイバーの動きを認識してる証拠だよ。」 

「え、こんな感じで皆はダイバーを感知しているの?」

「最初はこんなもんさ。段々慣れて苦しくなくなるのさ。」

 大門地はさも当たり前かのように言うのでそんなものかと特に気にもしなかった。パンケーキは相変わらず美味しく、口の中に入れた瞬間に風味がフワーッと広がり、甘さもしつこくなく、後味もすっきりしていた。素人目でもこの味を出すのに何回も練習したのだろうというのが感じられた。パンケーキを数分で食べ切ると、それを見計らったのか大門地が能力について話し出した。

「ダイバーに氷でどうやって戦うつもりなんだ?」

「うーん、氷だからなぁ。アニメとか漫画の世界だったら氷の剣とかだから僕もそんな感じで戦うのかなぁ。」

 僕は軽い気持ちで言葉にした。

「甘い」

「え?」

 僕はあっけにとられて言葉に詰まった。

「あまあまのあまだよ、藍澤ぁ。」

「あまあまの…あま?」

 全く聞き慣れない言葉が出てきて思考停止している僕を気にすることなく、大門地は話を進める。

「いいか、氷の剣なんてのはアニメや漫画の見過ぎだ。剣で相手を切ることを狙うよりかは塊で鈍器みたいにぶん殴る方が手っ取り早いだろ?」

「う、うん……。」

 大門地は身振り手振りで表現しながら物騒なことを話しているのだが、恐らく理にかなっているのだろう。

「そんなかっこいいことを目指す暇があったらダイバーと即戦える術を身につけた方がいいのさ。」

「そ、そうだね……。」

 大門地が僕を見上げて圧をかけてきており、僕はたじたじとしていた。そして何より、お互いの体がやけに近い。そこまで近づけなくていいのではと思うのだが、そんな僕の心配をお構いなしに大門地は話を進める。

「そもそも戦うってなったら氷なんかで戦うより包丁とかのほうが強そうだし手っ取り早いだろ?」

 物騒な内容が続き、僕は突っ込みどころが分からないでいる。

「そうだね。」

 苦笑いを浮かべながら僕は肯定した。

「じゃあなんでわざわざ能力で戦うのかって言ったら攻撃力の最大値がそこらへんの包丁やナイフとは桁違いだからなのさ。」

「そ、そうなの?」

 彼女の熱弁にただただ耳を傾ける。

「あぁ、ある程度訓練すれば人間離れした戦闘ができるようになるぞ。」

「そうなんだ…」

 人間離れした戦闘、という言葉は僕に高揚感を与えた。アニメや漫画のような戦闘ができるということなのだろうか、だがそれは当然痛みを伴うものでもあるのだろう。高揚感と同時に緊張や不安についても考える。

「ダイバーとの戦闘で大怪我をすることってあるよね?」

 大門地は僕の不安を少しでも和らげるために説明を続ける。

「もちろんダイバーとの戦いで怪我するなんてことも無いわけじゃない。ただ慣れればそういうこもほとんどなくなるから、そこまで心配しなくていいぞ。」

 大門地はこう言うが実際のところ武田さんに聞かなければ分からないだろう。

 ピンポーン、最早聞き慣れたインターホンの音が鳴り、大門地が足早に玄関へ向かいドアを開けると半袖半ズボンでリュックを背負った大学の授業終わりと思われる武田さんがやってきた。

「遅くなって悪いな。」

「いえいえ、時間通りですよ。」

「じゃあ早速始めるから以前紅と行った2階のあの部屋に行っといてくれ。」

リュックをソファに置いた武田を僕にそう言うと洗面所へと向かった。僕は武田さんに言われた通り二階へと向かった。階段を上りながら、訓練をすることへの期待と不安が僕の中でグルグルと駆け巡っていた。

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