第十六話 理由
「え……?」
武田さんが何を言っているのか全く理解できなかった。なぜ僕が考えていることを知っているのだろう。紅か、大門地から聞いたのだろうか。もしや聞いてはいけないことだったのだろうか。最悪の場合、武田さんは実はダイバーの仲間なのか。刹那の間に根も葉も無い、根拠もない戯言に近いような思考が脳内を駆け巡る。僕が固まっているのをそのままに武田さんは話し始める。
「俺たちは知ってるんだ。ダイバーがあの誘拐事件の犯人だってことを。」
なぜ?というのが僕の感想だった。俺たち、ということは紅も知っていたはずだが、僕が聞いた時には違うと言っていた。他のメンバーも知っているならなぜわざわざ大門地が僕に武田さんと2人きりの時に聞くように促したのだろうか。今考えると理由は明白だった。簡単な話だ。今考えた中で最も可能性の高いであろう答えを吐き出す。
「関わりたくないってことですか?」
「まぁ、そうだ。」
武田さんは歯切れ悪く答えた。
「聞きたいことはたくさんあるんですけど、そもそも関わりたくないならどうして武田さんは俺を助けてくれたんですか?」
「俺はメンバーの中ではダイバーと戦うこと自体にそこまで抵抗は無いんだ。斧を使う能力だし、なんかほっとけなくてな。だが、これは俺も分からないんだが、ダイバーは単純に中高生を誘拐するだけなら俺たちが感知できるのはごく短時間なんだ。でも能力者を襲う時は違う。なんというか、雑になる感じなんだ。雰囲気を隠すのが下手になってるから俺も分かるんだ。」
おかしな話だ。なぜ能力者を襲う必要があるのだろうか。武田さんも確信はないのだろう。
「可能性としては俺たちへの威嚇なのかもしれない。能力者を襲うことでな。」
「そう…ですか……。」
やはり明確な答えは得られない。
「それで、メンバー同士で話すことはあったんですか?」
すると武田さんはほんの少し肩を落とし、
「あぁ、したよ。皆は闘わない選択をしたんだ。」
「そう…ですか。」
当たり前のことだ。知らないうちに能力者になって、訳も分からずダイバーに狙われるなんて理不尽だ。もちろん戦うなんてもってのほかだろう。僕と武田さんの間に重い沈黙が流れた。だが武田さんは意を決したように話を続けた。
「俺はあいつらの意思が間違ってるとは思わない。戦えば大怪我をする可能性だってあるかもしれないし、最悪死ぬかもしれない。確率は分からないが仮に低かったとしても万が一ということもある。怖がるのは当然だ……でもな、ただ怖がってるだけでいるなんて、俺は嫌だな。ダイバーを倒したい、今ものうのうと人を攫うやつらを。」
武田の言葉はこの理不尽への憤りとメンバーへの優しさがあった。
「僕もダイバーがいなくなればいいって思います。だから、もし手伝えるなら戦い方は知っておきたいと思います。ぜひ教えて下さい。」
少し間を置き、武田さんは少し微笑んで
「そうか、分かった。それじゃあ……あ。」
「?」
急に何かを思い出したように武田さんがスマホを取り出して
「連絡先交換してなかったな。」
と苦笑いを浮かべた。
「あ。」
それに対して僕も苦笑いで返すと、その場で連絡先を交換した。そこで武田さんとは別れ、帰宅した。
帰宅してからは武田さんから戦い方を学ぶことへの高揚や緊張、それにダイバーを倒したいという決意からかずっと心の中は興奮気味だった気がする。すぐに武田さんと連絡を取り、明日大門地の家で待ち合わせることになった。
夕食をすませ、二階の自分の部屋に入ってから、なぜか今までに感じたことのないような胸騒ぎらしき何かを感じた。胸が締め付けられて苦しく、息が詰まった。僕は慣れない経験に戸惑ったが、一分ほどで収まったので、特に気にすることはなく、その日は眠りについた。
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