第十五話 核心

 七月七日、今日は世間では七夕だ。近所の小学校では願い事を考える児童がいたり、商店街でもコンビニやスーパーがあり、それなりに賑わっているようだが、正直僕には無縁な行事だった。それは決して僕だけではなく、僕の周りもそうだった。

「なぁ藍澤ぁ、今日予定あるかぁ?」

 虹原はいつも通り気怠そうに僕の机に顎を乗せた状態で聞いてくる。

「今日は無いかなぁ。」

 唐突な質問に多少戸惑いながらもすぐに答える。

「だよなぁ、七夕の夜に予定がある奴ってどう思う?」

「えぇ…カップルとか?」

「きっと七夕の夜空を見上げながら将来の夢をお互いに言い合ってプロポーズなり告白なりすんだろうなぁ!」

 虹原は不貞腐れながら愚痴を言っている。こういう言動をするにはちゃんとした理由があるのだが敢えていつもは触れないでいる。

「なんだ、虹原はまたリア充に対しての恨みつらみをぼやいてんのか?」

「一回フラれたくらいで引きずりすぎだろ。」

 前原と鈴林が冷静にツッコミを入れるのだが、それはただ虹原にクリティカルヒットが入るだけだ。

「あぁぁあ!やめてくれぇ、その一言は心に効く……。」

 虹原は頭を抱えながら頭を抱えていた。そう、虹原は彼女がいたことがあるのだ。

「でも不思議だよな。虹原は悶絶するときとしない時があるよなぁ。」

 前原の言うとおり、虹原が悶絶するかしないかのラインは少し分かりにくいが、虹原にはしっかりとした基準があるらしい。

「いやいいか、俺がフラれたかどうかをストレートに俺に言うか言わないかって重要なんだよぉ〜。」

 虹原は若干拗ねているようだが、僕ら3人は頭の上にはてなマークを浮かべながら聞いていた。

「そういや今日学校終わったらご飯食べに行かない?駅前に新しいハンバーガー屋出来たんだよ。」

 鈴林に言われ、虹原と前原はすぐに行くと返事をするのだが、僕は断った。今日は武田さんに会うからだ。断る僕に3人は残念そうにしていた。

 放課後僕はまた大門地の家に向かった。今日は家主の大門地と四条さんと霧島さんと武田さんがいた。大門地は先日僕に出したフレンチトーストを3人に振る舞っていた。食卓に僕が来ると武田さんは一旦口内のフレンチトーストを飲み込むと

「藍澤はよく来るなぁ。そんなに気に入ったのか?」

 と、少しばかり不思議そうに聞いてきた。

「まぁ、まだこの力について不安に感じていることが続いているからかもしれないです。」

 軽く笑って済ませるが、全くもってそんなことはない。今の僕にはダイバーのことがどうしても気になるからだ。

「私もこの家に初めて来てからしばらくは頻繁に来てましたから、それと似たような感じじゃないでしょうか?」

 霧島さんは今の僕と当時の自分を重ね合わせているようだった。

「自分と同じ能力者ってそうそういるもんじゃないだろうからな。」

 やはり能力者になったことにより不安を抱いたのは紅だけではないらしい。

「藍澤には来たところで悪いが俺はもう帰るぞ。バイトがあるからな。」

「畳み掛けるようで悪いけど藍澤、買い物行ってきてくれないか?これメモな。」

 突然の大門地の言葉に僕ら四人、特に僕は戸惑ったが、半ば強引に大門地に背中を両手で押され玄関に追いやられた。来たばかりの僕に買い物を頼まれたことにムッとしたが、大門地は僕を玄関に押しやる時に目を合わせるとウィンクをしてきたので、それが引っ掛かり、渡された二つ折り状態だったメモを広げると、そこには買い物リスト……ではなくただ一言、武田と二人きりの時の方が聞きやすいぞ、と書かれていた。恐らく武田と二人きりで聞いて欲しいことなのだろう。キョトンとした三人だったが、僕が分かった、と言ったことから、その場は軽く流れた。僕は若干戸惑っている武田と一緒に外に出ようとする。

「大門地が人に買い物頼むなんて珍しいな。藍澤となんかあったのか?」

「うーん、なんて言うか、ウチは藍澤に期待してんのさ。」

そんなセリフが聞こえてくるものだから、僕は聞き耳をたてた。

「どんな期待をしているの?」

 霧島さんが少し驚いたように聞いたが、

「いずれ分かるさ。」

 大門地には軽く流された。それを四条さんは訝しげに大門地を眺めていた。僕はそこまで聞いたところで靴を履き、外に出た。

「あの、武田さん。」

 僕は勇気を出して話しかける。

「ん?どうした、藍澤?」

 武田さんはいつもの調子で受け答えしてくれる。

「僕に、ダイバーとの戦い方を教えてくれませんか?」

「あぁ、いいけど、どうしたんだ急に?」

 恐らくこんなことを頼まれたことが無いのだろう、武田さんはどうして?、という顔をして首を傾けていた。

「どうしても、気になることがあって、それを知るためには戦えるようにならなきゃいけないって思って…」

 ダイバーが中高生誘拐事件の犯人かもしれないという僕の憶測はまだ話すべきではないと思った。ただの僕の憶測に武田さんや他のメンバーに何か迷惑をかけるべきではないと考えたからだ。あくまで戦い方を学ぶこと、それ以上手伝ってもらうのは申し訳なかった。

「お前が気になることってのは、ダイバーのことか?」

「え、えっと、はい、そうです。」

 僕が中途半端な反応をすると、武田は少し強張っていた。まるで、これから何かを言うために、心の準備をしているような…、そしてそっと、こう呟いた。

「藍澤はきっとダイバーが最近の誘拐事件の犯人だって考えたんだろ?」

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