第十四話 一つの正義

 七月六日、俺は普段通り学校へ行き、特段変わったこともなく家に帰る。人がいるわけでもないガランとした部屋に対する寂しさなど、とっくに自分の中から消え去っていた。自分がやるべきことはただ一つ。その意思が俺を突き動かしている。帰宅してからは日課となっている土人形の生成の訓練をしている。この能力が発現した直後はやけに握力が強くなったり、走ったら進みすぎて電柱にぶつかったりと散々な目に遭ったが、コントロールに慣れた頃に、土人形のようなものを生み出せることに気づくと毎日何かしら土を準備して作ってきた。毎日作っていくにつれ、それは意思を抱くようになり、自分で動くようになり、生み出すのに必要な土は少なくなり、指示を与えれば動くようないわば操り人形のように扱えるようになり、今ではロストシティに行ってコンクリートやアスファルトからも操り人形を生み出せるようになった。そんな状況になってから出会ったのが加賀だった。今では加賀と協力して中高生連続誘拐事件を起こしている。だが、まだまだ足りない。もっともっともっともっともっとやる必要がある。そうしなくてはならない。加藤のように味方を必要とする人のためにやらなければならない。自分のためにやらなければならない。あいつのためにやらなければならない。これは善いことであり、間違いではない。そう自分に言い聞かせ今まで事を成してきた。幾つもの悲鳴、言い訳、懺悔を聞いた。助けて、俺は悪くない、あいつが悪い、こんなのあんまりだ、もうしないから許してくれ、そんな事をほざく奴を何人も見てきた。

 ふざけている。そんなことで許されるとでも思っているのだろうか。自身が受けている痛みの何倍、何十倍もの痛みを他人に与えてきたというのに。俺は許さない。こんな奴らのために傷つく人がいることが許せない。自分の中で密かに煮え沸るこの憤怒をずっと秘めながら生きてきた俺にとってこの能力はまさに天からの贈り物だった。今なら俺は神の存在を信じるのかもしれないし、感謝もするだろう。俺は2メートルほどの土人形を生み出すと、部屋の中を歩くよう念じてみる。すると土人形は俺の考えたとおりに動く。前は一体動かすのに苦労していたが、今では複数体動かせるようになった。いつもの日課を済ませると土人形に崩れるように念じる。すると土人形は岩のような体から土へと戻り、崩れていった。日課を済ませると、俺はフーッと大きく息を吐いた。慣れたこととはいえ、細心の注意を払う必要があることに変わりはない。誰かに気づかれては面倒だからだ。数日後には土人形で標的を攫ってきてもらわなければならない。最も注意しなければならないのはカメラだ。もし見つかれば世間からの注目が過度にこの事件に注がれるだろう。そうなれば、どのような支障をきたすか分からない。これまでもバレずにやってきた。これからも変わらない。普段通り、日常の一部として、言うなれば毎日花壇の花に水をやるように。

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