第十三話 捜査

今日も僕は大門地の家に行った。今日は大門地しかいないらしく、彼女は部屋の掃除をしているところだった。掃除機を居間の隅に置くと、すぐに冷たい麦茶を出してくれた。

「藍澤もよく来るな〜。すっかり馴染んでるみたいで良かったぞ。」

「まだまだ能力に慣れてないからね。ここくらいしか能力について頼れる人がいなくて…」

「だが、あいにく今日はウチだけだ。そんなに聞けることはないかもしれないぞ。」

シシシッと大門寺は笑うが、話し相手がいるだけでもありがたかった。

「で、今日はウチに何の用?」

「ダイバーのことについて聞きたいんだけど…、少し前から中高生の誘拐事件が起きてるじゃない?もしかしてダイバーが犯人なのかなって…」

「どうしてダイバーだと思うの?」

 大門地は紅とは違い、否定しなかった。むしろもっと僕に話させたいのか、質問を投げかけてくる。僕は勇気を持って話を進めた。

「これだけ事件が起きても捕まっていないならダイバーが人を一瞬で攫って地面に潜ってるからじゃないかなって……。」

「でもダイバーは能力者を狙うんだろ?一般人は狙われないんじゃないのか?」

「僕たちが勝手に決めつけてるだけかもしれないし…、そもそもダイバーがどこから来たのかさえ知らないじゃないか。」

 確信が無いのが僕には歯がゆかった。

「なら藍澤はどうしたいんだ?」

 大門地の問いに曖昧な答えしか今は出せない。

「僕は……ダイバーについてもっと知りたいかな……」

 少しの沈黙の後、大門地が口を開いた。

「だったらまずは戦えるようにならないとな。」

「うん……」

 そこで会話は途切れ、なんとなく気まずい雰囲気が流れ始めた。たしかにダイバーが犯人なのかそうでないのかを確かめるためには戦う必要が出てくることは大いに考えられる。どっちみち訓練を積む必要があることに変わりはなかった。数秒のうちに思考を巡らせると大門地がキッチンで何やら料理をし始めた。何もやることがない僕は暇潰しも兼ねてキッチンを見に行くと、慣れた手つきで包丁を使う大門地がいた。料理をする彼女は今まで僕が彼女に対して感じていた印象から変わらず、明るい雰囲気であることに間違いないのだが、それだけではなく、なんとなく目の奥が輝いているように感じられ、心から料理を楽しんでいるようだった。

「そういえば、いつからこの家に一人暮らしなの?」

「親はウチが小さい頃からよく出張してるからなぁ、もう2年くらいは帰ってきてないな。」

「2年も!?」

「まぁな、でもたまにじいちゃんが来てくれてるからそこまで困ってないんだよね。」

 大門地はサラッと言うが、何年も一人暮らしをしているというのは驚いた。毎回訪れるたびに家事を淡々とこなしているのも納得だ。

「そういえば今は何作ってるの?」

「う〜ん、まぁちょっとしたおやつだよ。試作品なんだけどね。藍澤が来る前から準備してたんだけどもうすぐ終わるから後1、2分待って。」

 彼女は手際よく調理を進める。

「分かった。」

 今まで何回か大門地の作る料理は食べてきたが、どれも美味しいものだった。いずれこの料理目当てで来るかもしれないと思ったほどだ。きっと今回の試作品も美味しいものなのだろう。大門地が言った通り1、2分後にキッチンから大門地が試作品らしきものが盛り付けられた小皿を持ってきた。どうやらフレンチトーストのようだ。

「すごい…」

 そのフレンチトーストは店で出てもおかしくないような出来栄えだった。口に入れた瞬間にとろけるように風味が広がり、適度な甘さで、食べてて飽きることがなかった。数分で平らげると、向かいには満足そうに笑顔を浮かべる大門地が座っていた。

「ダイバーと戦うなら武田に習うと良いぞ。ウチらの中で1番ダイバーとの戦闘経験が多いからな。」

「うん、話を聞いてくれてありがとう。少しスッキリしたよ。」

 その後も多少雑談した後、僕は大門地の家を後にした。あたりはすっかり夕方になっており、夕日が輝いていた。僕はその光を浴びながら帰路についた。

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