第十二話 友人
ピピピピッという聴き慣れて、かつほんの少し騒々しいと感じる音で目が覚めた。窓からカーテン越しにも伝わる日差しに目を細めつつ、寝起きで正常にはたらかない思考回路のまま僕はカーテンを開けた。う〜んと唸りながら背伸びをし、一階の洗面所へと向かった。食卓に並んでいたご飯と味噌汁と煮物を平らげると、制服に着替えると家を出た。ここ数日はダイバーと戦うかどうかーーダイバーが誘拐事件の犯人だという証拠は無いのだがーーを考えていた。今のところ被害者の共通点なども明らかになっておらず、犯人の目撃情報もほとんどないまま、実際に起こっていることにも関わらず、半ば都市伝説のような扱いになっている。それに被害者が数日で家族の元に帰ってくるという不気味さもなぜかダイバーのせいではないかと思う根拠になっていたが、いまいちダイバーと戦う決心がつかないまま僕は電車に乗っていた。普段からホームルームが始まる10分前に教室に入るように行っているが、席につくと早速いつもの声が聞こえた。
「おはよう、藍澤。」
元気よく挨拶をしてくる前の席の少年は僕の方を向いてきた。
「おはよう、虹原。」
このやりとりは毎日恒例でやっているものだ。僕の前に座る虹原はいつも僕より早く学校に来て、僕が学校に来るといつも挨拶をしてくれている。僕はあまり明るいタイプではないのだが、虹原の明るさはちょうど良く、誰とでも仲良くなれそうなタイプだ。
「最近藍澤ってうわの空な時多いよな〜、なんかあったのか?」
「まぁ、色々とね…」
ふ〜ん、と虹原は何故か気だるそうにしつつもこっちに疑いの目をむけてきた。もちろん虹原には能力については話していない。お互い目を合わせないまましばらくの沈黙の後、
「彼女でも出来たのか?」
虹原の思いがけない問いに対し
「違うよ、そんなわけないじゃん。」
と笑いながら答える。
「なんだ、違うのか〜。」
「どこをどう見て僕に彼女が出来たと判断したんだよ。」
「いやー、あの藍澤さんなら彼女の1人や2人すぐできるかなーと。」
とわざとらしく大きめな声で言った。僕は右腕を振りながら、
「出会いが無いよ、出会いが」
とすぐさま否定した。
すると、後方からまた聞き慣れた声が聞こえてきた。
「えっ、藍澤に彼女できたの!?」
「う、嘘だろ……仲間だと思ってたのに……」
僕が何かを察して机に両肘をつき、手で顔を覆うと、続けざまに虹原が追い討ちをかける。
「実はっ!藍澤に彼女ができたってよ!」
「いやできてないよ」
「俺と鈴林と前原は彼女いないからなぁ、先越されたなぁ」
「ちげーよ。俺は彼女ができないんじゃない、作らないんだ。」
「はいはい、分かったよ。鈴林の負けず嫌いが発動したな。」
虹原は軽く流したが、鈴林はまだ、彼女ができない男子認定されていることに不満なようで、虹原に対して抗議しているようで、それを前原がいつも通りなだめていた。
「そういや今日なんかテストあったっけ?」
「3限に数学があるよ。」
「え!?マジか忘れてた〜」
3人はいつも通り他愛のない話をしていた。テストの話をしてると思えば昨日見た動画の話…などなど。まさにいつも通りの時間だ。そこに僕は混じりつつも、心のどこかでは他人事のように感じていたかもしれない。突然発現した能力。これは絶対にたにんに見せてはならない。いつも通りの生活をこれからも続けるために。そうするならば、ダイバーと戦うなんてまっぴらごめんだった。だがもし、もしも本当にダイバーが誘拐事件の犯人なら、僕は戦う選択をするのだろうか。まだ仮の話で、今すぐに決断できるはずもない。そんな思考をしつつ、僕は友達との会話で感じる日常に浸っていた。
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