十一話 標的

 7月5日、夏が本格的に始まり街を歩く人々はほとんどが半袖を着ている。飲み物を飲みながら、友達と笑いあいながら、小走りで人と人の間をすり抜けながら、親子で手をつなぎながら、まさに多種多様な人々が夕方の時間を過ごしている。窓からその様子を眺めながら俺は1人、ファストフード店でドリンクを飲んでいた。すると、中学生くらいの少年が店に入ってきた。彼は帽子を深く被り、マスクをしてほとんど顔が見えないようにしていたが、その少年は店内を見回し、俺を見つけると迷わず彼の方に近づいて、俺の反対側に座った。


「こ、こんにちは…」


少年は小さい声で挨拶をしてきた。


「木曽野中学の加藤だな?」


「は、はい…」


少年の声は緊張しているのだろう、この距離でなければ聞こえないぐらいの声を絞り出していた。


「俺に懲らしめて欲しいのは誰だ?」


「同じクラスの梶原と、山口と、佐久間です……」


「お前はそいつらに何をされたんだ?」


少年は目を赤くしながら話し始めた。彼曰く、そいつらには日常的にイジメを受けているらしかった。上履きを隠されたり、筆箱を取られたり、挙げ句の果てにはカバンを燃やされたと、涙をポロリ、ポロリと流しながら話した。


「任せろ。そいつに罪があるなら俺が償わせてやる。」


「お願い…します……」


少年は最終的にすすり泣きながら頭を下げた。

俺は少年の肩をポンと叩いてから、店を出た。人の波をくぐり抜けながら家へと向かう。帰宅後、俺はスマートフォンで電話をかける。


「俺だ。依頼主には会えた。明日から調べる。」


「分かったよ。決行はいつにするの?前のターゲットは昨日返したばっかだしテンポが早すぎる気がするけど。」


電話の相手は心配そうに聞いてくる。


「あぁ、でも世間からのこの出来事への興味はずいぶんと消えた。こうなったら、もう少し目立つことをしてもいいだろう?」


「確かにそうだね。でもいいの?もし警察とかにバレたりしたら…」


「俺は大丈夫だ。それより自分の心配をしたらどうだ?協力してるのがバレたらお前だってマズイだろ?いざとなったら俺はこの力でなんとかする。」


「うん、こっちは大丈夫だよ。そっちも気をつけてね。」


「あぁ、お前もな。」


電話を切ると俺は手のひらに、卓球ボールほどの大きさの蜘蛛のようなものを生み出した。それは手のひらからジャンプすると俺が開けた窓から外へと出ていった。恐らく朝には目的地に着いているだろう。




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