第八話 不安
「とりあえず今日はここまでにしましょうか。」
お互いにホットケーキを食べ終わり、多少の歓談をした後、紅がそう言ってその日は帰ることになった。大門寺が二人の皿を洗ってくれるということなので、お礼を言ってからすぐ家を出た。外は夕方になっていた。2人で駅に向かう。
「このグループに慣れてきた?」
唐突に話しかけられ一瞬動揺したが、そつなく返そうとする。
「結構楽しいよ。他の学校の人と話す機会はなかなか無いからね。」
「そっかぁ、良かった。」
彼女は僕の返答に安堵しているようだった。
「私もね、ある日突然ダイバーに襲われたの。そこを武田さんに助けてもらったの。」
「自分が能力者だと知ってどう思った?」
彼女は笑いながら答えた。
「もちろん驚いたわ。テレビ番組かと思ったくらい。」
思ったよりユーモアがある答えが返ってきて僕は笑った。
「僕はそんな余裕は無かったな。」
「私もダイバーに追われている時は死ぬほど怖かったわ。冗談抜きでね。」
「もちろんだよ。僕もその経験をしたわけだからね。」
「でもこれって人に話して信じてもらえるような話じゃないでしょ?だから自分と同じ境遇の人がいるっていうのは安心できるから、皆このグループに入るのよ。」
「なるほど…」
僕は状況が詳しく分からないまま武田たちの仲間に加わったわけだが、そもそもこういう仲間に出会えたことが幸運なのだろう。僕たちはその後最近の高校での出来事を楽しく語らいながら駅に向かい、そこで別れた。電車内でドア付近にもたれながら、能力者という自分たちについて考える。そもそも能力者は世間に認知されていない。僕らのグループは安心感を得たいという願望をかなえる場所だが、それと同時に能力者の保護にも重要な役割を担っている。武田が僕を救ったように僕が他の能力者を救う機会もあるかもしれない。そのためには氷の能力である程度戦えなければならないだろう。そう考えるとまだ手のひらに収まるくらいの氷しか生み出せない自分はまだまだだろう。途端に気が重くなった。
能力の訓練を早々に切り上げたこともあって夜になる前に帰ることができた。以前の僕のようなまだ能力を発現させてない人がまだいるのだろうか。そうだとしたらその人たちは知らないうちにダイバーに狙われている。自分が戦うことが出来るか、という漠然とした不安を抱えながら眠りについた。
今日も俺は学校での授業を終えると帰宅した。一人暮らししているので、家に帰っても誰もいない。別に寂しくはない。自分が選んだ道だからだ。実家からは時折仕送りと手紙が送られてくる。高校入学とともに上京したが、見様見真似で始めた家事も板についてきた気がする。ざっといつもの帰宅後の行動を済ませた後、カバンの中から折りたたまれたB5サイズの一枚の紙を取り出す。開くと差出人の名前と学校名、メールアドレス、そしてもう一人の名前と切り抜かれたであろう写真。そう、このもう一人が今回のターゲットだ。俺はスマホを取り出し、書かれたメールアドレスにメールを送る。
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