第七話 イメージ
数日ぶりかの目覚めの良い朝だった。あの日僕を襲ったダイバーと戦ったことがある武田たちとの出会いのおかげだということは言うまでもない。僕は普段通り朝食を済ませ、家を出た。駅までは徒歩15分くらいだが、5分くらいのランニングで着くようになった。能力者になった僕は身体能力も向上しているのでたとえ五分間荷物を持った状態でランニングしたとしてもほとんど疲れが溜まらない。なんとも便利な体になったなぁと考えながら電車に乗る。と言っても氷の能力まで使いこなせるようになった訳ではないので今でも武田たちの所へ当分放課後に通おうと思っている。そこでは他のメンバーが何人かいて、日によって別の人に能力について教えてもらうことになった。もう7月なので期末試験が近づき、普通なら勉強しようかと思うところだが、今の僕にそんな気持ちは無い。能力を得たということにまだ優越感があったのか、それても天気が良かった自然と足早に武田たちの所へ向かう。
インターホンを押すとはーい、という元気な声が聞こえた後に大門寺が扉を開けた。僕が居間に入ると、制服姿の紅と四条が大門寺の料理に舌鼓を打っている状態だった。お互いに挨拶を済ませると、紅が口を開いた。
「氷の力はどんな感じなの?」
「正直怖くて全然使ってません。周りの物を凍らせたら面倒なので。」
「ふ~ん。えっと、藍澤君て高校生だよね?」
「はい。」
「私も高校生だし、敬語は使わなくていいわよ。」
そう言われて少しほっとした。部活の影響で先輩に敬語を使っていたので、ついつい初対面の人には敬語を使う癖がついてしまっている。
「ここのメンバーには基本敬語は使わなくていいぞ。でも、武田さんは大学生だから敬語でも問題ない。まぁ、大門寺は武田さんに対して敬語じゃないんだがな…」
四条が若干呆れつつ言うと、すかさず大門寺が応戦する。
「うちはこの家の家主だからな。敬語使う必要なんて無いぞ。」
「え!?大門寺ってこの家の持ち主なの!?」
僕はあまりの驚きに大声を上げた。確かにこの家が一体誰が所有しているのかは疑問だったが、まさか大門寺の家だったとは。
「それじゃあ早速、能力を使いこなせるようにしないとね。」
彼女に言われて、僕は一緒に居間に来た。四条はまだ食堂で大門寺の料理を食べているようだった。
「藍澤君は氷の能力だから私の火の力と似ている部分があると思うわ。だから他のメンバーより教えやすいと思うわ。じゃあまず、利き手を前に出して、手のひらに氷をつくってみて。」
僕は右手を前に出した。その後どうすればいいのか彼女は言わなかったが、僕が能力を発現させた時に手がすごく冷たくなったのを意識した。するとみるみる手は冷たくなった。
「氷を生み出すにはどうすればいいの?」
「氷をイメージして。それが一番の基本だから。」
僕は手が冷たくなり、かじかんできたのに耐えながら必死に氷をイメージした。が、結果のイメージが湧いても過程が出来なかった。 なにせ何も無い状態から物質を生み出すことは不可能だ。ならばどうやるのだろう。氷は水が凍ってできる…ならば水を凍らせればいいということだ。そこで僕は気づいた。空気中にも水分は存在する、ならばその水分を集めて凍らせればいいのだ。僕は手のひらの周りの水分をイメージした。すると氷が少し手のひらの上にできていた。その氷は少しずつ大きくなり、やがて野球ボールくらいの大きさになった。
「すごい、初めてでこんなにスムーズだなんて…」
彼女は驚いてしばらく生みだされた氷を眺めていた。
「紅は火を生み出す時、どんなふうにイメージするの?」
「私はライターかな。でも最初は上手く出来なくてずっと手が熱くて火傷するかと思ったわ。」
そう言って彼女はフフッと笑った。食堂に戻ると大門寺が二人分の料理を出して待っていた。
「あれ?四条君は?」
そういえば彼の姿が見えない。
「あいつならうちのごはん食べてすぐ帰ったぞ。塾だって言ってたな。」
「そっか~、四条君にも藍澤君の能力見せたかったな~」
そう言って彼女は席につくと、用意されたホットケーキを食べ始めた。僕も彼女と同じようにホットケーキをいつもより早く食べていた。美味いホットケーキだった。
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