第五話 新しい友人
「へ?」
なんとも情けない声だった。今までの会話をなんとなく理解してきた僕だが何故料理を食べれば能力が発現するのだろう。そんな僕をよそに大門寺はまた喋りだす。
「おうおう、そう深く考えるもんじゃないぞ拓人。ほら、よく言うだろ、考えるな感じろって。」
さすがに強引すぎやしないだろうか。一体どんなからくりがあるのだろう。といっても本当に考えたところでそうそう理解できるものではないのだろうが・・・
「まあ、理解できないものよ。でも、私も茉奈ちゃんの料理を食べて能力を発現させたから嘘じゃないわよ。」
「は、はぁ・・・」
紅が助け舟を出したつもりなのかもしれないが、それでも確信には至らない。とは言っても言動を見るかぎり発現するのは本当だろう。どうやら覚悟を決めるしかないようだ。僕は意を決して話し出す。
「僕は何を食べればいいんですか?」
「おう!今日来るって聞いてたからもうだいたい作ってあるぞ。」
そう言って大門寺は席から立ち上がると台所へとニコニコしながら歩いていった。一体どれだけ僕が来ることを楽しみにしていたのだろう。大門寺が調理している間、僕は武田たちに色々質問することにした。
「僕や皆さんの能力は生まれつきのものなんですか?」
「いや、生まれつきじゃない。俺たちが能力を得た原因は十六年前の隕石だ。」
「あの隕石なんですか!?どうして・・」
「俺たちの能力の源は隕石に含まれていたもので落下と同時に当時の俺たちに宿ったんだ。」
「どうして僕たちに宿ったんですか?」
「それは分からない。偶然としか言えないな。」
「そんな・・・」
酷い話だ。何の罪もなく自分が知らぬ間に、しかも赤ん坊のころに能力を得ていたことで今更怪物に襲われるなんて。改めて自分の現状を考えると怒りがこみあげてきた。
「じゃあ、武田さんはどのくらいの頻度でダイバーと戦うんですか?」
「特に決まっている訳ではないんだけどダイバーの存在を感じた時に戦いに行く感じだ。」
「存在を・・感じる?」
「俺たち能力者はお互いに存在を感知することができる。ダイバーも感知できる存在だから俺たちはダイバーが能力者によって生み出された存在だと思っている。」
「どうしてその能力者はダイバーを使って俺たちを襲うんですか?」
「分からない。謎だらけだ。」
どうやら武田でも分からないことがまだまだあるようだった。僕は右手を顎に当て考える。
「まぁそんなに心配しなくても大丈夫よ。しっかり能力を使いこなせれば、ダイバーを追い返すくらい大したことじゃないから。」
「そうだ。能力が発現してからしばらくは俺たちもサポートするから安心していい。」
そう言って紅と四条は僕を励ましてくれた。
「そうですよ藍澤さん、私だって治癒能力で戦闘向きではありませんが日常生活をおくれています。過度に心配しなくて大丈夫ですよ。」
そういえばそうだ。霧島は治癒能力の持ち主だ。彼女は一体どうやって身を守っているのだろう。
「彼女はとてつもなく足が速いんだ。だからダイバーに襲われてもすぐに逃げられる。」
なるほど。そういう理由があるのか。自分ははたしてどんな能力があるのだろうか。直後台所から料理をもった大門寺が出てきた。
「準備できたぞー、藍澤。これがうちの料理だ!」
そう言って大門寺がお盆にのせて持ってきた料理は鶏肉やジャガイモ、にんじん、マッシュルーム、が入っているいたって普通のクリームシチューだった。
「い、いただきます。」
僕はゆっくりとお盆の上から金属製のスプーンを取り、シチューを恐る恐る口の中に運んだ。うん、普通のシチューだ。家で食べるシチューと多少味の違いはあれど十分食べられるものだった。その後も特に変わったことはなく十分ほどで食べ終わった。
「ごちそうさまでした。」
食べ終わったはいいもののこれで本当に能力が発現するのだろうか。食べ終わったタイミングで武田が口を開いた。
「さあ、そろそろだな。藍澤、何か体に変化はないか?」
そう言われて自分の体に意識を集中させる。するとあることに気づいた。自分の手がとても冷たくなっているのだ。
「手がすごい冷たいっ・・・!。」
「大丈夫だ。それは能力が原因だから、落ち着いてゆっくり呼吸するんだ。」
初めてのことだったので僕は動揺した。触ったことはないが、これが死体の冷たさなのだろうか。僕は死ぬのだろうか。そんなことが脳裏をよぎるが一瞬の思考の後、武田に言われた通りにすると、自分の手が冷たいだけで体全体に広がっている訳ではないことに気づくことができた。そして僕は自分の能力を感覚で理解することができた。
「僕の能力は・・氷?」
自分の能力が分かると先ほどまでの動揺はなくなっていった。僕が落ち着いたことを理解した他のメンバーは口々に喋り始める。
「なるほど、氷の力か。便利そうだな。」
「氷の力だなんて、私の火の力と対照的ね。どんなことができるんだろう?」
「なんでもかんでも凍らせないよう気を付けないとな。」
「また四条はそんな心配しちゃって・・うちらが教えれば問題無いぞ。」
「氷の力・・・氷でなにか彫刻でか出来たりしないかしら。」
皆今までとは違いよく喋るようになった。僕が戸惑っていると、
「俺たち仲間が増えて嬉しいのさ。同じ能力者なんてそうそういるもんじゃないからな。」
そういうものだろうか。皆とても仲良さそうに話している。まるで学校の教室内での仲良しグループみたいだ。僕も急に親近感が湧いてきて自然に笑みがこぼれた。
「藍澤、これからよろしくな。」
そう言って武田は僕に握手を求めてきた。僕がその手を見てから他のメンバーを見回すと皆頷いていた。皆は僕という仲間が加わることへの高揚感と喜びでいっぱいに見えた。僕は武田の手を握り返して改めて挨拶した。もう敬語なんて必要ないというのは言うまでもない。
「あぁ、これからよろしく!」
この日僕に第二の家ができた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます