第四話 時に好奇心は人生を変える

もし人に特別な才能があったとして、それを人はどのように使うのだろうか。その才能を活かして億万長者になりたいと夢を持つ者もいれば、他人を蹴落とすために使う者もいるかもしれない。他にも他人を救うために使う、ヒーローのような者もいるだろう。だが時に自分の才能を他人から隠す必要がある場合も存在する。武田が言ったその言葉を聞いて僕はその才能は隠すべきものだと直感した。

 

 「の、能力ですか?」


 一体どんな能力なのか?そもそも本当に自分に能力があるのだろうか?冷静に考えて信じられるものではなかった。が、武田についてきている時点で後の祭りだろう。

 

 「信じられないかもしれないが、君は能力者だ。そして俺を含め、ここにいる五人も能力者なんだ。」

 

 ほんとに武田の言う通りだ。まだ信じられない。知りたいことが多すぎる。

 

 「どうして僕が能力者だって思うんですか?」

 

 「君が昨日ダイバーに襲われたからだ。」

 

 「ダイバーって、昨日のあの怪物ですか?あの怪物ってなんなんですか?」

 

 「俺たちもよくは分かっていない。ただ確かなのは、ダイバーは能力者が生み出した存在だということだ。」

 

 武田の言うことは理解できるがまだ実感できていない。そもそも自分が能力者であるという実感がわかなかった。

 

 「えーと、そもそも僕は本当に能力者なんですか?どんな能力か僕は全然分からないんですけど・・・」

 

 正直今気になるのはここだ。自分に能力があるなんて今まで一度も気づかなかった。

 

 「君は確かに能力者だ。ダイバーは能力者、または能力がまだ発現していない者を狙うからな。」

 

 「じゃあ皆さんはそれぞれの能力を使ってダイバーと戦ってるってことですか?」

 

 「そうだ。」

 

 衝撃だった。自分と同年代と思われる彼らが昨日僕を襲った怪物と戦っているというのだ。

 

 「それで、皆さんはそれぞれどんな能力があるんですか?」

 

 「そこは気になるところだよな。では自己紹介といこう。俺は斧を使う能力者だ。」

 

 そう言って武田は右手を真横に突き出し、指を開くと手のひらあたりが薄い黄色に輝くと、光は形を変え、昨日見た斧が現れた。そして斧は光となって消えた。僕が呆然としていると

 

 「私は紅優莉くれないゆり、よろしくね。能力は火を操る力よ。」


 と言って笑った、武田の左隣に座る女性は赤い髪を肩まで伸ばし、高校生なのだろう、制服を着ていた。そういえば武田以外はだいたいそれぞれの高校の制服を着ていることに気づいた。紅は右手を胸の高さまで上げて人差し指を立てると、指先に小さい火を生み出した。なるほど、火が使えれば日常生活でも便利だろう。

 

 「うちは大門地茉奈だいもんじまな。うちの能力はズバリ農業だ!」


 と言った女性というより少女は濃い茶髪だったのだが、毛先に近づくにつれ濃い緑に変わっていた。


 武田以外で唯一私服だった彼女は肩が見える白い長袖の服を着ていた。

 

 「の、農業って、具体的には?」

 

 「まあ、そうだな、簡単に言えばどこでも自給自足できるな。」

 

 なんてこった。ということは彼女は生きるうえで最高の能力の一つを持っているということだ。かなり羨ましく恐らくはやりの異世界転生なんてしても彼女は十分生活できる。腕組みをしてドヤ顔をする彼女に対しておそらく僕は口をポカンと開けて、目を丸くしていたのだろう。彼女のむかいに座る青年の咳払いで我に返った。

 

 「俺は四条一道しじょういちみちだ。弓を使う能力者だ。」


 そう言って青年は右手を前に突き出すと武田の時とは違い青白い光から弓を形成した。クールに見える彼は黒髪を眉毛のとこまで伸ばし、碧眼で、あまり喋るタイプではない感じだ。


 「え、えーっと、私は霧島花凛きりしまかりんといいます。治癒の能力を持っています。」


 そう言う四条の左隣つまり僕の右隣りに座る彼女は水色の髪に紺色の目をしていて、人見知りなのだろうか、緊張しているようだった。だがふと気づいた。一体僕はどんな能力があっていつ発現するのだろうか。おそらく顔に出ていたのだろう、武田が口を開いた。


 「ところで君の能力だが、発現させようと思うがそれでいいか?能力によっては身を守れるだろうし。」


 「ということは、僕はこれからもダイバーに狙われるってことですか?」 


 それは正直かなり辛い。いくら能力があったとしても戦闘経験は無いので、不安しかなかった。


 「たしかにこれからも狙われる可能性はある。だがダイバーにも習性があることを俺たちは経験で分かっている。それを知れば、危険はかなり減らせる。」


 それに対し、他の仲間も頷いていた。四条の言葉を聞いても、まだ悩むべきかもしれないと思ったが、僕は能力者という単語への好奇心に負けた。


 「では、お願いします。どうすればいいんですか?」


 「簡単よ。それは・」


 「うちの料理を食べることだぞ!」


 紅の言葉を遮って目を輝かせた大門寺が机に身を乗り出して言った。それはまるで僕が承諾することを待っていましたと言わんばかりに。

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