第22話 出発

 宇宙では、チャインシーの部隊がアルカーナと交戦していた。


マナマリ「なんて敵ネ。  数が多いよ」


マリマナ「それでも何とかするしかないわ。 こちとら任務を受けてるんだから、意地でも遂行するわよ」


ローファイ「全機散開、一機も近づけるな。 彼らを無事下すぞ」


リンリン「了解」



 一気に隊列を組んだ6機の機体が飛び散る。 目の前には無数のアルカーナ軍とそのAD。それは彼らの数十倍もの数が展開している。



ユンシェイ「くそふざけやがって。 あいつら俺たちを捨て駒のように……いいようにばかり使いやがって」


ローファイ「うるさいぞ。 今は死なないように目の前の敵にだけ集中しろ」


ユンシェイ「そんなこと言って、こんな数相手に、俺たちだけをぶつけて」



 各機分かれて戦う6機とチャインシーの仲間、 ユンシェイの先を先行するADは次々に破壊されていく。



ユンシェイ「くそ。また一機。 俺たちの命をなんだと思っているんだぁあ」


ローファイ「これが任務だ。 与えられたことだけをこなせ。 そして死ぬな。 チャンスは来る」



 次々にチャインシーの機体が散っていく。



マリマナ「ふふ、ここで終わらせるわ」


 マナの乗る赤い機体、メッシュ・フリーゲンは武装する8つの砲撃で敵機を一網打尽にした。


マナマリ「サヨナラネ」


 マリマナもまた、そのすさまじい速さで敵機に接近しては、手に持つライフルで急所をついていった。

 ライフル片手にこんな戦い方をする者はまれに見ない。


アルカーナ兵「なんだあの敵?! 早すぎる!! 捉えられない」


 マリの乗る青い機体、アッシュ・クルーパーは機動力を生かし、ライフルが弾切れになると、エネルギーブレードで次々に機体を葬ると、戦線を抜けて行った。


 二人の強さは桁違いである。 この戦場の主戦力はこの6機。 彼らはすさまじい猛威を振るってアルカーナからあるものを守っていた。


 それはすぐにニスルトの耳に入る。 


 出てきたのは銀色に輝くエリクの機体と、赤いカールスの乗る機体。


 彼らがチャインシーのほとんどを壊滅させていったのは言うまでもない。 二人は、マナ、マリ以外の4機の行く手を止めて戦い、4対2で互角の戦いを繰り広げた。


 アルカーナの攻撃が数をもって激化する。それに命をもってチャインシーは耐えた。


ローファイ「みんな耐えろ……。 これだけは何としても守りぬけ! 送り届けるんだ。送り届けるまで死ぬことは許さん。 チャインシーの維持を見せろ! 」









 地球ではエールス達シーキュウナ隊を留めることに反意を起こす者たちもいた。 

 彼らとしても宇宙から来て、地球をめちゃくちゃにしている者と変わらないからである。 


 議会や大臣の中でもその意見は分かれており、マイロは頑なに留めることを変えなかった。 そのため、反対派の大臣はマイロを大役からはずす策略を取るのである。 


 政治的では下すことができない。なら止めるしかない。 彼らは反対派の下の立場にある、バビル氏や市長、その下の組織であるダンク達を使って、誘拐や暗殺を企てたが、防衛隊やライル達によってすべて阻まれ失敗に終わっていた。 

 しかし彼らの策略はさらに度を越し、いつしか、シーキュウナ隊への圧力が強くなる。 


 市民たちの態度や、サービス等、シーキュウナ隊にだけはとても酷い扱いをしていた。

 でっち上げた法律やルールを駆使してはシーキュウナ隊の生活を苦しめていた。


 ライルやクレイドも上級都市を良くは思っていない。 生活を見れば見るほど、貧しい者たちがもっと外で苦しんでいることに苛立ちを覚える。 


 


 マイロはそれを何とかしようとこっそりと動いたが、やがて、彼ら自身も反対派の策略により動けなくなった。 そして騙されたマイロ達や防衛隊はシーキュウナ隊と戦うことになったのである。 


 しかしマイロは違和感の正体をつき止める為、ひそかにエールスと話す事で誤解と知り、二つは疎遠の仲になる程度で終わった。 


 その後も攻撃は続くが、防衛隊はそれを守り抜いた。 


 やがて、宇宙から物資が届く。 


 そこには、人っ子一人降りては来ず、モノだけが沢山降りてくる状態だった。 それも落下地点はバラバラだ。

 つまりは。お前たちだけで先に組み立てておけと言う事なのだろう。


 犬猿の仲であった二つは、渋々組み立てを始める。 だが今回の事で、地球の武力が向上したのは事実だ。


 しかし、日に日に宇宙から届く数々の物資を目の当たりにしている反対派は怒りが爆発。 マイロを誘拐し、人質に。 脅迫してきたのである。


 今回の事に対し、防衛隊はシーキュウナ隊に頭を下げに来ていた。


ローイ「こんな事を言うのは虫がいいのはわかってる。 けどどうしてもあなたたちの力が必要なんだ。 以前からの非礼も詫びてお願い申し上げたい。 

 どうか我々のトップを救ってくれ」



 エールス達もそれが騙されていての仲違いだったのは理解していた為、力を貸す事に。


 無事にマイルを救い出すことに成功した。 こうして、エールスとマイル達の絆は強く深まることとなった。 


 だがこれで現状が変わったかと言うとそうではない。


 マイルは反対派を潰すためこっそりと動く。 反対派はマイルのいる大臣の仲にも多くいるため、表立って強く動けないのが現状である。 



 だからことを荒立てないためにも、彼らの絆が深まったことも秘密裏に、防衛隊の活躍を大として、事実を曲げた。


 さらに、反対派の首謀者だった大臣たちは、今回の件で拘束。 その地位を剥奪、投獄される事になる。



 サーゲンレーゼ隊による法やルールの嫌がらせは、これにて数を減らしては行ったが、発射台の制作では一部、ギクシャクが残った。



 ライルは誘拐されたマイロを助けにいく時でも、どんな時でも、決してエクリプスには乗らなかった。


 だから、エールスや、エレクは急いで、エクリプスの調整も行った。誰でも乗ることができるようにする為に。

 修繕が完了しない、現状において、エクリプスだけが頼みの綱なのだ。

 

 何のロックがかかってるのかもわからず頭を悩ませながら、ニフティーと対話するエリクだった。 



 当初、サーゲンレーゼは飛んで偵察を行っていたが、エンジンのトラブルが絶えず、続いていた。 


 そこを狙ってきたのがギエン隊やスラッグ隊だった。 互いが消耗している今、彼らも素材確保の為シーキュウナ隊の機体を奪取しようとしていた。



 そんなこともあり、サーゲンレーゼは上級都市から出すことはなく、ADだけが上級都市から出撃する形となっていた。





 


 幾度となく戦いを繰り広げ、ライルがプリーマで出たある日の事、ライルの機体が捕まってしまう。 確保したのはギエン隊。 

 

 彼らの連携に翻弄され、捕まったライルだったが、間一髪隙を見て、逃げ出すと、どこへと不時着し、プリーマを隠して逃げる。 


 どの町に行きついてもよそ者を歓迎する町はない。 飲まず食わずで3日。 もうライルは限界だった。 


 たどり着いた町で飲み物を請うも、この町とて部外者には厳しかった。 あろうことにも、声をかけた店主が悪かったのか、怒り狂うと、ライルを突き飛ばした。


「おいおい、どうした? 盗すみか?」


 野次馬が集まる中、一人の男が出てきた。 その男は弱り切ったライルを起こすと助けてくれた。 


スラック「おいおい、俺の親友に何してくれてんだよ。 頼むよ恵んでやってくれ、こんなに死にかけてんだぞ。 お題なら俺が払ってやるからよ」

 


男「な、なんだよ、スラックさんの知り合いかよ。 てっきり俺は。 悪い。 坊主、大丈夫か? 今食べ物とか持ってきてやるから」


 急に弱腰になると、男は丁重にライルを扱った。 


スラック「もっと美味いとこ行くか」


 少量を食べると、スラックは別の店へライルを連れていった。



ライル「ありがとうございます。 助けていただいて。 でもどうして、あなたがここに?」


スラック「ん? ここは俺の町だからな」


ライル「ここがあなたの?」


スラック「それよか、お前こそ何があった? どうしたんだ?」


 ライルは以前のマイル救出戦にて、アルカーナに繋がっている者がいて、はめられた経験から、説明することをしなかった。 スラック自体は信じているが、この町の誰がアルカーナとつながっているかもわからない。 うかつに、人のいるところで宇宙のモノがかかわる話などできなかった。



 ライルは仲間が早く見つけてくれることを祈って、インコムを握りしめた。



 ライルの乗ってきた機体を先に見つけたのはギエン隊。 隠しきれていない部分をギエンは見逃さなかった。 だが間もなくしてシーキュウナ隊のグロスたちと交戦する。彼らもまた時間差でライルのプリーマを発見したのだ。



 スラックがライルに合わせたい人がいると約束をつけている時に、騒ぎが起こる。 近くで戦闘していると町人達が騒いでいたのだ。 


 ライルのインコムもまた、震えて騒いだ。



 ライルはその状況に怒らずにはいられなかった。。 最近の地球はただでさえ、不景気で亡くなっていく人が絶えないのに、いつから戦争までする惑星になったのだと。 


 人が周りを巻き込んで殺し合う状況を憎むのは、ケイもその犠牲者の一人だから。 余計に、イサミの家族を思い出してしまう。



 スラックはそんなライルを見て心底気に入ったらしい。 


スラック「早く逃げろ。 こんな戦争はさっさと俺が終わらせてきてやるよ」


 そう言ってスラックは争いがあるという場所へと走っていた。 ライルもまた、インコムからの指示を受け、サーゲンレーゼへと戻った。 


グロス「おう、おかえり、いやぁ~冷や冷やしたぜ、 お前持っていかれちまった時はよ」


ニルス「お前。 もうあんなへまするな、 こちとら、暇じゃないんだぞ。 戦艦まで出して」



 一応艦員の皆は心配してくれていたみたいだった。 


 ギエン隊のギエン。 彼は、特殊な言葉をしゃべる。 生まれた家庭がそういう部族だったからだ。 だから彼は故郷を失った時、沢山の迫害を受けた。 彼の両親はその時、争いで無理くり奪われた命である。 突然、部族を良く思わない何者かの襲撃で彼らは滅びを迎える。そして彼らは移住してきた。ギエンやニギユーはその時の生き残りである。 しかしニギユーはまだ、若かったため、宇宙で話す人たちの言葉をすんなりと体が覚えた。 しかしギエンにとっては何をしゃべているのか、意味しているのかも当初難しかった。 そんな壁から、彼は沢山の暴行を受けながら、耐えた。彼だけではなく移り住んだ部族は、気味悪がられ、意味もなく知らないところで殺された。 それは罪とは認められなかった。 皆が見ぬふりをしたのだ。


 誰も助けはしない。自分も被害に合わない為に。 そこに手を差し伸べてくれたのが、ニストルだった。


 彼はそれからアルカーナという国ができる話を聞く。 迫害によって急に命を奪われる今の現状、その人権のなさを変えるために、同じような仲間を守るために、彼は世界を変えようと戦うことを志願したのだった。 それだけが彼の願い。



エールス「気をぬくな、 追い返して機体は二人が取り返したとはいえ、まだ何があるかわからん」


スキャットマン「どういうことです? 敵はもう逃げたんですよ!? 俺たちも早く帰りましょう」


 皆はサーゲンレーゼのエンジンを心配していたが、エールスだけは、敵の襲撃を警戒していた。 なんせ、戦っているのがあのスラッグ隊とギエン隊なのだから。



 その予感は的中する。 


サフィー「艦長! 右舷より敵勢力を確認。 スラッグ隊です」



 各員は急いで配置へ向かう。


 勿論ライルも走ったが、ライルに下されたのはエクリプスでの出撃だった。 総出で出なければまずい。 


 エールスはそう踏んだのである。 それは間違いではない。 なるべくなら襲撃を避けたい、エクリプスの出撃命令。


 ニルスやグロスはエールスのもとに集まり、相談会議が始まった。 ライルはエクリプス内での発進待機を命じられる。


 ライルの中でスラックとの出会いは大きかった。 彼は本気で戦いを無くそうと、争う中へ走って行った。 勝てないジンクスであったとしてもだ。 


 なら自分も彼を見習って、ここの人々を守りたい。 向かったスラックの無事を願うと、居ても立っても居られなくなった。

 それに、無事意識を取り戻し大事はなかった、ロデルやイワンの事を考えると、争いを終わらせたいという思いは強くなっていった。


 格納庫へ向かって走るライルをクレイドが止める。


「ライル! 」

 

 そう呼ぶと、ライルは足を止めた。 ライルを気遣いながら、心配し、手を握ってくるクレイド。


ライル「大丈夫。心配ないから。 早く終わらせて、俺たちの暮らしに戻ろう」


クレイド「うん」


 二人は身を寄せ合って語る。 


 だからこそ思った。 俺は死ねない。 クレイドを守るために。 生きて帰らないといけないのだと。 




 ニルスは先に出た。一緒についてきた地球の軍やジンクスたちが、外で戦ってくれいている為。援護が必要だった。 ニルスとスキャットマンが応戦する。


 そこに、横やりを入れ来たのが、この機会を狙って潜んでいたマレーだった。 

 マレーがシーキュウナ隊を止めているうちに、スラッグ隊の二人は地球の軍を蹴散らしていった。




「おい、何やってる! お前のはそっちじゃないぞ」


ライル「こっちで出ます」


ベクトル「ふざけたこと言ってんじゃねぇ、何のためにこいつがあるんだ。それにお前はこっちで待機だろ」


ライル「乗りたいんだったら自分で乗ってください。 それより、この機体かりますよ」


 近くにいたベクトルが反応する。


ベクトル「ふざけんな。 お前のはこっちだ」


 ライルは近くに置いてあった、アルバに乗り込んだ。



 エレクの元に技師たちが血相変えて駆け寄ってくる。


技師1「エレクさん、あの坊主なんとかしてくださいよ」


エレク「あんにゃろう、よりにもよって、グロスのアルバに乗り込みやがって」


 エレクは周りを落ち着かせようとした。


「ふん。 まぁ、心配ねぇ。 この改造したアルバには初めて乗るんだろ。 バカだぜ。あいつじゃ今までの起動方法じゃあわからねぇぜ。 もうほっとけ。 そのうち飽きるだろ」


 エレク達はライルが勝手に乗って行くことがないようにアルバには特殊なロックをかけていた。 これも物資の調達のおかげである。

 しかしその物資の中にエクリプスの気になる書類を目に通す。 エレクでも謎の書物だった。 そしてそれ用の荷物。


「あのガキ、グロスが来たらボコられて終わりだな」


 整備士たちは安心したように笑いに包まれると持ち場に戻った。 アルバは発進する気配が全くないからだ。



 ライルは翻弄されていた。スラックの心強さと決意に突き動かされていた。 整備士に聞いても教えてくれないなら、ライルは手当たり次第に、ボタンを押した。

 


「エ!?、エ、エ、エ、エレクさん!? 大変だ! 発進するぞ」


「何だって!? あいつ! みんな下がれ」


 エレクが急いでライルの乗るアルバへ駆け寄る。


「おいガキ、止めろ。 お前の機体はそれじゃねぇ。 それで出るんじゃねぇ」


「通信機はこれか。 あ、あ、 聞こえますか? 悪いけど、これに乗るはずだった人の機体と取り換えてって言っといてくれ。 それじゃあ、行くから」


「おいこら待て、勝手にとびだすな。  おい皆逃げろ。 巻き込まれたくなかったら急げ」


 エレクは大声を出して整備士たちを避難させる様に叫んだ。


 ブースターを使ったライルのアルバが飛び立つ。





 エレクたちは皆無事だった。


「あんのガキただじゃ置かねぇ。 帰ってきたらぜってぇぶちのめす」


「あんの馬鹿垂れ。 出るなら掛け声掛けていけ。 俺たちを殺す気か!」


 エレクもベクトルもかんかんに怒っていた。 エレクは近くにいた整備士に指令室につなぐように怒鳴った。


 ブリッジでは、エーレスとグロスが話し合う。


グロス「あいつら、そろそろ畳みかけか」


エールス「向こうも本気という訳だろう。 だが、一体どうしてこの一機にそこまでの軍を投下してくる」


グロス「まぁ、ニストルが来てる訳じゃないんだろ。 それだけでも優先度は低いんじゃないか」


エールス「それにしたって、スラッグ隊ってのは、」


 エールスもそこには同意だった。 それより上がれるかどうかすら脅威と捉えていた。


 

 2人の会話にシノが割って入る。


「お話し中すみません。 艦長、格納庫から通信が入っています」


「何だこんな時に」


 ノンはグロスにすぐに出撃するように伝え、格納庫へ向かわせ、通信に出た。


「どうした?」


「すいません、艦長。 エレクだが、あのガキが飛び出していきやがった」


「何だと!? 待機するように言っていただろ。 すると、新機体が危ないか」


「いや、それがですね、 新機体には乗りたくないと、 それで……」


 エレクは事の次第をすべて話した。 


「何!? グロスの機体に乗っていっただと。 あいつ死にたいのか? 外は遊びじゃないんだぞ」


「すいません、艦長、俺の責任だ。 まさかアイツがあんなに突っ走るとは」


「もうグロスがそっちに向かったぞ」 


 丁度グロスが格納庫へ入った時だった。


「おい、俺の機体は準備できてるか」


「それが……」


 他の整備士は口をそろえて瞑った。


「って、俺の機体ねぇじゃねぇかぁ!!」




 エールスとエレクの通信の近くにグロスを誘導するエレク。 事の発端をグロスが聞く事になる。


「なに!? 俺の機体に乗ってあいつが出た!?

 どうすんだよ艦長」


「こうなっては仕方がない。 しかしこれは逆に良かったのかもしれん」


「と言いますと?」


「いやなに、もともと若い子に新型に乗せて戦かわせる事自体反対だったんだ。 その方が破壊の危険も高い。

 それよりはベテランであるグロスに乗って貰った方が、得策だと思ってな。  ほんとは私はグロスに乗ってほしいと思っていたんだ」


「だけど、動かせないんだろ? あれ。 あいつが乗らないと」


エールス「あぁ、そこでだ こんな日もあると思って、エレクと急ピッチで新型のロックを外しておいたんだ」


「そうかい。 じゃあ、動かせるってことか。


 たしかに、機体を奪取される恐れも考えると、その方が、ガキが乗るよりは安全か」


 エレクは急いで、ニフティの整備の確認に当たらせた。



「俺が新型に乗るのか。 それもまぁいいが、一体どこまでのじゃじゃ馬なのか、わくわくするぜ……」


 グロスは喜んでいるわけではない。グロスは整備士に状態を確認すると、ニフティに乗りこんだ。


「なんだ?この機体? こんなだったか?」


 操縦桿が自分の知るものとは違い過ぎる。 レバーを握るとかそんなものが全くない。 もっと最先端の近未来的なものを感じた。 


「これ、あいつが乗ってたんだろ?」


整備士「はいそうですが、 起動の為の修正は終わらしてあります。 Dシステムデバイスもインストール済みの状態です。 ただ、まだ稼働調整の確認ができてませんが……」


 整備士は苦笑いして口角を上げる。


「何だ、調整する時間がなかったのか。 お前らもまだまだだな」


「違いますよ。 あのガキが頑なに乗らなかったからですよ。 途中まで起動させたんですけど、急に止めだして、 それっきりで」


「なんだ、あいつ、やっぱり怖くなったか。 わかった。 その起動テストも兼ねて動かしてみる」


「すみません。 お願いします」


 整備士はそう言うと、ニフティから急いで離れる。 


「さぁ動いてくれよ」


 グロスは作動スイッチを入れる。 モニターにニフティの文字が映る。




ライル「あそこが戦場か。 こんなにも暴れ回りやがって」


 ライルが飛んできたときには、一緒に来て戦っていたジンクスが一機、また一機と無残に破壊されていく姿を目撃する。 それは太刀打ちできないジンクスが一方的に破壊されていく絵図らだ。 的には容赦の姿勢は無い。



「く、あいつら」


 ライルは速度を上げて突っ込んでいった。



「はーっはっはっはっ。 話には聞いていたが、なんともろい こんなのがロボットとは。 なぜこうまでして命を投げ捨てる」


ドメイク「リラルド、私達の目的はこんなガラクタを相手にする事じゃない。あれを潰さないと」


リラルド「おうそうだったな。 だが、湧いてくるのが邪魔だ」


 スラックはリラルド、ドメイクに先導して探しに行くように命じた。リラルドは楽しんで笑っている訳ではない。 そうしなければ心が壊れそうで楽しそうに笑う。



「スラック、うちらも、うわぁぁぁ」


 リラルドの機体がジンクス達の攻撃を受けた。 地球の戦車も出て応戦する。 対ジンクス用の戦車一八だ。 物資の調達で完成した一つである。


「こいつら、ちょっと構わなくなったら、いい気になりやがって」


 リラルドの機体エターⅣがジンクスをフォトンソードで簡単に一刀両断にすると、一八をビーム兵器で破壊していった。 



「ん? なんだあの機体は。 ドメイク、こちらに向かってくる機体が一機あるぞ」


「目視した。 あれはこの地球とかいう星のもんじゃないな。 ガラクタって感じがしねぇ」



 ライルは持っていたエネルギーライフルで二体のうち一体のエターを撃った。


ドメイク「気を付けろリラルド、攻撃してきたぞ」


リラルド「ちっ、俺狙いとはいい度胸だ」



ドメイク「リラルド、気を付けろ、あれは……隊長機か」


 リラルドは立った一機でむかってくるアルバに単身突っ込んだ。


リラルド「死ねぇぇぇぇ」


 アルバの放ったエネルギーライフルの方が速く、リラルドはコックピットを貫かれ大破した。



ドメイク「リラルドぉぉぉぉぉぉ!」


 大きな爆発と共にドメイクの大きな叫びをあげた。


ライル「当たってしまった…… これも、強化されてるのか……」



スラック「何だ、あの爆発は。 まさか、リラルドかドメイクか?」


 スラックはドメイク達の後を追った。



ドメイク「よくもリラルドを」


 ドメイクは目の前で爆撃されたリラルド機を見て、アルバに憎しみを抱く。


ライル「こいつ……、火力も違うのか……」


ライルは自分が殺してしまった事に罪の意識を感じ、震えが止まらない。殺すつもりはなかった、 今ままで乗ったプリーマなら、リラルドがやられることは無かっただろう。 だがライルが乗っているのは、アルバだ。 さらに火力は十分の強化がされていた。 そしてライルがいるのは戦場。そう易々と自分の罪の懺悔する時間など、与えてはくれない。




ライル「何だ!もう一機、突っ込んでくる」



 ライルは向かってくるエターⅣと距離をとる。



ドメイク「逃がすか、この隊長機が」


 ドメイクが銃を乱射する。 


ライル「アイツ、適当に! くそ、当たるか」


ライルも負け時とライフルで応戦する。ドメイクがライルと追いかけっこしている内にスラックも交戦現場を目視知る。 


 ライルはドメイクの攻撃をなんなりかわすと、エターⅣの右手を落として見せる。


ドメイク「ちぃ、あの野郎、許すかぁ」


 ドメイクは怒りに任せ、まだ突っ込んでくる。 背中につけたトネール・クールと言う槍のようなものを持ち出す。  サイズは背中ほど無いが、両先端が伸び、エターⅣを少し抜くほどの大きさに変形し、先端が、紫目の青で突起物のような形をまとって輝きだす。



「なんだあの武器は。 範囲が長い」


ライルは初めて見る武器に戸惑う。振るわれたそれはアルバの胸元を傷つけた。



「うわぁぁぁぁぁ」


 ライルの全身を電気が流れる。 高圧電流をまとっており、中を流れる粒子は普通の何百倍も多い。 摩擦熱によってそれはレーザーと同じ原理を生み出す。焼き切れるのと同時に、高圧の電気がコックピットに流れ込む。 最強の武器だ。 欠点とすれば、重量が少し重い為、機動力が落ちるぐらいで、エネルギーブレイドよりも間合いもある。


 


負けじと、ライルもライフルを撃ち返す。 ドメイクは、それをかわす。 苦し逃れの一発など当たる訳はない。


スラック「ドメイク!?どうした?」


 そうこうしているうちにスラック達が合流する。



ドメイク「隊長、リラルドが、リラルドがやられた」


スラック「何だって?」


ジータ「その隊長機かい!!」


 ミサイルランチャーを撃ったジータが突撃する。 ジータはいつもと違う形のエターⅣに乗っていた。 ライルはそれそ避ける。だが、避けた先に現れるジータがトネール・クールを構えて突っ込んで来る。


 

ライル「くそ、やる」


ジータ「貰ったよ。 L.S.E.E.Dの隊長さん」



 脇ががら空き。 受け身を取ったアルバは隙だらけだ。ジータの経験上確実に取った。






 その頃エールス艦長の元には、先に出た、ニルスから通信を受けていた。


ニルス「艦長、これは引いた方がいい。なにか変だ。無傷で引いたギエン隊も気になります」



エールス「それは私も同じだ だが、この状況をどうにかしなければ、引くにも引けん。それより、ライル君の援護をしてやってくれ 」



「ライル? ライルってあの青年の事か? なぜ彼が? こちらには来ていませんが」



「何だって?!」


 

 エールスは大慌てだった。 格納庫内でも放送を聞いていた皆が心配していた。



ニルス「おいおい、違う方向に出たってか! てか、待機じゃ!!?」


 ニルスは危険な念を覚えた。


エールス「分かっている。 だからだよ、あせっているんだ。 こんな時に……」

 

グロス「いいじゃねぇか、艦長。 あのガキあれだから面白れぇ」


 グロスが無線に割り込む。


「すまない。 グロス面倒見てやってくれるか」


「艦長の言うことなら喜んで。 この新型で助けに行きゃいいんでしょうが」


「面倒を掛ける」


「なーに、これも面倒見る俺らの役目ってか」


 グロスはニフティーのハッチを絞めた。 ニフティが起動する。 


『こんにちわ。 私はニフティー。 Dドライブの認識を確認しました。 あなたが、新たなパイロットですか?』


 ニフティーに内臓されている、音声が問い掛けてきた。


「何でぇ、いっちょ前に。 ほんと最先端の機械って感じだなぁ。 あぁ、そうだけど、早く動かしてくれ」


 グロスは最先端のアームズドールに関心しながらも、ライル救出に急いでいた。


『かしこまりました。 操縦者の認識をします。 お名前を教えてください』


「なんだ?! 名前、そんな事聞いてくんのかこれ、 グロスだよ、 グロス=グレー――――」


『認識不一致。 グロス、 あなたは認定パイロットではありません。 操作すことはできません。 降りてください』


 グロスは耳を疑った。


「こいつ、俺の名前聴いといて、途中で話切りやがった……、 てか、動かせないってなんだよ!!」


 グロスはこみだす怒りをぶちまけた。 その後ニフティの通信機器を使ってエールスに繋いだ。


エールス「何?! 動かせないってどういう事だ」


グロス「知らねぇよ。 このロボットが駄々こねてやがんだよ。 何しか俺じゃ駄目だと、うんともすんとも動きやがらねぇ。こりゃお手上げだな」


エールス「そんな悠長な事言っている場合か! 敵が、さらに攻めてきているんだぞ」


 ニルスから全体通信が入る。





 地球の支援は全く役に立っていなかった。 いや、宇宙の技術に全く持って及ばないのだ。空からはどんどんと敵の艦隊が下りてくるのが見えた。それを見た地球人は「宇宙人の侵略だ!」「もう、地球が終わる」と嘆き、戦線放棄する者も居た。

 その数10隻以上。地球の人々はこの時大きく輝く星々を見上げた。




ジータ「ぜってぇ落とす」


 ドメイク、ジータ、スラックの連携攻撃に苦戦を強いられていたライル。


ライル「う、動きさえ止められれば」


 ジータの撃つミサイルランチャを交わせば、次はドメイクの槍が、その腕をライフルで撃ち落とそうとするライル。スラックはそこを見落とさなかった。


スラック「ふん、爪が甘いな、この隊長さんはよ」


 スラックの持つフォトンソードが、ライルの急所を狙う。


ライル「くそっ」


 ライルは力いっぱいバーニアを噴射させた。


スラック「何!?こいつ、この状況で、足一本だと」


 ライルのアルバの左足を切られたが、コックピットをやられる事は防いだ。


ジータ「何やってんだ。 させないよ」


 距離を離そうとするライルにジータは待ったは張らせない。 ミサイルランチャーを捨て、実弾を連射する。


ライル「う、うわぁぁ。 マシンガンだと? 動きを止めるつもりか」


 アルバの装甲も実弾一発では貫くことは難しいが、当たれば確実に大きくへこみが入る。


ジータ「ちっ、玉切れ、こんな時によ!」


 撃ち尽くして追いかけるジータの弾が切れた。 今なら行ける。そう思ったライルはライフルの昇順を合わせる。


ジータ「うわぁぁ」


ジータの機体に全てのライフルが当たると小さな爆発を起こし落ちて行った。


ドメイク「ジータぁぁぁぁぁぁぁ」


 ドメイクが投げた、槍がライフルに当たり、爆発。ライルはその爆風に当たって飛び退いた。ドメイクは急いで被弾したジータのエターへ駆け寄る。 ジータが落とされた事にスラックが驚いていた。


ドメイク「大丈夫かジータ」


 通信回線のモニター越しに映るジータは、頭を打ち、血を流していた。ジータのエターⅣは右腕肩部からと、その奥のバックパックに損傷を受けて飛べなくなっていた。


ジータ「大丈夫さ。 それよりアイツ、おちょっくているのか、わざと外しやがった」


ドメイク「何だって!?」


スラック「ドメイク、ジータ! 無事か」


 スラックが通信回線に入る。2人の無事を確認すると、後退するように伝えたが、復讐に燃えるドメイクが反対した。


ドメイク「アイツはリラルドの仇だ」

 

スラック「解っている。 だが、このままではジータまでやられてしまうかもしれん。 武装が尽きたお前らは、いったん下がれ。 俺が追う」


 ドメイクは了承して、ジータを背負って引き返した。


この時スラックはライルとの約束を思い起こしていた。自分たちが持ってきてしまった戦争を早く終わらせて、引き揚げさせる。 そのためにスラックは一人走った。



「く、まずった、いきなり、囲まれるなんて」


 とんだ矢先に災難にあったとライルは卑下していたが、逃げる二人をライルのカメラは捉えていた。


「な、なんだよ、あの光……」



 逃げる二人の遥か上空。夕暮れ染まる青赤い空に、無数の光るものが見えた。 その光景に絶句する。

 壮絶な光景はエールス達も確認していた。


 何十と言う艦隊がこちらを向いて、地球に向けて近づいてきているのだという事。


ライル「な、何だよあれ。 また、降りてくるってのか? しかも2つや3つじゃない」


 

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