第21話 男との出会い


 一人の女の子がバイクを降りた


兵士「なんだ、ガキ。 ここはお前のような奴が来るところじゃないぞ」



 地球にも軍隊はある。 その一つに期待された一人の兵士がいた。 ローイ・マルクス隊長。


 彼は幾多の厳しい訓練に臨み、そして、戦場でも類前れない成果をもってして、ここ防衛隊に配属された。 兵士であった。 まだ若くして優しさから人望熱く、彼に逆らうものは少ない。 



 そんなツインテールをした女子は兵士たちに馬鹿にされても、なお動くことはなく、その場に強い眼差しで立ち続けていた。 


 彼女が話す言葉は一点のみ。 『私を入隊させてください』


 ただそれだけだった。  


 彼女はいいバイクを持っていた。 それもそうだ。 相当の長旅をしても、ガタ一つ起こさなかったバイクだ。 彼女の思い入れのバイクでもある。 それを兵士が、傷つけたものだから、彼女は初めて、兵士に向かって蹴りを入れて蹴り飛ばした。 


 兵士はそれに怒りを覚え女子を殴ったが、そこへたまたまそれを目にしたローイが現れ、彼女を救った。 

 事情を話した彼女は、宇宙から来た奴らと戦いたいと話、その強い意志に、昔の自分を重ねたローイは、入隊を受け入れた。 最初は拒んだ。 彼女の家族が心配するからだ。 いい職業でも決してない。 彼女は、帰るところなどないと言ったものだから、即入隊となった。 




 ライルは追いかけてくるドメイクと死闘になりながらも、隙をつきドメイクのエターをたたき落とすと急いでファクトリーを目指した。



 サーゲンレーゼは猛攻でなかなか発進する隙が無く、機会をうかがっていた。

 何とかニルスが防いでいるが、一人ではどうする事も出来ない。

 

 という風にも見えたが実はサーゲンレーゼが出れなかった理由は、エンジンのトラブルである。



 何とか時間を稼ぐもスラック達の猛攻に手も足も出ないニルス。


 やがてライルのプリーマが援護に駆け付ける。 

 

 最初はそれがグロスと思ったものだから、ニルスの士気も上がったが、助けられたのがライルと知ってか、戦況が一変する。



シノ「こんな時に喧嘩なんて二人とも、何やってるの!! 

 エンジンはまだ動かないの?」



 スラッグ隊の連携はすさまじく、ライルも上手くプリーマを乗りこなすものの、それには限界が見えた。 


ニルス「お前何やってる。 早く戻って新型に乗ってこい」


ライル「あれには乗らない。 こっちの方がいい」


ニルス「何ふざけたこと言ってんだ。 この状況がわかってないのか? 向こうは本気で来てるんだぞ!! 」

 


 ライルはプリーマで戦いぬくが、それがあだとなり、ファクトリーが攻撃を受けた。 それは脆く崩れ去るように雪崩れ落ちた


 もちろん中にいた、イワンやロデル達も下敷きになった。 



スラック「敵の箱船が見えたな。  よし私も出ようか

 これで最後だ」



 ライルはその光景に目を疑ったと同時に、ジータに切りかかる。 


ジータ「なんだこいつ急に。 怒り狂ってるってのかい? そりゃ仕方ないよ」


 ジータも反撃をする。  そこに加勢に行かんとするリラルド。


リラルド「やらせねぇよ。 ジータはよ」


ジータ「リラルド」


 ニルスもすかさず加勢に向かう。 が、ライルの乗っていたプリーマはずたずたにやられた。 


ライル「脱出レバー!!」


 ニルス対4機のAD。 厄介な2機だけでも手負いなのに、さすがのニルスも死を悟った。 ぼこぼこになったアルパも、限界である。



ジータ「死にな。 これで終わりだよ」



 その時だった。 ジータの横をすさまじいレーザー砲が流れる。 

 誰もが驚いた。 景色の色が一瞬にして青白に染められたからだ。


 ジータの機体の横すれすれを走ったその砲撃はそのまま後ろの戦艦を直撃した。


兵士「スラック様。 被弾しました。 これ以上の被弾は艦が」


スラック「ぬかったか。 艦を下げろ。 後は俺が出て何とかする

 ギエン隊に交信をしておけ」



 スラックは艦隊を下げ、場には5機のアルカーナADだけが残った。



リラルド「ジータ!! 大丈夫か」


ジータ「何大丈夫さ……。 ……当たっちゃいない。 けど……、なんだ……?、この威力……

焼ききれた? 磁場制御がいかれた!?」



スラック「あの砲撃、あの時の箱舟の……。 いや違う、それにしては角度がおかしすぎる。 と言う事はあの新型か。 やってくれる」



 ライルはエクリプスに乗って、出力を押さえ切ったライフルで二人を狙い落す。



ジータ「うわぁぁあぁぁl」


 磁場制御がいかれたジータの機体は狙いやすい。 


リラルド「あいつ。 ジータを! やめろこの野郎!!」



 行かせないと、そこに止めに入るのがニルス。 


ニルス「お前らこそ。黙ってここで落とされろ。 一対一ならまだいける」



リラルド「くそ、邪魔するな。 死にぞこないの機体が」



ジータ「くそ、制御が効かないよ」


 ライルは怒っていた。 もしかしたら、ロデオやイワン達は。そんな心配から早くこの状況を打破しようとした。

 ジータをとらえ引き金を引く。 しっかりと捉えた。 



 ジータは飛んでくる光線に目をつむった。 


リラルド「ジータ―――――!!」


 機体に着弾。ジータの機体は跡形も爆発するはずなのに、機体は2機に増えていた。


 防がれたのだ。 一機の機体によって。 サーゲンレーゼに大打撃を与えた、機体。 プレゼンテ。 そいつがジータの代わりに当たった。

 


スラック「ふぅ、 俺の機体のシールドを積んできて正解だったぜ。 それでもこれかよ……」


 プレゼンテの左肩は完全になくなっていた。



ニフティ「エネルギー残量が残り55%です」



スラック「あともうちょっとってところか。

 これじゃギエンに怒られちまうな。


 見たところ、ドメイクも落とされたか? なぜこうも落とせない。 

箱舟≪あいつ≫は動かないというのに!!」



 スラックはしぶしぶ退却を命じた。 


ジータ「いやだよ! あたしはまだやれるよ。 つぶしちまおう。 もう敵は敗戦寸前さ」



スラック「我々も、敗戦寸前だ。あの砲撃で、もし負けてあれを上げてしまったら、わかるだろ? 我々が出てこれだぞ。 ニストル様の脅威になる。 ここは引く。 生きてればまだチャンスはあるさ」



 スラッグ隊はそのままジータを抱え退却した。 



サフィー「ライル君! ニルスさん! 大丈夫ですか? 」


 声の先は天高く浮遊するサーゲンレーゼ。


ニルス「なんだよ。今ごろ上がりやがって。 おせぇーんだよ」


 脅威が去って落胆するライとニルス。 


 だかライルはすぐにファクトリーのがれきをどけ始めた。 


ライル「ロデル! イワン!」


 瓦礫に下敷きになった二人を見つけ助け出すライル。 二人は意識不明の重体だったが、上級都市の病院に運ばれることとなった。 


 ライルはこの後もニルスから責められた。 エクリプスに乗らなかったことを。 それが原因で危険な目にあったことも。 今回ばかりはライルも、反論できず飲み込んだ。 自分のせいで、ファクトリーも大事な家族も失ったかもしれないからだ。  


 二人が死んでしまったら……。


 ライルはまた自分のせいで大切な人を殺してしまったと思い込んだ。 


 そんな深い傷をいやしたのが、クレイドだった。 彼女はいつでもライルを優しく包んでくれた。その明るさで、優しさで。 そばにいてくれた。 そして、一緒に、荷物を背負おうとしてくれるのだ。 だからライルは心を壊さないで居れる。 



 サーゲンレーゼはそのまま上級都市に移動した。 軍部からの連絡もあり、上級都市で話し合いが行われたのである。 


 現状を説明して、空に上がれるエンジンがないことを知った連合政府は、急いでシーキュウナ隊を宇宙に上げるために、作戦を実行する。 

 

 L.S.E.E.Dは地球に、物資を送る部隊と、地球側と交渉した兵力を送るため、軍隊を投下するという事だった。


 作戦内容は、地球にある資源で発射台を作り急ピッチで、打ち上げ台の上を走らせ、その加速力をもって連合政府の送ったロケットでサーゲンレーゼを宇宙に打ち上げるというものだった。 


 これは大がかりな作戦である。


 これにはエールスも反対した。 なぜなら、シーキュウナ隊の疲労がここばかし半端がないほどたまっているからだ。 連戦続きに、船の修理、挙句の果てに、ままならないエンジンで急いで宇宙に上がり、戦線に参加しろというのだから。 


 エールスの怒りも募るばかり。 上は横暴ばかりを言っているようにしか聞こえない。 


 だが上は、それ以外の回答を受け付けはしなかった。 


 こうしてサーゲンレーゼは上級都市でかくまわれることになる。 

しかしそのおかげで、ライルのファクトリーよりも、まともな整備が受けられることとなった。 


 この大がかりな作戦に手を挙げたのは、地球持っての大手企業の一つ輪島電工とシャース・セレフィック社。 そして中小企業であるエタニティーの共同開発となった。


 



 地球の官房長官に呼ばれ、防衛隊と言う、地球では特別な部隊と顔合わせをするシーキュウナ面々。

 

 上級都市には隊長のローイと、その部下として、女性の若い兵士と数人が訪れていた。


 彼らがサーゲンレーゼとともに戦う部隊だという。 といっても地球の兵器は歯もたたない。

 どう守るのかといえば、戦うのは物資が届くまではシーキュウナ隊のみという事である。 



 しかし、ローイは自分たちが荷物と自覚していても、戦う所存だと敬礼をした。

 まじめな男ではあったが、シーキュウナ隊は誰一人として、信用などしていない。


 こうして防衛隊は部屋を後にした。


エリ「なんなんですか、あの隊。あの目。 私たちの事をまったく必要としていないというような感じで」


ローイ「仕方ないさ。 彼らの装備も何もかもこっちとは違うんだ。 実際、今の我々ではきっと足手まといがいいところだ」


エリ「いけ好かないです。 自分たちの方が強ければ、見下すなんて」


 ローイは苦笑いを浮かべた。 隊を連れて、長い廊下を戻って行く。





スキャットマン「はぁ、結局のところ、もつんですかね? 俺たち」


ジャン「確かに。 アレスティアラ戦線が落ちたとなると、こちらの被害は相当かと、絶望的ではないんですか」


スキャットマン「国が落ちるってことも……。

 それで、宇宙まで上がってこいだの、地球に来た奴らを蹴散らせだの。 俺たちをなんだと思ってるんだ。 上の軍部は。 最初っから俺たちを戦線から外さなければ」


ニルス「確かに今回の事はふざけすぎている。 我々は要と聞いてはいたが、事態が事態だけにしかたがないのか…… そこまで追う必要があったのか? あの機体一つに翻弄された気がしてならない。 我々があの宙域にとどまっていれば、サギン大将も……」



スキャットマン「で、大丈夫なのかよ。 こんなボロボロの状態で、あいつら相当強いぞ。ニストルもいるんだろ!? 本当に俺たちで戦えるのか?」


 シーキュウナ隊も不安でいっぱいだった。

 




 連合政府がシーキュウナ隊を急がせたのも、アレスティアラ戦線で負けたことが、連合政府全体を追い込む事態になっていたからである。


 宇宙でも戦争は止まらない。



兵士「エリク中尉。 こちらの仕掛けは終わりました」


エリク「よくやった。 お前たちは戻れ。 どれ、22≪ニーニー≫部隊、行くぞ」


 エリクたちは次々に作戦を遂行、駐在する連合政府部隊を蹴散らしていった。

 銀色のルネディに似た機体が銀河をかける。


パレミー「ねぇねぇ見て、シダン! きれい」


シダン「あぁ、星が光ってる。 俺たちも負けてられない。 


 ……エリク中尉…… どこまで戦火を上げるんだ。……俺だって!!


 全部隊に告げる。 攻撃を仕掛けるぞ」



 ピンクの機体と鉄紺色の機体。 その後ろを隊列組んで無数の星が流れ、そこで沢山の花火が上がっていく。


パレミー「あはは、ちっちゃえ! ちっちゃえ! やっちゃうんだから」


 あまりの猛攻、知らずの兵器の出現の数々、そしてその機体。それは情報以上のものであった。 


 主戦力であった防衛攻撃部隊L.S.E.E.Dが散っていく今、連合政府もあたふたせざるを得なかった。 


連合政府上官「なんだ、あ、あの兵器! あんなもの聞いていないぞ」



 彼らが持ってきたのはでかい、ソーラー粒子砲。 その気になれば、遠くのアークシップの2つや3つ簡単に落とせてしまう、レーザー砲である。


 その攻撃は無数のL.S.E.E.D艦隊を一気に消滅させた。



 ニストル達はシンジゲートを通してある会社にこの日のためにと、多額の費用を費やし、開発の準備をしてきた。 


 シンジゲートとは、共同販売を行う企業連合。また、その中央機関である。


 公社債や株式の発行を引き受けるために連合した銀行など金融業者団もいる。国ではないが、大きな社会を動かす一員の一つといってもいい。


 アルカーナのほとんどの兵器の主戦力を占めているのがシャフマという会社である。 もとは小さな会社だったが、ほぼアルカーナ専属といえるほどの会社に上り詰めた。 




 連合政府の部隊が次々と白旗を上げ、陣地を撤退していたのは、エリクたちの行動からである。 そのすさまじさから、流星のエリクという異名がつくようになったのもこのころからである。 


 その気質は最初からあった。 誰しもが、何か違うものを持つと感じるほど。

 

 決して誰も口にはしなかったが、皆が出世頭であることを思っていた。 それぐらい賢く見えていたのだ。

 

 ニストルのさらなる脅威として、エリクもまた連合政府から恐れられる名となっていくのである。 



 特に度肝を抜いたのが、艦隊15隻を相手にたった一人ですべての艦を落としたのは衝撃を走らせた。


 すべてのブリッチを目の前で撃ち抜くという単機突撃など、誰が成功させれるものか。 それもADが何十といる戦線で、それを抜けて戦艦に突撃したことになる。 どれほどの速さで進んだというのか。

 アルカーナが突破するのに苦戦しいていた、その戦況を変えた戦いであった。

 なんせ、この戦争では新型兵器の数々はあれど、数で言えば圧倒的にアルカーナは弱者である。

 そんな中で、彼は難攻不落の巨大門に穴を空け開門させたのである。


 この戦いによって、宇宙の全宙域に占めるほとんどのアークシップがアルカーナ軍によって占拠された。 これは実質、ニストルの作戦あってのものでもあるが、連合政府は後がなくなってしまった。 


 ニストルの脅威。 世に知らしめられ語り継がれていく。 戦いの一つ。


 戦艦から外を眺めるアルカーナ兵たち。 


 外は戦艦の残骸でいっぱいである。 その先には一つの黄緑色の惑星がある。 連合政府本拠地のある惑星。 ここが戦争を終わらせる最終地点。 王手を取ったも同然。 


 宇宙で惑星を持っているのは連合政府だけである。 この中にも数数個の国がある。







 地球ではスラック達が戦っていたころ、ギエン隊に頼んでの植民地化が進んでおり、すでに、一つの県ができるほどにそれは進んでいた。 


 そのおかげで地球の上級都市に集まるはずの物資に、低迷が起こっていた。 ネクサスもその被害の一つであり、武装が弱体していく。




 上級都市からの命令で部品の調査と調達に向かわされたライル達は商地区でお茶をしていた。


グロス「どういうことだよ? この町はやけににぎわってるな」


クレイド「そうですね。 なんせこの町は上級地区に部品を提供してる場所なんで。 互いに助け合ってるって言えばいいんですか? でもこんなに豊かでもなかったけど」



ライル「こんな最新機器とかもあったか? 町の古さに、似つかないものだけど? 急な経済発展を遂げてないか? どうなってるんだ?」



 ライル達もあまりの町の利便化に不信を抱きながらも、目的を達成する。 

 店主に聞いても、これが商地区だと言って、特に何も教えてはくれなかった。 

 ただ生き生きとする人たちはとても、この暮らしが素敵であるものだと彷彿させていた。 



 そんなとき、一緒に来ていたニルスが敵の軍服を見つけたとして、連絡してきたので、皆慌てて、ニルスの場所へと向かおうと車を目指した。 


 ここにアルカーナが入れる訳がないのだから。 何か企んでいるに違いない。 

 そんな時、転んで泣く子供を起こしに行ったライルは、気が付いた時には一人取り残され、 皆車で先に行ってしまっていたことに気づく。



ライル「え? まじかよ」



  ライルは一人、とあるバーに入った。 中では騒ぎまくる客でいっぱいだった。 まるで、上級都市のように。食って飲みまくる客ばかり。 

 まぁ、客層は上級都市とは違うみたいだが。




 ライルがカウンターへ着席するとしばらくして、一人の男が絡んできた。 だいぶ酔っているみたいで 、男が仲間の席に行こうとした時、ライルの背中に、腕をぶつけたのだ。 



酔っ払い男「あぁ!!?? 痛いじゃねぇかこのガキ!!」



 悪酔いもいいところで、ライルは絡まれた。 めんどくさかったが、ライルが腹にこぶしを貰うと、床に倒れた。 酔っ払い男の連れも集まってくる。


 ボコボコにされ、そのまま胸座をつかまれた所で一人の男が入ってきた。 その男は現場を見ると、ライルを下すように言った。 


 酔っ払いは言うことを聞かず、嘗めた口をたたいていたため、相当素敵な笑顔のその男は、彼に拳をくらわすと、かかってきた仲間すべてを伸ばして、彼らは店を逃げいてった。 



男「大丈夫か? 若人」


ライル「……ありがとうございます」


 ライルは口元に手を当て、垂れた血を拭った。



男「あぁ、いてぇな。  どれ消毒するか。 マスター、あの強い奴を、俺とこいつに」



マスター「あいよ。 だけどよ、その若ぇの、大丈夫か?」


男「大丈夫だよ。 消毒するんだ。 これは俺のおごりだ」



 消毒と言って出されたそれは、ショットグラスに入ったお酒だ。 男はそれをググっと飲み干すと、マスターはまたそれを注ぐ。



男「どうした? 飲まねぇのか?」



 ライルは恩もあり、その酒を飲んだ。 切れた傷口が染みる。 いや焼けるように痛かった。 そしてライルは酒を吐くと、顔を真っ赤にしてせき込んだ。 

 目は充血して涙目になっていた。  


 それを男は笑って楽しんでいた。 



マスター「ほら、だから言ったんだよ。 大丈夫か? ガキ」



男「おい、大丈夫か。 ちょっと度が過ぎたか。 悪い。 マスター水を急いで持ってきてやってくれ」


 ライルは態勢を戻すとガラガラする喉を押さえ男を見る


ライル「ゴホッ、ゴホッ、 な、にが、消毒ですか、ゴホッ、」



男「悪い悪い。 お前こんなとこで飲んでるから、てっきり行けると思ってよ。

 だけど、アルコールは殺菌にいいんだよ。 嘘じゃねぇぞ」



 ライルが飲んだのは、酒でも、特に度数が高すぎるで有名な酒であった。 もちろん、ライル達がいるような地区で飲める酒ではない。 



ライル「やば、い、喉が、おかしい、」


男「あぁ、まぁ、仕方がないさ。 ちょっと焼けちまったのかもな。 一気に行きすぎなんだよ、お前は。 大体な。 知らない酒なんて、一気に行くもんじゃねぇぞ」




 ライルは苦しそうにしていた。 男は介抱しながらライルと会話を楽しんだ。



マスター「でもあんたすげーな。 この酒飲み干せたの、あんたが初めてだぜ。 みんな口に含んだ瞬間。 苦しみだすんだ。 それをうちのでかいショットグラスで飲み干すなんて。 


 こいつは、スラックしか飲まねぇよ」



スラック「なぁ、だから言っただろ。 こいつはガキじゃねぇんだよ。 な!

 ところで、なんでお前ひとりでここに来たんだ? あんた名は?」


ライル「ライルだ。 ちょっと訳ありで……」



 ライルは押しに負けるように、今日の出来事を話した。 


スラック「お前、仲間に置いて行かれちまったのかよ。 さびしいなそれは」


 スラックの大笑いにむすっとするライル。 二人とも酔っている。 なんせスラックはあのアルコール度数155のスコッティーイビルを6杯飲んでいる。 



ライル「おっさんこそ、 一人で来てんじゃねぇか、 人の事言えるのかよ、ヒックッ」



スラック「うるせぇ。おめぇと違って、これからここに仲間が来るんだよ。 お前みたいに一人身じゃねっての。


 あぁ、おめぇ、俺らと飲むか?」



ライル「いや、いいよ、ついていけるかわからないから。 その割には、一向にお仲間さん見えないけど? 強がりなんじゃないだろうな?」


 ライルもスラックから沢山酒を進められていたので、頭がうまく回っていない。 


 最初は楽しい話も、語るうちに、親密な話になっていた。

 


スラック「おめぇ、この町でも、争いとか耐えねぇんだろ? 戦って生活守って。 大変だな」


ライル「そうしなきゃ、じぶんが死ぬんだ。 大切なものを守るためにはやらなきゃならない」



スラック「えらいな、お前は。 俺なんか全然吹っ切れねぇ。 いまだに、悩むよ。 人と戦うなんて」



ライル「あんたもジンクス乗りなのか?

 ほんとだよ。 戦争なんて絶対に嫌だし。 したくもない。 俺だって嫌さ」



スラック「なんだよ? 嫌々戦ってるってか? てっきり、人を殺すのに魅了されてるのかと思ってたがよ」



ライル「人は殺さない。 無駄な命なんてないんだ。 俺はなるべくなら、奪いたくない。 全部争いを起こしてるのは自分の事しか考えてない奴らだろ」



 スラックはそれを聞いて、何かをライルに見出していた。 


スラック「お前いい奴なんだな。 そんな奴が戦ってたら、死んじまうぞ」


ライル「俺の手はもう汚れているんです。 いつ自分に降りかかってきても覚悟はしているつもりです 」


 スラックは自分の環境と照らしては共感した。 まるで自分を見ているようでたまらない。  スラックはライルの手を見ていた。


スラック「お前…… 死ぬなよ」


ライル「死ぬつもりはないよ。 それより、戦争やってるやつの方が気がしれない。 宇宙の奴らは殺し合いなんかしてんだろ。 そんなもん地球にまで持ってきて。いい迷惑だ」


 スラックの顔が曇る。


スラック「俺もよ、世界を平和にしたいんだ。 争いがなく、なるべくみんなが笑っていられてる世界に。 だから戦うしかないんだ。 俺だって戦争すんのは大反対だよ」


ライル「あなたもいい人なんだ

 だから……戦う…… 争うことでしかそれは実現しないのか…… 殺し合わなければ……」



 二人の意見は互いに一致し合うところがあった。どちらも優しいのだ。 お互いが、その理想に共感しあった。

 だからこの人なら、心を開けるような、そんな気がした。 


 スラックはライルに一緒に平和な世の中を作らないかと提案したが、ライルはそれを断った。 自分にはそんな大それた力はないからと。 だがこの日、確実に二人の絆は深まった。


 そうこうしているうちに慌てて入ってくるクレイド。 



クレイド「ライル!! 見つけた!! こんなとこで何してるの?? 急いで、逃げるわよ」


 逃げる? ライルは現状がつかめないでいた。 


クレイド「もぉ! めっちゃ酔ってるじゃない!! なんでお酒なんか、 こんな時に」



 クレイドはかんかんだ。 ニルス達は敵ADの襲撃を受け戦っている最中であり、急にいなくなってしまったライルをクレイドが探しに来ていたのだ。 


スラック「おいおい、上さんか? 達者でな、青年!」



 ライルはそのまま車に乗せられると席を離れた。 


スラック「っち、 それにしてもあいつらおせぇな。 何してやがんだ?」

 

 スラックは仲間を待ち続けていた。 彼らがシーキュウナ隊と交戦中である事をスラックが知ることはなく、そのあとこっぴどく怒られるのだった。


 戻ったライルはニフティーに声がおかしい事を指摘されていた。結局のところ、乗りはしたが戦力外だった。



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