第20話 ライルとイサミの約束

宇宙ではすでに、ニストル達が行動を起こしていた。 一つのアークシップ。 そこでは平和に子供たちが遊び、大人たちが温厚に暮らしていた。 


 ここは、縛りなどない。自由であり、何をやっても構わない。 ただし

罪を犯せば、罰則は食らう。 公平の場で裁かれ、その罪状を定められる。 しかしながら、裁判官が定めるのはそこまで、あとの刑や処罰の内容に関しては被害者や、その身内が決めるのだ。 

 

 一人身や、被害者が亡くなるなど、刑を下したくない、またはどう探しても居ない者のみ、しきたりに従い裁判長が極刑する。



つまり、この国は、人が嫌がったり、迷惑な事をし続けなければ、変に言うと何をしてもいいのである。 

 だが、誰も他人に迷惑がかかるようなことをしようとする者はこの国にはいない。

 そんな人たちが集まって作った国だから。 


 それもある。 それ以上に、もし迷惑している人が増えると、それが重い刑罰として法律に加えられていくから、誰もしないのだ。 


 例として、遊具等、乗り物で人にぶつかってしまっても、刑罰にはならない。 だが、それが過度になり、何をやっても大丈夫だからと横暴が見え出す、警察沙汰になると、その行為はこの国では、重い刑罰にすぐさま加えられる。  


 それがどういうことなのかは、この町の人はよく知っているから、しないのだ。 

 つまりは、この国で、迷惑なことをすれば、それだけ国民の、自分の自由が縛られていくということだ。


 自由とは、何でもかんでも好きにやっていいと言うことではない。 皆が規律や、ルールを守っているからこそ、自由でいられるのである。


 そこをわかっているから、この国は自由なのである。 そして意義を唱え、それを目指した国がアルカーナ帝国だ。




 

 その一つに、学校がある。 子供たちは低学年から、仕事について学び関わる。 それはこの国ができてからの事なので、そうした子供たちをZチルドレン、Z世代と呼んでいる。


 つまりは、彼らは今のミレニアル世代の建国者たちよりもはるかに早くから、社会の事を学んでいる子供たちなのである。


 大人になってからの知能の差は歴然である。


 ニストルはそんなZチルドレン達を育てている。 彼らに学びを教え、哲学を説き、より、優しさにあふれた人間を作ろうとする為に。


 今日もここで学びを教える。 そんな中で親しくニストルに懐いているのが、シダンとパレミーだった。  


 教員は、ニストル様はお忙しいなか来ていただいている。と念を強く押し紹介する。 ニストルは慣れたように出席を取り出す。  


ニストル「シダン=ドドゥウィート」


「はい!」


ニストル「いい返事だ」


 シダンは優等生や、真面目そうというのがよくわかるような返事の仕方。 それも、ニストルに憧れを抱いているから、余計に強い返事となった。



ニストル「スフィア=グレイト」


 ニストルは次々に名前を呼んでいく。


ニストル「パレミー=ルゥ」


 小さな可愛い女の子だった。 この学校に学年はない。 といってもパレミーはティーンエイジャーだが。



 名前が呼び終わると、哲学が始まる。


ニストル「なぜ人は、人のためにと幸せを求めるのか?」


 教室はざわつきはせど、ニストルが黙っているとやがて、静寂に包まれる。


 そうすると、その問いに答えたのは一人だけだった。


シダン「それは、みんなが幸せの方が、嬉しいからです」


ニストル「ふーん。みんなが幸せ。 それか可能な事かい?」


シダン「はい。可能です」


 シダンは自信満々に答えた。 皆がそうする事で、思いやることでそれは実現できると。 


 それはそれは、きっと空想では可能だ。


 と、ニストルは説いた。 


 では、現実の話をしてそれは可能かとニストルは問う。

 シダンは自信満々にできると答えた。 どうすればよいとニストルが聞くと、シダンは、先ほど同様に、皆が思いやればいいと答えた。 


 それに対してニストルは答えを返せていないと、答えた。 それは具体的にどうする事で現実しうるのか、具体例を出してほしいというと、シダンは黙った。 



ニストル「んー何もないところでは例えが難しいか? では、例を出そう。

 世の中にはいろんな立場の人がいる。


 例えば、三人の登場人物がいる。 一人はとても裕福でお金持ちだ。彼をAとしよう。 しかしもう一人はとても貧乏人だ。彼をBとし、今回事件に巻き込まれ、困っている人をCとしよう。


 さて、君はAの立場だとして考えてくれ。 もちろん、税金や、罰則などは今と同じと考えてくれ。 さて

 Bはそんな君に、会社設立の話があり、明日までに出資をお願いしてきた。 これで子供たちを食わせていける。飯の食えない生活とはおさらばだ。 これを逃せば餓死の道は避けられない。  しかし、そのあとすぐにCの事を知ってしまう。 今すぐ金を用意しないと、命を取られ、彼らの家族はばらばらに引き裂かれ、ひどい仕打ちを受けることになると、懇願してきたのだ。 しかし、君には、どちらかしか救える額を持っていない。 さらに払えば、君はBと同じ立場になる。


 さぁ、君なら、どうしてみんなを幸せにするんだ?」



 シダンは考えたが、それに対する答えを持ち合わせていない。 シダンは最終的に自己犠牲の道を選択した。


シダン「それなら、俺がCにお金を払って、稼ぎながらBに出資します」


ニストル「それは不可能だろう。 二人とも明日必要なんだ。 それ以外の選択肢はない。 つまりは、無理という事かい?」



シダン「なら俺が何とか話をつけて伸ばしてもらい、足らない分を肩代わりしてBにもお金を渡します」


ニストル「それではみんな幸せにはなっていないじゃないか?君が肩を貸すということは犠牲になっているということだ。

 それでは君のいうところのみんなではない。 自己犠牲など、人を助けたいと言う心意気はいいことだが、一番してはいけないことだ」



シダン「どうしてですか? それで人は助かるのでしょ? だったら、」


ニストル「なら、君は嬉しいかい? 胸を張れるかい? 自分の今の幸せは誰かの犠牲で成り立っていると知って、自分の代わりに苦しんでいる人を見ながら、その生活を楽しめるのかい?」


 シダンは本当に黙ってしまった。 そこでチャイムが鳴る。  授業の終わりだ。 


ニストル「さて、今回はここまでにしよう。 難しい質問だったな。 ありがとう、シダン。 答えてくれて。 だが知ってほしい、この世界ではこれ以上にこんな問題が山ほど起こっているんだ。 だからこそ我々はどうすればいいのか。

 果たしてこの世界は本当に平等か? 

 今現実で起こっていることから目をそらさないで考えてほしい。


 みんな、あとは宿題にしよう。 それぞれの思うことをレポートにしてくれ。 今日はありがとう」




 そう言ってニストルは出ていく。 



パレミー「あーぁ、答えられなかったね~ 」


シダン「お前は、発言すらしてないだろう」



パレミー「だって、難しいこと私、わかんないんだもん。


 ねぇねぇ、この後、ニストル様のところ行くんでしょ?」



シダン「もちろんだ! 行くに決まってるだろ」


パレミー「じゃあ、早くいこう!! 」



 二人は駆け足で教室を後にする。






 ライル達が、パーツを持ち帰り、ファクトリーを目指してる時だった。



 リラルドとドメイクがエターに乗って突撃してきた。 ライル達はその猛攻を受けていた。


グロス「なんでまた、あいつらがやってくる? つけてやがんのか? しつけぇな」


エールス「グロスさん! 頼むぞ」



リラルド「見つけたぞ」


ドメイク「あのでっかい方に新型があるんだろ。 絶対出させねぇ」


 ドメイクはライフルで、エクリプスが乗っているであろう、牽引する車両を狙って撃つ。 車両が横転することで、グロスはADと引き離されてしまう。 



リラルド「近づけさせるか!!」


 発砲が続く。


グロス「これじゃ近づけねぇ」


  頼みの綱のグロスがADに乗れないと来たことで窮地に陥る。 


 そんな時、一機のプリーマがリラルドのエターを殴り飛ばす。 



リラルド「なに? あれは新型じゃないのか? 」


エールス「どういうことだ? どうしてプリーマが動く? 誰が乗っているんだ?」


グロス「?? もしかして……! あんのガキが乗ってんじぇねぇのか……」



 ライルはプリーマに乗って二人を牽制する。 



ライル「この機体。 動かしやすい。 ニフティに乗ってるより、自由が利くぞ。これならいけるかも」



 武装していたプリーマのライフルが火を噴く。


ドメイク「動きが素人か」


 乗り始めは押されていたライルだったが、慣れてきたのか、牽制されるのはエターの方だった。 何せ出力の加減等がエクリプスより取りやすい。

 ライルは気を遣わずに戦うことができたのだ。 



リラルド「なんだあのパイロット。 当ててくるぞ。 くそあいつは危ない

 ここでやられてはまずい。 引くぞ」


ドメイク「っち」


 どちらも地球に来てパーツがないのは同じ。下手に機体を失うことはできないのである。 


グロス「おめぇ、やるじゃねぇか」



 ライルは皆から褒められたとき、なぜかとても嬉しくなった。



 みんなが戻り、ライルのファクトリーでは、持ち帰った、素材を使ってエレクやベクトルたちが修理を行っていた。 その間、グロスはライルとAD訓練として模擬戦をしていた。 



 ライルはハンデとしてアルパに乗るように言われたが、ライルはプリーマを選択した。 


 アルパに乗るグロスは、ライルを泳がせていた、 だからはたから見ればライルの一強に見えたが、一度グロスが本気を見せると、すぐに戦況はひっくり返った。 



グロス「まぁ、こんなもんだな。 初めてにしちゃ、素質がある。 いい動きだ。 躊躇のない狙いに、 機体反応。 お前すごいと思うぞ」



ライル「でも、俺が負けた……」



グロス「あぁ? そりゃそうだろ。 なんでお前が俺に勝てんだ。 まずないだろう。 お前勝つつもりだったのか? 俺も嘗められたもんだな」


 グロスは楽しそうに笑っていた。 だがライルの表情は本当に悔しそうだった。 だがらグロスは余計にうれしかったのだ。 昔を思い出すこの現状に。 



グロス「まぁお前は俺に、勝てるようになると思うぞ。 訓練すりゃぁな。 ただなんちゅうか、 お前の動きは今のままだと単調すぎんだよ。 俺達にはな」


 グロスの実力は本物だった。 それは戦ったライルが一番分かった。 ただの酒飲みのおっさんではない。 意味してこの一員にいる。 だから再戦をお願いした。



 しかし、結果は同じこと。完全にライルのプリーマが一本取られる。 ライルは何度も再戦を願ったが結果は同じだった。



 それからは暇があればライルはアルパやプリーマでグロスと戦った。



 エールスから皆に報告があり、じきにサーゲンレーゼの修理は完了するとのことだった。 そのた為、ライル達は食料の調達にでた。



 ある町で買い物に行った時のことだった。 



店主「ありがとうございました」


 ライルが荷物を受け取って店を出た時、一人の女性と入れ違った。


店主「ヤンさんじゃないか! いつもありがとうよ。 今日は何か買い物かい?」


ヤン「いえ、今日はこちらを。 またシュンが見つけてきてくれたんです」


店主「ありがとうよ。 もし何か必要なら言ってくれ。 ヤンさんならなんでも持って行ってくれていいからよ」



 ライルは荷物を持ったままで、車には向かってこず、扉前で誰かを待つように立ち止まっていた。 


グロス「あいつ、何してんだ? 」 


 クレイド達は首をかしげて他の人たちを車で待つ。グロスは運転席の窓から外を見てくつろいでいた。


 ヤンが店から出た時、ライルはヤンに声をかけた。 



グロス「おいおい、あれ。なんだ? さっき店に入っていった女性を捕まえてないか? あいつ……、まさかナンパか?」



クレイド「ナンパ? まさか。ライルがそんなことするよぅ……

 だ、誰? あの人?」



グロス「いや、知らねぇけどよ。 明らかあいつから声かけてたし、あの人店に入ってたの見て、待ってたんじゃないのか? 出てくるの」


クレイド「え……? 本当に、……ナンパ?」


グロス「あ――、どう見てもそう……、みえるよな……」


 クレイドは一目散に車から降りて向かって行った。



グロス「こりゃ修羅場かな。 若いねぇ」



クレイド「ちょっと!! ライ、」


 ライルとその女性はクレイドの勢いに、一斉に振り返る。


ライル「クレイド?」


 ライルは走り出す。


ライル「おお、クレイド。 何してんだ?」



 クレイドが声を張り上げて向かって来たとき、ライルは一目散にクレイドの方へ走ると、そのまま抜いていった。


 そうして車を回してくると、ライルはヤンを乗せる。



ライル「悪いクレイド。 ちょっと用事ができたから、みんなには先に帰っててほしいと伝えてくれないか」



クレイド「ちょっと何言ってるの? ライル!! そんなの駄目だよ」




 いつものクレイドなら頷いて了承してくれる。 なのに、今日のクレイドはライルの知るクレイドではなかった。 車の前に立って、進ませようとしない。 そんなクレイドの姿にライルは困惑していた。 



ライル「え? ちょっとクレイド??」



 そうこうしているうちに、皆が帰ってくる。 


エールス「なんだ どうしたんだ?」


グロス「いや、艦長。それがよぉ、 若い奴の修羅場だわ」


 エールスはグロスが言わんとしている事がわからず、ライル達に直接聞くことにした。 


エールス「どうしたんだい? 何かあったのか?」



クレイド「エールスさん。 ライルが隠れてどこかに行こうとしていて」


エールス「ん? ライル君そうなのかい?」



ライル「別に、隠れてって訳じゃ」


 ライルは顔を伏せた。 見るに、ヤンという女性も顔が笑ってはいない。 グロスのいう修羅場ならばそれもまた、納得は行くが。


エールス「隠していないのなら、行先ぐらいは教えてくれるか?」



ヤン「あの、あなたたちはいったい? 彼の、お知り合いさんですか」



 ヤンは何も知らないようにお伺いを立てる。 


クレイド「そうですけど、あなたはいったい?」



ヤン「わたしは。 ヤン。 イサミ・ヤンといいます」



クレイド「イサミ……?」



 どこか聞き覚えがある名前にそれを思い出そうとするクレイド。 


エールス「そうですか、私はエールス=ノンと申します」


 車で皆が、ライルのもとに集まってくる。 もちろんみんなグロスから聞いている通りだ。 


サフィー「なんか、元気ないですね。 ライル君、どうかしたの?」



ライル「はぁ、車の荷物。 皆さんも気にしていた、あれ、知ってますよね。 それを渡す相手です」



 クレイドは口を押えた。 



クレイド「それって、 まさか、この人が……」


 ライルは静かにうなずいた。 



ヤン「そうですか、 よかったら皆さん一緒に来てください。 その……、うちは皆さんをもてなせる準備はなにもありませんが、と、言うより私も皆さんとお話がしたいです」



 こうして皆はヤンの家へと行くことになった。 


 入るなり、一人の子供がやってきた。 


「おかえりなさい」


ヤン「あら、ただいま、シア」


 その奥から隠れて、おかえりなさいという男の子。 ジュウだ。 どうやら、知らない顔触れが沢山入ってきたので怖がっていた。


サフィー「うわーかわいい」


エールス「お邪魔します」



ヤン「いいえ、とんでもないわ。 狭いところですが、どうぞ座ってください。 今、お飲みものをお持ちしますね」



 サフィーたちはシアと楽しそうにじゃれ合っていた。 しかしライルとクレイドの顔は曇っていた。 


 ヤンが食材をお盆に乗せ持って行こうとした時だった。




ジュウ「ねぇ、それ……僕たちの」


ヤン「こらこら、私たちのはちゃんとあるから」


ジュウ「でも……」



ヤン「すいません。お待たせしてしまって」


 ヤンはトレイに飲み物を乗せて、皆に出す。 パックに入った飲み物で、皆種類が違った。 


シア「わーい。今日はお祝い???」



 シアはそれを見てはしゃいでいた。  いつもよりもテーブルはカラフルで沢山物が並んだからだ。



ヤン「そうねー」


 そう言って、ヤンは嬉しそうに着席する。



ヤン「皆さんも遠いところから来られたんですよね?

 それで、ケイは今どうしてるんでしょう。 あの人ったら、まったくもう。皆をおいてどこに行っているのやら」


 ヤンは笑って心配しているということを伝えた。



シア「えぇぇぇ!!? ケイ兄ちゃんのお友達さんなの! ケイ兄ちゃん知ってるの!!?」



 シアたちははしゃぎだした。 



ライル「……」



ヤン「そ、そうだ。お菓子があるの。 嫌いなものはないかしら?

 なかったら今お出しするわね?」


 ヤンは台所へと向かってお菓子を持ってきた。 なぜがこの場がとても空気が重いことをサーゲンレーゼ隊は感じ取っていたが、何がなにやらわからないので、何も言えずにいた。 



ヤン「それでね、この子は凄く、元気でね、ケイにもとても懐いていて」


 と、シアの話をしていた時、


「ただいま~」


 一人の男が入ってきた。


シア「あっ、シュンにぃ~帰ってきた!!」


 シュンは得体のしれない男たちが沢山いたので驚いて、持っていた棒を構える。



シュン「誰だ!!!お前ら!!!」



ヤン「シュン! やめなさい。 彼ら、ケイのお知り合いの方よ」


シュン「え? ケイ兄ちゃんの!! それほんとか!? それは、失礼を…… すいませんでした」



エース「いやいや、大丈夫だが、 そのケイという方は?」




ヤン「あ、そうでしたか、 てっきり私ったら、皆さんケイのお友達さんかと、ライルさんのお友達さんだったんですね。 ちょっと待ってくださいね。 ごれがケイです」




 ヤンはテーブルの真ん中に、彼らみんなが移った家族写真を置いた。



サフィー「わぁー子供さんが三人も」


シア「これが私だよ。 でね、こっちがジュウ」


クレイド「ほんとだ。 二人ともかわいいね 

 あれ? 一人いないけど、どこかお出かけ?」


サフィー「ほんとだ。 この人もいないから一緒にどこかに行ってるんじゃないかな?


 にしてもとても仲よさそうな写真ですね」


エールス「ライル君それで、」



シュン「それで、ケイ兄の知り合いって。 ケイ兄は? 今どこでなにしてるんですか? 俺ら、変な奴らが、攻めてきて、どれだけ心配していたか。

 あれだけ出るなって言ったジンクスファイト。出てたら本当に怒ってやろうと思ってたくらいで。 まさかとは思うけど、出てませんよね? 帰ってきたら全員で怒ってやろうってヤン姉たちと話していたんですよ。 


 これで、エリの奴も、喜ぶだろうし、 久しぶり家族全員また食卓を囲めるぜ」


 シュンはそれはそれは待ち遠しそうに話していた。 



シュン「それで、ケイ兄はいったいどこに?」



ライル「その、ケイさんは……」


 ライルは口が重くて開かなかった。 言いたいことがあるのに言えない。 だってこんなに嬉しそうにして待っている家族を前にして。 いないだなんて。



ヤン「ライルさん。 大丈夫です。 今私たち家族はみんな揃いました。 何があったのか、教えてくれませんか? 真実を教えてもらいたいんです。 ケイは、」



 サフィーや、エールス達は皆思った。 全員そろったという言葉。 どう見ても、目の前の家族写真と照らし合わせると、ケイという男がその一人だとして、後2人いない。




 クレイドはライルの手を強く握りしめ、しっかりとライルを見つめて頷いた。



 ライルはその手を握り返すと、勇気をもらって、重い口を持ち上げる。


ライル「ケイさんは、俺を守ってくれました。 それが、最後です。 

 今から詳しく話します」


 ライルの口は震えていた。 責任を感じているから。 この報告がどれだけ重たくライルにのしかかっているか。 それは本人にはとてもとても重たかった。



 ケイの家族は皆落胆し、ヤンは持っていたスプーンを落とした。 ライルはジンクスファイトから知っているすべての事を話した。

 ヤンは話が始まる前に子供たちを二階に上げていた。 聞かせられる話ではなくなったからだ。 これから悲しい話になる。 



シュン「くそ。 だから、ジンクスファイトなんか、 行くなって……、あれほど、俺と約束していたのに」


 シュンとヤンは涙に包まれた。 この部屋全体の空気が重い。 



ライル「それで今からお持ちしますが、それが、ケイから俺が預かり持っていたものです」



 ライルは一度外に出ると大きな袋をもってそれを渡した。



シュン「これ……こんなに……」



 ヤンはただそれを見て泣き崩れた。 



シュン「そういうことじゃねぇんだよ。 お前がいなきゃ、こんなの全然……

 俺らにはいらねえぇんだよ。 馬鹿野郎」


 ヤンはただ泣き崩れるばかりだった。

 しばらく気持ちを整理する時間が必要だった。 ライル達はただずっと黙って待った。 



ヤン「すいません。 お見苦しいところを……

 もう大丈夫です」



ライル「本当にすいませんでした」



ヤン「どうしてライルさんが誤るんですか。 頭を上げてください。 ライルさんは何も、むしろ、ケイの最後まで届けていただいて本当にありがとうございます。 あなたのおかげでケイはここに帰ってこれた」



ライル「いや、俺が、俺が殺したようなものなんです。 俺が。あの時もっとちゃんと動けていれば」


 シュンは血相を変えてライルに向かって来た。 思いこぶし。恨みのこもるほど力強く、ライルの胸ぐらをつかむ。 その勢いでライルは持ち上げらた様な気分だった。 怒られて当然の仕打ちだと覚悟していた。 


シュン「いや、ライルさんが悪いんじゃない。 悪いのは全部ケイ兄だ! ほんとにあの人はどれだけ家族をばらばらにしたら気が済むんだ。 ! 自業自得ってもんですよ! 本当に。  だから、あんたは自分を責めないでください。

 そんな顔しないで。

 むしろ俺たちはあんたにありがとうと言いたい」



 シュンの力のこもったまなざし。 だけど、緩めたはずないのに、涙がぽろぽろとこぼれてくる。 それでも強く、ライルに意思を伝える眼。


 ライルを離すと、シュンはケイの不満をぶちまけ、一人でぼそぼそ話すたびに壁を殴るシュン。 決して吹っ切っている訳ではない。 たまり給った不満は、今でもその行先がなくモノに当たるばかり。



クレイド「そんなこと言わないでください。 ケイさんはそんな酷い人じゃないんです」


ライル「ケイはいつもあなた達家族の事を思っていました。 ジンクスファイトに出たのもそれで、」


シュン「そのせいで、レミも、エリも!!」



ヤン「やめなさい、シュン! レミは違うわ」



シュン「違わないよ!!」



サフィー「あの、……レミさんって?」


 言わない方がよかったのだ。 だけどそれを知ったのはサフィーが口を開いてすべてを聞いた後だった。



ヤン「あぁ、そうよね、一番前に子供たちが三人写っているでしょ。 シアとジュウとそして一緒に写っているその子がレミなの。 レミはうちの誰より大食いな子でね」



 とても幸せそうに、想い出をヤンは語ってくれた。


ヤン「そして、ケイが出て行ってから、食料の調達も難航して、外から攻撃を受けたりで、より皆が物資を分けなくなったの。 それでね、一番食べてた子だったからかしら、栄養失調で亡くなってしまったの」


サフィー「……そんな」


エールス「ここの政府の人間は何をやっているんですか」



シュン「俺たちはそんな扱いを受けれるような対象じゃないんですよ」


ヤン「ここのように、上級都市と呼ばれる場所に住んでいない者は皆、自分で何とかするしかないんです。 こうして生きれていられるだけでも幸せなんです」



グロス「……」



エールス「なんて、ひどい。まだ年端もいかない子が……この、女性も……」


ヤン「いえ、エリは……」



シュン「あいつは、出て行ったんですよ。 勝手に。 血相を変えて。

 あいつはもしかしたら何かを知っていたのかも……それで、ケイ兄を探しに行ったんじゃないのかと」



ヤン「えぇそうね。 それから、ずっと戻ってこないんです。 どうなったのか。 連絡する手段すらありませんし。外は物騒ですから。 こんな場所です。女の子一人でどうなっているのか。生きていればいいんですが」




  それからは、会話が続いた。 二人が落ち着いた後、子供たちを二階から降ろし、入ってきたお金を使って皆でパーティーを行ってライル達は帰っていった。



 最後はみんな楽しそうに笑って別れることができたが、帰りの車ではイサミ家への思いで皆いっぱいだった。 


グロス「まぁ、あれだな、生きていると色々ある。 やらなきゃ行けない事は出来たんだろ? だったら、ひとまずは、これで良しとしな」




ライル「グロスさんはこういう事とかあったんですか?」


 ライルはぼっそとつぶやいた。 瞳は遠く彼方を向くようにうつろだった。そんなライルをそっとそばらか見つめることしかできないと膝を抱え悩むクレイド。



グロス「あぁ? まぁな。 でもオレのはもっと酷えぇよ。 いまだに荷物すら、渡せねぇもんになっちまった」



ライル「……そうですか」



 そう言って平然とグロスは酒を口にしていた。  イサミ家から持ってきた少しだけいい酒を。


グロス「ぷはぁ。 こりゃうめぇ。 最高の酒だよ。 こりゃ」



 帰りの車は夕暮れのように切なく静かだった。






 別動していたジータたちはライルのファクトリーを見つけていた。 



ジータ「ん? あのでかいの? 見つけたぞ」



 その知らせを受けたスラックは、スラッグ隊のみで、艦を動かした。 




 ライル達がファクトリーに近づいた時、煙がみえた。 


無線よりジャン「やっとつながった! 艦長! こちら攻撃を受けています」


エールス「なんだと。 見つかったのか」


ジャン「はい。 何とかニルス隊で攻防していますが、このままではファクトリーも」



エールス「飛べるのか?」



エレク「あぁ、一応な! いつでも飛べるぜ。 だけどよぉ、攻撃がひでぇ。これで飛びゃ、狙いの的だぜ」


エールス「わかった。 サーゲンレーゼ緊急発進 バリアを張ってそこから離れろ 今から言う座標で合流しろ」


シノ「了解」



エールス「グロスさん」



グロス「わーってるよ。艦がやべぇんだろ! ADで先に艦に合流するよ」


エールス「頼んだ、うわあぁぁl」



 突然、エールスとサフィーが乗っている車が揺れる。 一機のADが2機を連れて3台つらなる車を狙って撃ってくる。 



ドメイク「おーらおらおらおら、 覚悟しやがれ」


エールス「っくぅ」




 このままではみんなやられてしまう。 運転を変わるため、グロスはライルに自分の代わりに行けと、プリーマに投げ飛ばす。



 グロスはそのままドメイクの注意を引き付けた。



ドメイク「この、車が、ちょこまかと鬱陶しい」



グロス「へへっ、俺のドライビングテクニック、なめぇんじゃねぇぞ。 付いてきやがれってんだ」




 ライルが忠告通りプリーマでファクトリーを目指したとき、ドメイクもそれを追った。


 ライルはしつこい追撃を受けながら、ファクトリーに向け急ぐ。 




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る