第3話 ジンクスファイト・前半


 エリは朝早くから出かけた。まだ、皆寝静まっている。外はまだ暗い。 しかし、朝御飯までには帰ってきていた。 そしてまたシュンと一緒に外に出る。 配給や町の人の手助けをして周っているからだ。



シュン「ただいまー。 あれ?エリはまだ戻ってきてないのか?」


ヤン「おかえりなさい。えぇ、まだ帰ってきてないわよ」



「どこに行ったんだ?エリのやつ。 あいつ先に行くって勝手に行っちまいやがったのに」


 ヤンはくすくすと笑った。


「まぁいいじゃないの。あの子も遊びたい年頃なんだから」


「甘いよな。ヤン姉ちゃんは。 何かあったらどうするんだよ」


「シュンは心配性すぎよ」


 笑ってはいたが、ヤンはケイの帰りも遅い事に少し気にかかっていた。



「いい感じだ」


「ほんと?にぃちゃん」


「そこで旋回させて、ジャンプしてみろ。 それに耐えれたら、結構な腕前だ」


 エリは言う通りにして見せたが、エリが乗っている青い機体が飛んだ瞬間、頭から落ちた。


「……まだまだだな」 


「うううううっ、気持ち悪い……」


 ケイが早く機体を起こすように言うと、ゆっくりとレバーを引いた。


「そろそろ戻ろう。 みんなが心配する」


「にぃちゃん!あれ!」


 モニターの先にめちゃくちゃ小さく映る人の影。 拡大率を上げて映す。、2人の男が、若い家族の荷物を奪おうとしているところだった。


「あいつら」


 エリはレバーを倒し、向かって行こうとした。


「止めろ!」


 ケイはエリを止めた。 相手は銃を持っており、武装している。


「にぃちゃん、何で!」


「お前はこれに乗ってここに居ろ」


 ケイはハッチを空けて降りようした時だった。 銃声の音が聞こえた。 モニターを見ていたエリは口を押さえた。 家族のうちの小さい子が撃たれていた。 ケイはそれを見るや、ボタンを押して下に飛び降りた。 


 青い機体から小さなモーターエンジン付きのバイクが落ちてきていた。ケイはそれに乗ると彼らの元へと向かった。無線を使って連絡を取る。


「エリ、約束だ。 絶対にそこから動くな。 何があってもだ」


「う、うん。わかった」


 この時エリは思った。 私はまだ、兄に頼りにされていないのだ、と。 確かに操縦技術もまだまだで、行ったら足手まといになる事ぐらいは分かっていた。だが、どうしてもそんな使えない自分が許せないでいた。



「おら、次はおめぇらを殺すぞ! ガキみたいになりたくなかったら、とっとと荷物を全部渡せ」



 銃口はまだ彼らの方に向けられていた。 母と思しき女性は、息をしていない子どもを抱えて泣き叫んでいた。 背の高い男性が、これは、我々が子ども達が生きる為に必要で集めてきたものなんだと、必死に引き車に積んだ大量の食料や大きな荷物を守っていた。


「おめぇ、しつけぇぞ」


 またも銃声が鳴った。 彼の足を貫いた弾丸は、そのまま地面に埋まった。 散弾銃で撃たれた為、いくつもの風穴があいて、彼は倒れ込んだ。


 女性はまたも悲鳴を上げて、彼の元へと走って来る。


 もう一人の子供だろうか。勇気を出して二人の前に立ち、手を広げた。 彼女はとても強い意志の持ち主だ。 体は震えていたが、表情はまっすぐ揺るがない表情で見ていた。 二人を殺させないと。


「ンだ、このガキ」


 男は女の子に銃を突きつける。 


「パパとママは殺させないわ。 あなた達みたいな、人の物を奪って生きようとする最低な人間にはいつか天罰が下ればいい」


 彼女はそう言ってのけた。


「ほう、だけど天罰が下る相手はおめぇみたいだけどな」


 男が引き金に手をかけた時、バイクの音が近づいてくる。


「キム!」


「へぃ!」


 キムはマシンガンを肩にかけバイクから降りた。 

 大きな銃声と共に女の子の、頭が吹き飛んだ。 何発も当たった彼女の頭は見るも無残な姿だった。


 ケイはマシンガンを撃つキムを後輪で叩くと、そのまま男たちの間を抜ける。


 旋回したバイクはまた彼ら目掛け走り出し、ケイはバイクから飛び降りると、バイクを男目掛けぶつけた。


 バイクを間一髪避けた男。

 

「てめぇあぶねぇだろうが!ぐはっ」


 起き上がった男に飛び掛かっていたケイの拳がヒットする。 そのまま倒れると、ケイはさらに男の顔を殴りつける。 しかし、青年と大人。 力は男の方が上だった。 はねのけられるケイに銃弾が飛ぶ。


「ぶっ殺してやる」


 そう言うと銃を向け、男はケイ目掛けて発砲して来る。


「岩陰に隠れても無駄だぞ。クソガキが」


 父と母が自らの子を失い嘆き悲しむ。


「うるせぇぞてめぇら」


 男が、彼らに銃を向け発砲しかけた時、ケイは大声を出して、男を止めると手を挙げて岩陰から出てきた。


「もうやめろ。 なんの罪もない人を殺すな。 持って行きたいなら、荷物だけ持ってさっさと行け」


「あぁん? 最初から抵抗してなきゃこんな事にはなってねぇんだよ。 抵抗したおめぇらが悪い。 当たり前の結果だろ」


 ケイは目を細めた。


「元々荷物は彼らのだ。 急に奪おうとすれば、誰だって、守ろうとする」


「それが間違いだって言ってんだ。 ちゃんと身の程をわきまえときゃぁ、おめぇらも死なずに済んだのによ」


「殺さずに、荷物を持って行け! 殺すことに何の意味もないぞ」


「嫌だね。 少しでも死ねば、こうした取り合いが減るだろ。 俺は人類の為に貢献してんだ。 他の誰かみたいに、自分の事しか考えてねぇ訳じゃねぇ」


 銃はケイの心臓に向けて突き付けられた。 距離は離れているにしても、散弾銃なら、いたるところに拡散する。逃げるのは難しいだろう。 その距離は散弾銃の射程距離には十分だ。


「悪ぃな。 俺にも食わさなきゃならない奴らが居るんだ。 これだけ大きな荷物じゃなきゃ、俺に目を付けられることは無かったのによ」


 そう言って男は引き金を握った。 高い銃声音と共に、沢山の弾が放出され、そしてそれらはケイの方へと弾き飛ばされた。


普通なら直撃して命はなかった。しかし、ケイの前には大きな鉄の板が、降りてきていた。


「エリ! 来るなと言っただろ」


「うわぁぁぁぁぁ」


 エリは力いっぱいレバーを押し倒した。


 ケイの前には青いジンクスが立っていたのだ。


「なぁ、ジンクスだと。 どこから」


 男はジンクスより小さい事を利用して、ジンクスの攻撃をかわすと、バイクで倒れたキムを拾い起こすと、逃げて行った。


 ジンクスから降りると、二人は座りこける家族の元へと向かった。 


「大丈夫ですか?」


 彼らの目はすでに死んでいた。 大丈夫と言う事は無いだろう。 辺りは一気に惨劇と化してしまっているのだから。


「もう、この食糧は持って行ってください」


「あなた達に上げます。私達には必要ありません」


 二人は驚いた。 彼らはもう生きる気力すら失っていたのだ。


「そんなこと言わないでください。 あなた達だって食べなければ、死んでしまいますよ」


 いくらケイたちが断ろうと、一切耳を傾けなかった。 彼らは、この世界で唯一の生きる意味を失ってしまったのだから。


 足を撃たれているのも有り、彼らは動こうとはしなかった。 妻とみられる女性もなくなった子供たちを離そうとはしない。ここですべてを終わらせようとしている。


 ケイは自分が乗っていたバイクを拾いに行く。 


「え?にぃちゃん。 ほって行くの? この人たち」


 ケイは黙ってバイクを走らせた。そのバイクを、男性の前に止めると彼を乗せ、括り付けた。中に入っていた食料から、お酒を取り出すと、彼の傷口に掛ける。傷口を暫く凝視してから自身の服の端を破いて巻き付けた。

 そして引き車の持ち手をバイクの後ろにくくりつける。


「な、何をやっているんですか。 こんなことしても、俺たちは、……」


「よく見ろ。 誰の為に、この子たちは命を張ったんだ。 そうして生きた命を今度は自分で無駄にするのか? なら彼らは何のために死んだ。 何を守ったんだ!」


 ケイは怒りのすべてをぶつけた。 彼らの、自身の命を大切にしない発言も、こんな惨劇を起こしたやつらへの行いと、それを防ぐことができなかった自身の非力さと。


「にぃちゃん……」


 彼らは何かに気づいたのか、横たわる子どもたちを見て、眼の色を取り戻した。ケイに頭を下げると、彼らは旅立とうとしていた。


「これは、持って行ってください。 私達は死のうとはもう考えてはいません。 大切な我が子が守ってくれた命をどうして粗末にできましょう。 これはお礼です。 私達ではこんなにあっては食べきれず腐らせてしまいますので」


 そのでかいジンクスに乗せれば、持って行けるでしょう。と半分ほどの食料を分け与えれてくれた。

 こうして家族は2人に減り、どこかへと向かって彼らは移動していった。 むろんバイクも返した。



「にぃちゃん……」


「何で来た?」


 ケイは怒っているように見えた。


「ごめんなさい。でも、今度は三人、救えた。今まではゼロだったのに。これのおかげで、三人だけ、救えたんだ……」


 何とも居た堪れない声をあげられては、何も言い返すことはできなかった。


「これ、見つかっちゃったよね」


「あぁ、今後は狙われるかもしれない。 気をつけろよ」


 エリは青い機体を、岸壁の洞窟に隠すと機体から降りた。


「ジンクスって面白いんだね。 何倍もの力を感じるよ」 


「これはおもちゃじゃない」


「解ってるよ!」


 エリは不愛想な事を言うケイに舌を出して見せた。


「ねぇ、にぃちゃん。 夜もここに来て良いかな?」


「お前、これは見つかったら――」


「分かってるって。 誰にも見られちゃダメなんでしょ。 だけど私、これもっと上手くなりたいんだ。 家に居たって、できる事なんてないし。 お願いだよ」


 ケイは溜息をつくと了承した。


「絶対潰すなよ」


「わーい。 流石ケイにぃ! 言ってくれると思ったよ」


 エリは燥いでケイと家に戻った。


「あれ? 二人とも一緒だったの」


「たまたまね! 丁度にぃちゃんと会ったんだ」


「あら、珍しい事もあるのね。 それでこの御馳走? 何があったのケイ?」


 ケイが持ってきた風呂敷には今までにないほどの食料が入っていた。 お酒に、ハムや、切れ端ではない、丸まるのパンがいくつも。それに缶詰やクッキーまである。

 ケイは、ジンクスなどを除いて、今日あった家族の事をうまい具合に話した。


 むろんヤンは、ケイのボロボロの姿に昔の面影を見て恐怖したが、この場では血が出ている事聴きはしなかった。


「そう、そんな事が……。 それでその傷」


 ケイの額の傷を痛そうに見つめる。 


「それじゃあ食べようよ」


 エリの合図と共に合掌が始まり、御飯にありついた。



 次の日も、次の日も、エリはケイと一緒にジンクスの練習を始めた。





ダンクは、夜空を見上げていた。


「明日だ。 明日始まるんだ」


 そしてついに、ジンクスファイトは始まった。






「いやぁ~それにしても人が多いな」


 ライルはいつにも増して白熱する会場に、テンションが上がっていた。


「出場するジンクス乗りと、チームはこちらで手続きを済ませてください」


「ジンクスはこちらへ置いてください」


 無線でクレイドと話すライル。


「おお! 俺はあっちみたいだから、登録は頼むよ」


「うん。、わかったわ。 じゃあ後でね」



 ライルはジンクス置き場へと、ラークスを置きに行く。 


「めちゃくちゃあるな」


 総勢30の機体がこの地に集まっていた。 皆個性的で、そして、強そうな機体ばかりだ。

 次いで、青い機体が入ってくる。 


 降りるパイロットにライルは挨拶をしたが返事は返ってくることは無く、そそくさと行ってしまった。



「なんだよ。同い年くらいかと思ったんだけど、愛想のない奴」



 参加したメンバーやチームは個々に用意されたテントへと、集められた。 自由スペースでもあり、作戦基地にでも使ってくれと用意された、ただのキャンプ用のテントだ。

 ここは荒野。土地は無限に広がっている。 テントは作戦会議が聞こえないように各グループ離されて建てられているものもある。



「へへっ、ここがジンクス置き場か。 さぞご立派なのが沢山あるじゃねぇか」


「ボス。 これ、このオレンジ色の奴」


「おうおう、立派に飾っちゃって。 キム。早くつけちまえ」


「へいっ」


 キムは外見からは見えないように、何やらジンクスに細工した。 ダンクが機体を見回っていると、男が入ってきた。


「おめぇら、ここで一体何してんだ!」


 二人が欠相をかいて振り向くと、ジンクスファイト連続優勝者のナキートが目の前に立っている。


「てめぇら、ただで済むと思うなよ」


 指の骨を鳴らしながら男たちに迫る彼の腕っぷしは、とても強そうに見えた。



 司会者の声と共に、ジンクスファイトは開始された。盛り上がる会場は声援の声で蔓延した。出場者の紹介、ロボット名、試合のルール、前回からの連続チャンピオンの演説等、大きなスクリーンモニターに映し出された。


 ライルはBブロックに当てられ、一回戦は軽々と、対戦相手を放むった。


「おーっと第一回先取はライルの操る、ラークスだ! これは強い。 わずか3分で決着だ」


 そして第二ブロックでは片手にシャベルのようなハサミ型、片手にドリルのような腕をしたジンクス。 


 このジンクスは力型のジンクスで、ライルのジンクスの攻撃を何度と跳ねのけた。だが、ライルも負けていない。 その機動力と、現ジンクスでは考えられないほどの、強度を図ったラークスは幾度となく立ち上がった。


「ありえない。 俺のジンクスの攻撃を食らって、立ち上がる事ができるなんて」


 あっけに取られている間に、ライルは相手ジンクスの右足を持っていった。形成逆元に見えた。とどめを刺そうとした時、相手のドリルが回り、そのドリルはライル目掛けて飛んできた。

 激しい摩擦音と共に、大量の火花が散る。 そのままライルは突き飛ばされた。


 ドリルは導線で繋がれており、相手ジンクスの腕に引き戻された。


「ふん。 これで終わったと思ったか。 悪いが、ここの勝ちはどうしても俺がとりゃなきゃいけないんだよ。 悪いなオレンジ!」

 

 相手ジンクスはもう一度狙いを定めて、ラークスを目掛けドリルを放つ。 再度、とてつもない音と共に火花を散らす。 


 ライルは両腕で、回るドリルをつかむと、そのまま引きちぎり、ドリルを場外へと投げ捨てた。


 驚いて相手選手は冷や汗をかいていた。 驚いたのは選手だけではない、会場に居る皆が、仰天していた。 あれだけ火花を散らして何故貫通していないのだと。

 これに笑みをこぼすのは、ライルと、クレイド達、ラークスチームだけだ。


「ありえない。なんなんだあいつの硬さは。 これで無傷だって言うのか……」


 ライルはブースターで一気に距離を詰め、相手を押し出す。 最後の蹴りで、敵を場外落しで勝利を飾った。


「やったわねライル。 敵も観客も大目玉を食らってたわよ」


「そうなのか。 悪いクレイド、周りが見えてない。 まぁ、敵もさぞ驚いてたんじゃないか」


 ライルはラークスの操縦席から、場外落ちしたパイロットに向けて放った言葉。


「悪いな、俺たちも負けるわけにはいかないんだ」


 クレイドにはしっかりと聞こえていた。

 試合が終わり、格納庫に入ったジンクスは各自、調整が行われる。 まだまだ試合は続くからだ。


 この戦いに来るジンクスたちは皆訳アリだ。 狙いは多額の優勝賞金。 これがあれば生活も変えられる。 ただしこの大会は非道なものである。 多くは経済都市の成金の金が当てられているようなもの。

つまりは娯楽だ。だからこの大会に出るものたちもまた命を対価に挑むことになる。

 

 青の機体もCブロックでどんどんと勝ち進んでいた。 その期待の特性は機動力。 早い身のこなしと軽やかな動きで敵を翻弄していった。 AやDブロックでは死人が出るほどのパワー技が炸裂していた。 これが本来のジンクスバトルである。 戦えばどちらかは死ぬ。それがジンクス乗りの宿命でもあった。


 今日一日の試合は終わる。 皆は各自自分のテントで休憩をとるものもいれば、この日の為に建てられた、給食室で騒ぐ者たちも居た。


 このテントと言うのは、先ほどの屋根だけのテントではなく、三角の全体を覆われた、寝床の小さなテント群だ。

  小さな規模のジンクスファイトでは、テントも、食事も持ち寄りが多い。 まして、今回の試合のような、格納庫や、部品の無償提供もない。 それだけ今回のジンクスファイトは特別であり、大金がかかっているのである。


 この大会に出る為に、ジンクスを持つ皆が準備をしていたのだが、この日が来るまでに殺されたジンクス乗りは数知れない。





「ボス、どうしますか。 あれじゃぁ、爆破が効くのかどうか?

 仕掛けるの止めますか?」


 ダンクは黙って考えていた。 さっきのオレンジの強度は異常すぎたからだ。


「いや、止めねぇ。何としても、仕留めて、大金を手に入れる。 明日は予定通り決行する。それに、あいつらはこの大会の意味を何も理解しちゃいねぇ」



 ライルは給食室に行って食事をとろうとしていた。クレイド達は明日に向けて、ラークスの整備をしており、終わったら食べに行くとの事だった。 ライルも明日に備えて体をしっかり休める必要がある。


 席に座ると、既に青髪の男が食事をとっていた。 今朝格納庫であった青年だ。


「よう。 お前あの青い機体のパイロットだろ。 すごい腕前みたいだよな」


 青年はしゃべろうとはしなかった。


「なぁ?どうしてあんたこれに出たんだ? やっぱり金か?」


 表情一つ変えない青年。 まるで、ライルの存在自体認識しようとしていないようにも感じる。


「俺はライルって言うんだ。 よろしく」


 機嫌よく出した手は、何の反応もされなかった。


 彼は鬱陶しそうな顔をして、パンにありついた。ライルは何か惹かれる物を感じたのか、青年と仲良くなろうと続けた。


「お前の戦い見てたぞ。 ジンクス乗り殺さないように戦ってるんだろ?」


 すると、青年は口を開いた。


「お前、あのオレンジのパイロットか? お前の戦い方もそうだろ? なぜ殺さない?」


 ライルは当たり前のように言い放った。


「俺の目的は、皆が平和になる事だ。だから無駄な殺しなんてしない。 人が殺し合うほど、酷いものはない。 俺は皆を守る為にこの戦いで優勝するんだ」


「それは、俺も思う。 だがジンクス乗りは殺すことが当たり前のように。 だから俺はジンクス乗りが嫌いなんだ。 お前は違うみたいだけどな」


 青年は初めてライルの顔を見て話した。 


「俺はケイだ。 イサミ・ケイ よろしくな」


 ライルはケイの差し出す手を強く握り返した。


「おう! 俺はライル=ハレミ―だ。 同じような考え方の奴がいて良かった」


 ライルはとても嬉しそうに笑った。2人は自分の出身地や、大会に出た理由等を語り合った。

 すると、奥から一人の男性が歩いてくる。 給食室にいる皆が立ち上がって、歓声が上がる。

 入ってきたのはナキート・バン。 このジンクスファイトで連勝して優勝しているジンクス乗りであり、パイロットの憧れの存在である。


「てめぇら、 明日は俺とやり合う覚悟はできてるか?」


 歓声は止まらない。あまりの大声に耳をふさぎたいほどだ。


「詰まんねぇ勝負してんじゃねぇぞ。 俺様の相手にふさわしいやつとやり合えることを、シード席からしっかり見ていてやる。 命と誇りをかけて、存分にその命を散らせ」


 給食室は盛り上がっていた。 ある席の2人を覗いて。


「特にそこの2人! 試合は見ていたぞ。 腕はいいみたいだが、拍子抜けした戦いしやがって。 それでもジンクス乗りか。 この甘ちゃんが。 もっと意地を見せてみろ」


 挑発にも見えるそれは、2人を苛つかせた。 ケイは一言発する。


「意味のない殺しをして、喜ぶお前たちこそ屑だ」


「何だと、?」


 ナキートや、周りに居るジンクス乗り達は皆ケイの言葉に怒りを覚えた。野次や食器が投げつけられる。


 ナキートはそれを止めると、一人、ケイの前に歩いてきて、持っている酒瓶をケイの頭にかけようとした時、ライルがナキートの酒を持つ腕を蹴り飛ばした。


「痛ってぇ! 何しやがる、ガキが」


「安心しろ、勝つのは俺だ。 お前らみたいな、屑には負けねぇさ。 こんなダサい真似やめろよ。 それに、一位とか言ってるけど、それも今日までだ、おっさん」


 ライルは親指を下におろすと、ケイと一緒に給食室を出て行った。


「おい!ガキ、てめぇの顔は覚えたぞ。 チャンピオンにそんな口効いてただで済むと思うなよ。 まぁ、お前らみたいな甘ちゃんが上がってこれるとは思わんが、もし、上がってきたら、死ぬぞ」


 チャンピオンの言葉に室内は盛り上がっていた。


「なら、明日が楽しみだな」


 そう言って二人は出て行った。


 ジンクスの準備は万全。明日は各ブロックの勝ち残った優勝者が戦い、そして、最後に備えたシード枠でチャンピオンが参戦してくる。 一位の座を争い戦いが繰り広げられる、白熱する最終日である。 皆明日の戦いに備えて早くに眠りにつく。






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