第2話 それぞれの想い



 

 クレイドはライルの運転する揺れるジープの中で、街の人たちの事を思い出していた。決して裕福ではなく荒廃した土地。

 家もボロボロで、ガラクタの寄せ集めの家もあれば、技術を使って土壁や、粘土を自身で作ってかたどっている家もある。

 大昔からあったのであろう、コンクリートの道路は土を被り、ほとんどが割れて埋まっていた。 


 途中埋まっている、電柱と言う柱は、もはや過去の遺物で、その機能したる意味もわからない、ただのオブジェクトとして飾られている。


 そんな中でも彼らはとても楽しそうに生活をしていた。

 人々が手を取って支え合って生きている風景がそこにはあった。 日中働く大人たちの横で、一緒に働く子ども、そしてその周りを燥ぎながら駆け回る子どもたち。 それを優しい笑顔で見つめる、老人たち。 


 クレイドはそんな村の、超婆と呼ばれる人物を紹介されると、話を聞かされた。それはとても長い話だった。



――――あれはまだ、この星に人類がいた頃の話。 人々は昔から醜い戦争をしてはいがみ合って、同族を殺す兵器を創り出していた。 いがみ合う内容はすべて自分の欲ばかりで、そこまでするような内容でもない。そうして何千年と時を重ねて、地球を汚してきた。

 

 だがある時代で、その過ちに気づいた。 積み重ねてきた罪、科学や技術が発達したおかげだった。 それからは我々の祖先は何とか星の為、戦争を無くし、『平和』を願って活動をつづけた。 しかし、いろんな国の色んな思考と情勢はまじりあうことは無く、どちらかが得をし、どちらかが損をした。

そうして溜まり溜まった爆発は、全世界の約束事を破って、また地球を汚す戦争をしたのだ。


彼らはけっして兵器を持たない、作らないと約束し、陰でどこの国もそれを作っては開発していた。 結局は口だけの建前の条約など、成立することは無く、国同士の利益も求めて、過ちは繰り返された。



超婆「ある時地球はその、病原体たちの暴れ回る行動に、いつしか体調を崩された。そうして、見限られた人類はこうして、死滅していったと言われておる。

 これは天罰と言うものもいるが、地球様がご自身で選択され、こうされたのだろう」




 そんな昔話を聞かされた。 だから今の世界がある。 沢山いたと史実では語られた人類だが、どう見ても、発見されている歴史書の書かれている数の半分も居ないのは、目に見えて分かる。


 今の現状をクレイドが思い返してみても、人々は、ジンクスを作り、戦いをしながら、生きている。 歴史書が正しいのなら何千年と経っても人は変わらない。 だがこうしなければ生きていけないのだ。

 食料も何も、栄えている街からの供給は人数分は無く、ほとんどは裕福な街の人々の分でしかない。ライルやクレイドのような、都市から離れた人々は、その残り物が配られるにすぎず。

 それでは賄っていけないのだ。 だから力が必要だった。 交渉ではどうにもできない。 なぜなら人に対し、資源がないからだ。 自分たちが生きるには、力を示すしかない。 だけど、そんな世界を彼女は変えたかった。 もっと経済都市が全世界の事を考えて動いてくれれば……



 そんな事を考えていると、ライルが声を掛けてきた。


「おい、クレイド。 なんか必要なものはあるか」



「特にないわ、 あっ、でもこの辺にパーツ屋はある? 壊れた部品をカバーできるものがいるわ」



「なら、ジャンクの店だな」



 座席に座るクレイドの体が何度も浮いては跳ねた。ライルはジープを飛ばして走った。




 また別の地区で青髪をしたおっかぱのような青年が、子供たちの面倒を見ていた。 この街はライルがクレイドを連れて行った町よりもひどく荒んでいて。

 道端で倒れる母子を見つけた。 帰宅途中だった青年の名は、ケイ。 ケイは彼らの元へ駆け寄ると、悲しそうな顔をした。息を引き取っている。 彼は近くの荒廃した場所を掘って彼女たちを埋めると手をあわせ、青年はそのまま小さな袋を持って去って行った。



 家に帰ると小さい女の子が2人飛び出してきた。 とても待ち望んだように嬉しそうな顔を浮かべる。


 次いで後ろから、小さな男の子が1人、顔を出した。 



「おかえりなさい、ケイ」


「ただいま、」


「どうだったの?」


「ごめん。やっぱりこれだけしか」


 ケイは俯いて小さな袋をテーブルに広げた。 そこには、片割れのパンが2つほどと小さな缶詰が3つ入っていた。 後は、とケイはポケットから、ソーセージを1本取り出した。砂のついたソーセージは、とても、大きく太い一本だった。



「どこがよ? 今日はごちそうじゃない。 ほら、レミ、シア、ジュウ! 手を洗ってきなさい」


 ケイはがぜん気を落としたまま、上着を脱いだ。



「ケイ、いつもありがとう。 これはとてもごちそうよ。 あなたには本当に感謝してる。

だから、もう危ない真似だけは止めてね」


 そう言ってお姉さんはケイを抱きしめた。



「なんだよ、兄ちゃん帰ってきてたのか!」


「おかえりなさい」


 玄関からは男女2人が入ってきた。



「エリ、シュン! おかえりなさい。 ケイがまたごちそうを持ってきてくれたわ」


「ほんとか姉ちゃん! 流石ケイ兄だな」


 シュンと呼ばれる男は身長も高くケイよりもまだすこし大柄に見えた。 その横に居るエリは悲しそうな顔をしていた。


「にぃちゃん、帰ってくる途中でお墓を見たよ。 あれ、立てられて間もないだろ?」


 ケイは静かに口を開いた。


「あぁ、俺が帰ってくるときに見つけた。 母と子だったよ。 もう息がなかったから、俺が埋めてやったんだ」


 エリは涙を流しながら、壁を叩いた。


「やっぱり。 また、死者が。 この国のやり方が許せないよ。 あたしたちと経済都市じゃ雲泥の差だ。 これで必要なものだけは持って行かれるなんて、こんな酷い事」


 エリはそのまま二階へと駆け上がった。



「兄ちゃん……ここ最近、よく目にするようになったから、アイツ……。 だけど、悪く思わないでくれ。 誰かに当たらないと、もう、壊れそうなんだよ、アイツ」


 ケイは暗い表情したまま。あぁ、わかってる。と一言だけシュンに返した。


「さ、ケイが持って帰ってきてくれたごちそうがあるわ! みんな食べましょ」


 姉と呼ばれる女性は、幼いジュウにエリを呼んでくるようにとお願いした。


 俯くケイを見て、シュンは一言、言い放った。


「兄ちゃん、頼むから、俺らの前からいなくなったりしないでくれよ。 とくにジンクスファイト。 あれにだけはもう絶対やろうとするな」


 彼らはぞろぞろと食卓を囲んだ。テーブルに置かれたのは、ソーセージの半分と缶詰一個、そして、パンの片割れの一つを人数分に薄く切った物だけが置かれていた。


「それじゃあ、全員揃ったわね。 ケイと食事を皆で食べれることに感謝して、」


 頂きますと、目を閉じ、皆が一斉に手を合わせた。



「シュン、エリ、この残りはまた明日、みんなに配ってきてね」


「おう、任せろ! ヤン姉!」


 エリは小さくうなずくと黙って食べていた。子どものお腹が鳴る。


「今日はこれでおしまいだから、しっかりかみしめて食べなさい」


 ヤン姉はシアの頭を優しくなでた。 それを見ていたエリは食べ終わると、すぐさま家を出て行った。


 食卓ではそんな彼女を横目に食事を続けた。



 星空を見上げるエリの横にケイが座る。 地面は冷えてとても冷たい。 空は今日も白く輝いていた。



「まただ。 また光ってる。 ねぇ、にぃちゃん、あの空の上では何があってあんなに綺麗に光ってるんだと思う? きっと素敵な光景なんだろね。 こんな星空のように」



「あぁ、そうかもな……」


「あの空に上がれたら、どれだけ輝いているのだろう……」



 エリはこの地を捨てて、あの綺麗な宇宙で住みたいと、そう語っていた。 ケイにもそれが話越しに伝わる。


「なぁ、にぃちゃん、私もう、耐えられない。どうせならこんな汚い惑星ホシなんて捨てて、あの空へと上がりたいよ」


 エリは相当溜まっていた。 ずっと黙って押し殺してきた感情が、ただ見て黙って耐えた日々の泥が、二人きりになった事で、和らいで開いた口から溢れ出る。


 「にぃちゃんなら何とかできんだろ? 前に使ってたジンクス。 ねぇ? 私にも乗り方、教えてよ。 二人で戦おうよ、誰も戦わないなら。 こんな世界、間違ってるよ……」


 彼女は星を見上げながら泣いていた。 


「だめだ。 あれは危険なものだから。 お前にそんな事はさせられない。 思っても、絶対口にするな。 だけど、練習だけなら教えてやる」


 エリは目を大きくした。


「兄ちゃん、どういう事? 兄ちゃんのジンクスはあの時……

 まさか、持ってるの?? どこかに隠してるって事?!」



 ケイは彼女を連れて、しばらく歩いていった。









 ライル達は、自工房へと帰り、買った部品は着いてすぐにロデルに渡された。クレイドも一緒に整備に当たる。


 その間に、ライルは新しく入ったジンクスの資料を読みこんでいたのだった。



「ようし、みんな一服にしよう」


 ロデルは満足そうに皆を解散させたい。



「おい、ライル! 彼女上出来じゃないか? こんなセンスのある女の子は始めてだ!」


「まぁな、 クレイドは小さい頃から機械いじりが好きなマニアだからな。 あいつに敵うやつはそう居ないさ」



 二人にべた褒めされるクレイドは間で小さくなっていた。 


「で、完成したのか? 」


「あぁ、もちろんだ。 このお嬢さんのおかげでな。 大はかどりだ。 俺も教えてもらう事が多くて、勉強になったぐらいだよ」



「そうか、ならいけるんだな」


 クレイドが自信を持って、ライルに伝えた。


「えぇ、当然よ。 誰が設計、整備したと思っているの! これで負けるなんて、言わせないわ」


「そうか、 なら後は俺の、操縦技術の向上だけだな。 皆の為に、必ずジンクスファイトで優勝する! このラークスでな」



 彼らの目は、汗と、熱気の自信で輝いていた。










 辺りは真っ暗な夜に包まれていた頃。 煙を上げて小さな赤い灯が見える。 

「どうするんすか?俺たち」


 2人の男が岩陰に座って話している。  奥では焚火の火が見え、少数の人がそれを囲っていた。


「あいつら。ぜってぇ許さねぇ。 仲間をやりやがって。 見つけたら、必ず、復讐してやる」


「なぁ、あれ、ぜってぇ、ジンクスファイト出るんじゃないか? だったら、ジンクスファイトに潜入してあれ貰っちまえば」



「バカか、おめぇ。 ありゃ、ジンクスがないと、参加できないだろうが。 だからこちとらそれを奪うのに必死なのによ」


 ダンクは怒鳴り散らしててキムの頭を殴る。


「そうか、お前の言う通りだ。 何も奪う事はねぇ。 あいつらが負ける様に細工すりゃいんだ。 やるじゃねぇかキム」



 彼らの悪い顔が闇夜に光った。








「機体の動きはどうだ?」


 通信機でライルとロデルが話している。  外は積み重なってできた岩と、辺り一面黄色の荒野。


「完璧だ。 申し分ないね」


 その横で無表情に通信音を聞いて立つクレイド。


「ちょっとその機体、借りるわよ」



 クレイドは白い機体、シルフィーに乗り込むと出撃させた。



「俺もだいぶんこいつの動きになれた。 これなら、行けるかもしれない。 あの無敵の一位に」


 突然ラークス目掛けて、鉛玉があたる。


「うわぁぁぁ」


「なんだ、どうした、ライル!」


 ロデルが驚いて双眼スコープを覗くと、銃を向けるシルフィがいた。


「なら、私を倒してみなさいな」


「おい、ふざけてんのか、クレイド。折角綺麗に仕上げた機体に何してくれてんだ」


 ロデルが慌ててクレイドに無線を飛ばす。 ロデルのなまじ鍛え上げた肉体とサングラスが太陽の光を反射する。


「そんなもん、また一からつくりゃいいのよ。 あの戦いで負ければ、その一回で終わりよ」


「面白れぇよクレイド。 だけど、お前が俺に勝てると思うなよ」


 ライルは相当の自信があった。あれから2週間ぶっ続けで乗り回したラークスとは一心同体なほどの手ごたえを感じていた。



「ふ~ん。 どれほどのモノかしらね。 このシルフィーを倒せたらだけど」


 対するクレイドの乗るシルフィーは以前クレイドを助けに行ったものではなく。さらに改良が施されていた。



「おい、こっちはペイント弾なんだが……」


「実践練習は必要でしょ。 それに、その銃捨てたら? ジンクスファイトでは使えないんだから」


 遠慮も容赦もなく、持ち出した鉛玉をぶちまけてくるジンクス。 彼女は目の前のラークスを潰す気で、挑んできた。


 ラークスの武装はペイント弾と腰両部につけたヒートナイフだけだ。 さらに大会は弾を発射するような遠距離武器は禁止だ。


 つまり敵は銃を使ってはこない訳だが、この対戦相手はお構いなしだった。



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