第4話 ジンクスファイト・後半

 決勝戦では昨夜の一件も有、ライル、ケイに対し、ジンクス乗りは容赦のない攻めを行っていた。 とはいうモノの、これが、決勝まで上り詰める為の戦いでもある事は違いない。 皆が死ぬ気になって突破しないといけない所でもあるのだ。



 ここでアナウンスが入る。


「おーーっと。 これで決勝へ続くシード権までの勝ち残りが決定しました。 勝ち残ったのはこの二名。 Bブロックのオレンジ事。ライル=ハレミ―選手。 そして、青い機体が光る、疾走のイサミ・ケイ選手だ」


 会場では大きな歓声が上がる。 ジンクス乗り達は唖然とした。 まさかあの甘ちゃんの青年2名が勝ち残るとは誰が予想していただろうか。司会のアナウンスはまだ続く。


「さぁ、ここまで死人が出ていない試合も今回が初! 今日は経済都市より市長の、バビル氏様も来られておいでです。 勝利したジンクス乗りもつまらない試合をしないように、最後の試合も盛り上げて欲しいものです。 それでは、光栄のシードに当たる挑戦者は」


 ドラムの音と共に、まぶしいライトと大型スクリーンにライルの機体が映し出された。


「オレンジ事、Bブロックの優勝者、ライル選手です!」


 再び大きな歓声が鳴る。


「それでは両者、何か言いたい事はありますか?」


 司会の声に、大会一位のナキートが手を挙げる。会場全体にあるスピーカーが響き渡る。 


「おい!ガキ! しょうもねぇ試合すんじゃねぇぞ! 全力で当たってこい」


 ライルも無線をオンにして、その言葉に答えた。


「言われなくても。一位の座は俺がもらう」


 会場は大盛り上がりだった。


「それではこのまま試合に入りますので、両者は入り口に待機してください」


 ライルは待っていたと言わんばかりに手に汗をぬぐっていた。クレイドから無線が入り、応援の言葉が送られてきた。 ケイも観客席で戦いを見守った。



 その頃、ケイの住む家では、ヤンがケイを心配していた。



「やっぱりあの子、行ってしまったんじゃ……」


「そんな訳ねぇ。 もう二度と行かねぇって兄ちゃんと約束したんだから。破るはずねぇよ」


「でも、2日も帰ってこないなんて……」


 エリが顔を上げて、ヤンを促した。


「大丈夫だよヤン姉! にぃちゃんのことだから、うんと御馳走を持って帰ってきてくれるって」


 やけに嬉しそうなエリを不信に思うシュンであった。が、ケイの帰りを信じるしかなかった。


ライルとナキートの戦いは火花を切らしていた。 ナキートの機体は銀色に輝くメタリックカラーで、腕には、二本のチェーンソーのようなブレードを装備している。基本この大会では遠距離となる、射撃武器や銃は禁止されている。接近戦の戦いである。


 ラークス。機体の性能はピカ一だったが、スピードが遅い。

ブレードを難なくかわすライルだったが、後進の際に機体の足が滑る。


「しまった」


「ライルはそのままブレードにつかまった」


 ライルの鋼であったボディーが切り込まれていく。


「嘘でしょ! あの素材を切るなんて、あれそれ以上の金属を使ってるって言うの?」


 クレイドのとっておきが、いとも簡単に切れていく事に、驚きが隠せない。


「これで終わりだな。 オレンジのパイロット」


 だがライルは負けるなど思ってはいない。 腰部のスラスターを逆向きに射出して、相手の股下を抜けた。 そして、腰のショルダーからヒートナイフを取り出すと、それをナキートの機体に目掛け突き刺す。 ナキートの機体は両腕のブレードが地面に食いこんだ状態なので避ける事など出来ない。 ライルはコックピットを避け、動力部を目掛け、ナイフをあてる。


 しかし、そのナイフは弾かれた。 ライル自身も戸惑った。 こいつはラークスよりも固い装甲をまとっているという事になる。


 起き上がると、今度はライルの機体を蹴り飛ばした。



「何故コックピットを狙わなかった? 」


「狙う必要なんかない。 殺すつもりは無いよ」


「舐めやがって」

 

 ナキートはブレードを振り回してオレンジを切り裂こうとするが、ライルはそれを上手にかわすと、隙を見てもう一本のナイフで、敵の腕を切り落とした。 装甲が固く、刃が通らないならと、狙ったのはどうしても隠せない接合部だ。



 ナキートも予想していない展開だ。 


「お前の装甲がいくら固かろうと、武器を落とされたら終わりだ」


 ライルはもう片方の、腕を止める為、脇の下の弱い部分を突き刺す。


 ナキートの腕を両方とも奪った。これでナキートは主力武器を使えなくなった。 命令を聞かなくなったナキート機の右腕はだらんとぶら下がっていて、チェーンソーが止まる事は無かった。


「これで終わりだ」


 まさかの事態に会場は大盛り上がり、 ついに、一位が倒される。


「ボス! これじゃ話と違いますよ。 あのままじゃあいつがやられちまう」


 ダンクも焦っていた。


「あぁ、わかってらぁ。 計画とは違うが、アイツがやられる訳にはいかねぇ。 計画変更、今すぐ起爆しろ」


「じゃ、じゃあこの後どうするんですか」


「何しか、アイツを勝たせる。 そうすりゃ、話は収まるだろ。 あいつの動きをとめる」


「わ、わかりやした」


 キムは手に持っていたリモコンのスイッチを押した。



「降参しろ。勝負はついた」


 ライルはナイフを向けてナキートに勝敗が決した事を伝えた。


「ふん。何言ってやがる。 まだ勝負はついていない」


 ナキートはそのまま前進して突撃してくる。


「くそっ」


 ライルはそれに合わせて、向かっていった。


 その時小さな爆発音と共に、ライルの機体が膝をつく。



「お~~~っとここで整備不良か!? ライル選手のオレンジ、いきなり動かなくなってしまった」



「何だ、ガキ? 戦意喪失か? この甘ったれが! だからさっきコックピットをやっときゃぁ良かったんだよ」


 ナキートの蹴りが入りライルの機体が飛ばされていく。ナキートは場外落としを狙っている。 

 何がどうなっているのかライルには解らなかった。



「クレイドの奴、こんな時に、また手を抜いたな。 あいついつもこう言うとこあるからな」


 形成は一気に逆転した。



「へへっ。やったな。 ボス」


「あぁ、俺らには感謝するべきだぜ」



「それじゃあなガキ」


 ナキートが場内端に追い詰められたオレンジを最後の蹴りで突き落そうと、思いっきり蹴り上げた時、ライルはスラスターを射出させ天高く飛び上がった。


「なっ!? 」


 蹴りを空かしたナキートの機体は場外へと落ちた。 


「こ、これは……」


 司会も目をやった。 だが、ナキートの機体は脇腹に仕込ませた、鉛玉を発射させ、見事ラークスのバックパックを狙って見せた。



「うわぁっぁぁぁぁ」


 ラークスの後部が爆破しライルも場外へと落とされた。



「これは何という事でしょうが、同時に場外です」


 観客たちは声を上げて、結果を質問していた。


「これは異例の事態です。 今協議を行いますのので、しばらくお待ちください」


 数分の時を得て、勝敗の結果はナキートの勝利とされた、理由は、戦いでのポイントの多さだと言う。


 ライル達は怒りに震えた。


「ふざけるな。 お前ら、ラークスに何か細工しただろ」


 クレイドが噛みつく。


「卑怯だぞ!

最後、こいつ飛び道具を使いやがった」


 しかし審査ではそれが通る事は無く、飛び道後を使われたような証拠はないとして、映像にもう映ってない事から、ライル達の敗退が決まった。

 当然ライル達は納得していない。

 そんなライルにナキートがジンクスから降り立ち声を掛ける。



「おい、甘ちゃん! おめぇの甘さが招ぇた結果だ。 だが、あまりにも悔しいと言うのであれば、俺もこの戦いの決着にチャンピオンとして納得がいかねぇ。そこでだ。

 特別に、お前が、ジンクスを持っているのなら、この試合中なら、もう一度、一位をかけて勝負してやってもいいぞ。 お前がジンクスを持っていたらの話しだがな」


 勝ち誇ったように勝者のお情けだと言わんばかりの表情で、ライルを挑発した。



 バビルはその光景を見て頭を抱えた。 


「あいつ。何を考えているのだ。 バカめ」


 司会者は全くの前例のない事に、何とかカバーをしなければと間に入った。


「な、何と、なんと。チャンピオンからの申し出だ。 これはかっこいい流石チャンピオン。その強さ、幾ら来ようと負けはしないと語っている。 だからこそ彼はチャンピオンなのでしょう。 では、青年が持っていればいいですが、次の試合の紹介に行きましょう」



 「その言葉忘れるなよ」


 ライルは捨て台詞のように吐いて出ていったように見えた。観客席では、どう見ても、ナキートは英雄、 かっこいいと言う印象をつけて終わった試合となった。 ライルはただぼやいて後にした訳ではない。 彼には一応もう一機あるからだ。



「ねぇ、ライルどうするの? あんなのおかしい。 ちゃんと整備したのに、あれはまるで……」


「あぁ、わかってる。 だから、シルフィ-で出る」


 クレイドやロデルはライルを止めた。


「あれは無理よ、あの機体じゃすぐボコボコにされるわ。 それに、私達の戦いであの子まだ修理も終わっていないわ」


「そうだ! それに、今からとりに行ったところで間に合わないぞ。 これなら、抗議して、ラークスで再戦した方が」


「試合の規定上ラークスは敗退になってる。あいつは、別のもう一機なら参戦の許可をくれたんだ」


「ばか、あれはただの挑発よ。 持ってこれないのわかってて言ってるのよ」


「だとしても、再戦できるチャンスがあるんなら。俺は数%でもできる方に掛ける」


「ライル……」


 ライルにはどうしてもこの大会で優勝しなければならなかった。 町のみんなの生きる金でもある。これが得られなければ、次の大会まで、飢えで誰かが死んでしまう。



「こうなったライルはもう止められん。 なら、一か八かやってみるか 間に合わんとは思うが」

 

 ロデルとクレイドはあがいていても仕方がないと、ライルに掛ける事にしてみた。三人は荷物をまとめず、再戦するつもりで、ジープを自分たちの格納庫へと飛ばした。

 クレイドは荷物番と、ラークスの修理で会場に残り、ライルの到着を待つことにした。






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