Track5 語られる過去

## 00


 魔道機関エンジン式自動車“プロミネンス”の中で男は退屈を持て余していた。

 男の名はエマヌエル・エルンスト——ブレーゲラント帝国所属の軍人である。

 持ってきた本は駄作だった。できれば二度と読みたくない。

 かと言って、車の外の景色はそれほど面白いものでもない。彼の退屈を引き立たせこそすれ、慰めてはくれない。


 ゆえに、彼は術符式ライターとタバコを取り出した。娘に臭いと言われたくなくて禁煙していたのだが、どうせ当分娘には会えないのだ。一本くらい構うまい。

 ペリリと術符を剥すと、上部の穴の部分に火が灯る。そして、エマヌエルは優しく手で火を護りながらタバコに火をつけた。用が済んだライターは蓋を閉めて懐に仕舞う。

 すぅー、と彼は数ヶ月ぶりの一服を堪能して、呟いた。


「……遅い」


 あの女は、ヴェリーゼは何をしているのか。苛立ち混じりにそう思った時だ。


「待たせたな。エマヌエル」


 待ち人の声がした。子供のような、しかしそれにしてはやけに老獪さを感じさせる声である。弾かれたように横を見れば、そこには金髪紫瞳の少女がいた。厚底のブーツでコツコツと音を立てて歩いてくる彼女の名を叫んで問う。


「ヴェリーゼ! 【蛇視ナーガ・ゲイズ】は確保したんだろうな?」

「無論。売り手が取引を中断するためか、買い手を【蛇視】の力で殺害するという事件が起きたが、犯人は〈融合〉まではしていなかった。だから摘出は容易だったよ。犯人の方はその場に居合わせた娘さんに任せた。今頃、取り調べを受けている頃だろう。……だが一つ、イレギュラーが発生した」

「イレギュラー? どういうことだ」


 エマヌエルが首を傾げた、その時である。ヴェリーゼの傍らから声がした。


「あの……お久しぶりです。エマヌエルおじさん」


 フードを脱ぎ、顔を見せた少年。彼を、エマヌエルは知っている。銀の髪とエルフ耳に狐耳、合わせて四つの耳。そんな特徴の持ち主は、ただ一人しか知らない。そうでなくとも、彼の、少女のような整った顔立ちを見間違えるはずもない。


「なっ……!?」


 だが、それゆえにエマヌエルは言葉を失った。

 なぜならば彼が、ファウスティーノがここ、エルゴグランデにいるはずがないのだから。


「まあ、つまり。イレギュラーってのはこういうことだ」


 ヴェリーゼは珍しく悩ましげな表情を見せた。

 彼女としても、驚愕に値する事態なのだろう。

 エマヌエルはごく、と唾を嚥下してヴェリーゼに問うた。


「……これは、〈契約〉違反か?」

「いいや。当人の話を軽く聞いた感じ、ブレーゲラント軍に落ち度はないようだ。ゆえに、〈契約〉はまだ生きてる」


 その言葉を聞いて、エマヌエルは胸をなで下ろした。


「そ、そうか……それなら、良かった。……だが、ファウスティーノ君。娘、ロゼリエのことを邪険に扱うこともなく、相手してくれている少年よ」


 銀髪の少年に、エマヌエルは告げる。


「君には色々と訊かねばならないようだ」

「ああ。私としても詳細な話を聞きたいところだ。ひとまず、車の中で聞こう。大所帯になるが、7人ならなんとかなるだろう」

「……7人?」


 エマヌエルが繰り返すと、ヴェリーゼは「ああ」と頷いて来た方を指差した。そちらには、4人の男女がいる。二人は見慣れぬ女。残りの二人は、エルゴグランデで一番の探偵と称される男とその助手だ。


「え、あれ全部乗せるのか?」

「私とティーノは誰かの膝の上に座ればいい。乗れないことはないだろう。重さが問題なら、私が魔術でなんとかする」

「そ、そうか……まあそれなら……」


 沈黙を楽しむドライブができないことを残念に思いながら、エマヌエルは首を縦に振った。


## 01


 “プロミネンス”の後部座席は二列、それぞれが向かい合うように配置されていた。はじめにセナ、カイマン、ルチア、ホークスが座り、その後でヴェリーゼは当然だと言わんばかりの態度でカイマンの膝の上に、ティーノはセナとルチアの間で取り合いになり、最終的に座高の差が決め手となってセナの膝の上に座ることになった。


 全員を乗せて、“プロミネンス”はゆっくりと発進した。


 車内でまず共有されたのはティーノがこの国へ来た経緯だ。

 すなわち、ウレギエの森にドラゴンがやって来て、一悶着あった末にドラゴンのうちの一体がティーノの仲間となり、そしてヴェリーゼを訪ねてここ、エルゴグランデへ来たという一連の出来事。

 主に説明を行ったのは、セナだった。彼女はペラペラと少しも言葉を詰まらせることなく饒舌に出来事を語り、そして一応の納得を聴衆に与えた。

 この設営にあたって、セナはウソをついていない。だが、言わなかったことならばある。

 すなわち、ティーノの【紅玉瞳】のことと、セナの敵、【白き破滅】についてのことだ。その二点についてセナは完全に伏せていた。

 元々、ヴェリーゼに会いに来たのは【白き破滅】との戦いに向けて協力を取り付けるためである。


(でも……それを詳らかにするには、ここは人が多すぎるんだ……)


 ルナ、ホークス、そしてエマヌエル。この三者を巻き込んでも良いのか、セナはまだ確証が持てていないのだろう。ゆえに、話さない。聞かせない。

 そして、それで良いとティーノは思う。自分に対しても同様の思慮深さを発揮してほしかったとは思うが、その点については自業自得なところも多少はあるので諦めた。


「……さて。ティーノがこの国に来た経緯はこれで共有できた。にわかには信じがたい話ばかりだが……カイマンがドラゴンであることについては間違いないと見て良さそうだ。ゆえに、概ね真実であると認めよう」


 ちなみにカイマンがドラゴンであることの証明は翼と尻尾と角を生やすだけで済んだ。場所柄、ドラゴンに変身させるわけにいかなかったというのもあるのだろう。


「というわけで次は、私がエルゴグランデここで何をしているのか……それを話す番……だが、その前に、なぜ、ティーノがブレーゲラントに、ウレギエの森に囚われていたのかを話さなくてはなるまい。そのために、ルチアにも来てもらったんだから」

「おや、僕は歓迎されてないじゃないか」


 ヴェリーゼの言葉尻を捕えてホークスが言った。


も何も、ホークス、貴様ははじめから歓迎していない。同道を認めたのは、ルチアがどうしてもと言うからだ」


 ホークスはやれやれと言ったふうに首を横に振った。そんな探偵を無視して、ヴェリーゼは語りはじめた。ティーノがウレギエの森に囚われていた理由を。そして、彼女がブレーゲラント軍と行動を共にし始めた理由を。


「——20年前、私はツァツァーリア教国にいた。当時の私はフリーランスの魔術師としてあちこちを転々としていて、行く先々で仕事を請け負っていた。そんな私に、ある日、一つの依頼が舞い込んだ。それは、ツァツァーリア教国のトップ、教皇直々のものだった」


## 02


 新興都市ペルセスの霊脈保全と周囲一体の浄化。それが、ヴェリーゼに与えられた依頼だった。


「……教皇直々の依頼ってのがどうも嫌な感じだな…………元々、教皇って奴は好きじゃないんだ。レリア教の最高司祭ってのが何より気に食わない」


 そうは思ったが、それはあくまで個人的な感情だ。何百年も前の話を引きずってるに過ぎない。気持ちを切り替えて、ヴェリーゼはその依頼を受けることにした。

 依頼内容、報酬の額、その二点には文句の付けようがなかったからだ。

 しかし、ヴェリーゼがもし、依頼の理由を余すところなく知ったならば、彼女は教皇を殺そうとすらしたかもしれない。

 教皇の真の目的、聖女レリアの復活とはそれほどに、彼女にとって許しがたい行いだったのだ。


 受け依頼のため、ヴェリーゼは新興都市ペルセスに3ヶ月ほど滞在した。ペルセスの上質な宿で生活し、仕事の合間、時には街でペルセスの子供たちと遊ぶこともあった。

 彼女は見た目だけで言えば非常に子供から親しまれやすかったし、彼女自身も子供は好きだった。

 しかしやがて、そんな生活も終わりを迎える。依頼を完遂したのだ。彼女は報酬を受け取り、(悪くない仕事だった)なんて思いながら、胸に名残惜しさを抱えて街を去ろうとしていた。


 そんな時だった。後に『ペルセス事変』と呼ばれる、大事件が起きたのは。


 はじめに察知された分かりやすい異変は、轟音と地響き、そして天を貫かんとする光柱の発生だった。それは何の前触れもなく、午前9時23分、なんてことのない朝の光の中に生じ——ペルセスを地獄に変えた。

 次に起きた異変はペルセス中心部に建つ大聖堂を基点とする霊脈の暴走である。ヴェリーゼが丁寧に調律してきた霊脈が波打ち、光放ち、地面をヒビ割れさせる。

 否、ヒビ割れたのは地面ばかりではない。

 ヴェリーゼは驚愕する。

 見上げた空、そこに青色はほんの僅か。残りは極彩色——赤や緑、紫、黄色など——に彩られた壊れた空。ガラスのようにヒビ割れて、真っ黒な裂け目からは何か得体の知れぬものが覗き込んできているかのよう。見る者すべての正気を削る空が、そこにはあった。

 尋常ならざる光景。此岸の崩壊と彼岸の現出。ヴェリーゼは理解する。一体何が起きてしまったのかを。


「——まさかこれは、異界化かッ!? 霊脈の奥底、アーカーシャ層が表面化し、果てなき言行録アカシック・レコードに刻まれたモノどもが、顕現しつつあるのだ……! 現実の侵食、完全異界化まで……この様子だと時間はなさそうだな……あと10分ってところか? くっ、ここまでの規模は始めてだぞ……」


 なんであれ、急ぎ離れなくてはならない。ヴェリーゼの推理が正しければ、異界化の範囲は認識境界線の内側まで。そしてそれは、おそらくはこの新興都市ペルセスの境界線に等しいはずだ。


 魔術で加速すれば、脱出は容易だろう。ヴェリーゼは身体強化の術式をかけ、走り出そうとした。


「……おねえちゃん」


 幼い子供の声だった。それが、ヴェリーゼの背後からしたのだ。


「その声はマルコッ! お前、無事だったのか!」


 と、振り返ってヴェリーゼは絶句する。


「助けて……いたい、いたいよ……」


 なぜならそこにあったのは、もう。


「イタい、イたい、よ……おネぇチャン…………タスケて」


 声はマルコの生首が大きく、顎が外れんばかりに大きく開けた口の中の顔から生じていた。マルコ自身は、目から血涙を流して、首がごろんと転がっているだけだった。

 生首の後ろには、マルコのまだ幼い身体がある。その腸は三つ首の獣に食われていた。胴体側の首の断面、そこは完全なる闇と化していた。きっと、〈穢れ〉の集積地となっているのだろう。

 もはや、マルコは助からない。助けられない。

 かつて、ヴェリーゼを「おねえちゃん」と慕ってくれていた彼は、もうどうしようもない状態になってしまったのだ。

 倒れている身体の体勢が、こちらへ駆けてきていたように見えることから、もしかしたら、最初の声は本当にマルコ自身のものだったのかもしれない。ヴェリーゼがもう少し早く気付いていれば、あるいは。


(いや、無理だ。異界からの侵食に対抗するには魔力で自分を保護しなくてはならない。あの幼いマルコにそれができたはずもない……私には、はじめからどうしようもないことだ)


 別れの言葉を告げる代わりに、ヴェリーゼは中指と人差し指の先をマルコだったモノに向けた。せめて、その魂が清らかに、苦しむことのないようにと祈りを込めて、一語。


フツ


 術式の発動を見届けて、ヴェリーゼは背を向けて歩きはじめる。マルコの声で絶叫するソレの呪いは、耳にこびりついて消えてくれそうになかった。


(予想よりも侵食の進行が速い……私が霊脈を調律し、〈穢れ〉という〈穢れ〉を祓い尽くしたからか? それで、侵食を阻むものがいないから、こんなに速く…………いや、考えるな。それよりも速く脱出を……)


『ヴェリーゼ』『ヴェリーゼ』


 走り出そうとした矢先、またしても彼女を呼ぶ声が聞こえてきた。今度の声は穏やかな少女のものである。どうせまた、自分を留めようとする怪異の声だろう——そう思い、無視しようとしていたヴェリーゼだったが、続く言葉に足を止めてしまった。


『待ってヴェリーゼ。私よ、レリアよ』

「——っ!?」

『三分でいい。私に時間をちょうだい。どうやら、あなたしか頼れる人がいなさそうなの』


 その語り口は、紛れもなく本人のもののように思える。だが、この状況で無条件に声の告げることを信じるわけにはいかなかった。


「確認させてほしい。お前が本物のレリアなのかを」

『ええ。構いません』

「……私のホクロの位置、3個言ってみろ」

『ええと、左の脇の下に一個、それからおへその下に……』

「もういい」

『いいの?』

「ああ」


 こんなにも凄惨な状況だというのに、ヴェリーゼは知らず、清涼な微笑みを浮かべていた。(まったく、誰がそんな際どいところばかり挙げろと言った)


「——で、どこに行けばいい?」


## 03


「……そうして、レリアの声に導かれた先にいたのが、ファウスティーノだったというわけだ。その後、私はツァツァーリア教国を北上してブレーゲラントに来た。そこから先は、エマヌエルも知っている話だな」


 運転席のエマヌエルがヴェリーゼの言葉を継いで話し始める。


「ああ。ヴェリーゼは我々ブレーゲラント軍にファウスティーノ君の保護を求めた。何も探らず、何も脅かさず、ただ、彼が平和に育つことのできる環境を用意しろ、と。その交換条件として、彼女は自分がブレーゲラント軍人となることを〈契約〉によって約束した。伝説の魔術師が軍の管理下に、自ら入ってくれるなどとは願ってもない話だ。軍は彼女の提案を承諾したよ」


「そういうわけで、私は今ブレーゲラント軍人だ。特務第13課——通称宝石課エーデルシュタイン所属、特別魔術士官ヴェリーゼ准将……それが、今の私の肩書きだ。もっとも、准将なんて言うがそこはお飾りの名誉階級に過ぎないのだがね」


 ティーノは知らなかった。ヴェリーゼがブレーゲラントで軍人として働いていることも、20年前、ツァツァーリア教国でヴェリーゼに助けられたということも。

 かの国は聖女レリアを崇めるレリア教の総本山だ。聖女レリアはその紅玉のような両目で己の信徒を増やしていったとされる。そう、いまティーノの右目にあるのと同じ【紅玉瞳】によって。


(〈聖遺物〉との同時親和実験……目的は聖女レリアの復活……そして、ぼくの右目にはいま【紅玉瞳】がある……。ツァツァーリアが聖女レリアの遺体を〈聖遺物〉と見做さないはずがない。ならば、ぼくのこの目はまさか——)


「待って、下さい」


 震えるルチアの声でティーノはふっと我に帰った。


「えっと、それじゃあ、私の弟がずっとブレーゲラントにいたのは、」

「そうだ。私の判断が理由だ」

「……ずっと、閉じ込めておくつもりだったの?」

「然るべき時が来れば、外に出すつもりでいた」

「然るべき時っていつ?」


 言葉の端々からは隠し切れない怒りが滲んでいる。握った拳の震えは、彼女の自制心のたまものだろう。

 ヴェリーゼはいたって涼しい顔で受け答えた。


「君の怒りはもっともだ。私は、君がファウスティーノを探していると知りながら、君と何食わぬ顔で会話を重ねていた。糾弾は慎しんで受け入れよう」

「そんな、何を賢しらぶって——」


 激昂したルチアが拳を作って立ち上がろうとする。それを制止したのは、隣に座るホークスだった。


「やめなさい、ルチア。ここは車の中だ。それに、先ほどから揺れが酷くなってきている。倒れたら大変だよ」


 不承不承といった様子ではあるが、ルチアは席に座った。


「申し訳ない。ホークス。手間をかける」

「なに、礼を言われるようなことじゃあない。こんなことで、僕の助手に怪我をされては困るというだけだよ」

「そうか……」

「して、この車は一体、どこに向かっているのかな? 遠くに見える黒い森林……あれはシーケルジャンだな。つまりセルキス地方南東部へ向かってるらしいが……ああ、理解したよ。ヴェリーゼ。これから君は、幽霊退治に向かうというわけだ」


 ヴェリーゼは首肯した。


「察しがいいな」

「いくつかの前提条件を正しく把握できれば、誰にでも分かることさ」


 言って、ホークスはティーノの顔を見た。(なぜぼくを?)ティーノはヴェリーゼの横顔をうかがう。彼女の口角は、僅かに上がっているように見える。


「……幽霊退治? それって、どういうこと?」


 セナの疑問する声に、ホークスは頷きで応じた。そうしておもむろに語り始めたのは、エルゴグランデの怪談話だ。


「セルキス地方南東部には、『深窓のイドラ』という有名な幽霊がいるんだ。

 まあ、有名な話なんだが、あらすじはこうだ。

 ——100年ほど昔。コードウェルという男爵がいた。彼は公明正大で、人望の篤い男だったが、なかなか子供ができなかった。養子をとるという手もあったはずだが、実子を持つということに並々ならぬ思いを抱いていたのだろうね。挙句の果てに彼は魔術——いや、呪術かな。ともあれ、安全性の保証が何もない怪しげな術に手を出した。

 果たして、コードウェル男爵婦人の命と引き換えにして、待望の実子が誕生した。娘だったが、コードウェル男爵はひどく喜んだ。しかし、邪法に頼ったがゆえか、その娘は生まれついての病弱だった。とても、元気に走り回ることもままならぬほどにね。

 そんな彼女をコードウェル男爵が屋敷の中に閉じ込めたのも、もっともな話だろう。結局、彼女はその短い生涯を、丘の上の屋敷から一歩も出ることなく終えた。

 だが、閉じ込められた者が外の世界を渇望するのはいつの世も同じ。

 彼女は望んでいた。外の世界を自らの足で歩くことを。広大な空の下で、どこまでも続く大地を駆けることを。たとえ、自らの病弱な肉体ではそれが、叶わなかったのだとしても。

 ……死してなお、彼女の、外への憧れは止むことがなかった。そんな未練を残した彼女が幽霊となってしまったのは必然と言えるだろう。

 幽霊となった彼女は、屋敷を訪れた客をお茶会に招待し始めた。外の話を聞くためにね。でも、次第に話を聞くだけでは満足できなくなったのか、彼女は屋敷を訪れた者すべてを自分の手足とするようになった。

 なんでも、客の魂を身体から抜き取り、その抜け殻を操って外の世界を堪能するのだとか。

 ……けれど、どんなに客の身体を抜け殻としようと、彼女の本体は永久にその屋敷の中。彼女が真に、屋敷から出られる日は、未だ、訪れない……」


 車内はしんと静まりかえっている。皆が、ホークスの語りに聞き入っていた。

 ホークスの声がそうさせるのか、技術か、はたまたその不健康そうな印象の顔が良い演出になったのか、あるいは、その全てか。

 空には暗雲がたちこめていた。太陽の光を覆い隠して、大地に影を落とす。

 うすら寒い空気が満ちるなか、ホークスの推理を肯定するかのように、“プロミネンス”は進む。

 丘の上の屋敷へ向けて。

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