優里

ドライフラワー を聴いて※女性視点①

『奏の物差し』より

※注意

男性作者が描いた女性主人公のエピソードになります。

男性作家の書いた女性向けの恋愛小説などに強い違和感や抵抗がある方は読むのを控えていただくことをおすすめします。





子宮の全面摘出手術の決断になかなか踏み切れず、あたしはまだ両親にさえも相談出来ずにいた。


もうすぐ辺りが暗くなろうという時間にも関わらず、照明を消した薄暗い自室の隅っこで体操座りでうずくまる。


スマホのRINE の画面からまるで魂が抜けたように生気を感じられない瞳がぼーっと見つめる先は、

物心ついた頃からご近所に住む年上の女性。

その人は、昔からあたしを可愛がってくれた大好きなお姉さんだった。


「はーい!」


「……」


「もしもし、奏ちゃん?」


「はい……」


「いったいどうしたの?

今日はいつもみたく元気がないみたいだけど」


「ねえ、おねえさん。

私どうしたらいいか、わからなくて……」


「改まってどうしたのよ」



「私、私……グスン」



「奏ちゃん?

落ち着いて私に事情を聞かせて」



「私、子供が産めなくなったみたいです」


私は現実を意識をする度にこみ上げては抑え込むことの出来ない大粒の涙を流しながら続けた。


「うんうん。

なるほど、そういうことなんだ。

辛いはずだよ」


「私、……悔しくて」


「うん、わかるよ」



お姉さんはあたしの激情が少し治まるまではけっして会話は遮らず、相槌を打ちながら最後まで聴いてくれた。


「あの、お姉さん?」


「どうしたの?」


「子供の産めない私なんか

好きになってくれる男性なんて、

そんな都合のいい人いると思いますか?」


「それはね」



うっ、うっ……。


「大丈夫?

奏ちゃん?」


うぐっ、わぁああああああああ、

あぁああああああああああああ、

あぁああああああああああああ、

あぁああああああああああああ、


「奏ちゃん?

ねえ、奏ちゃん?」


グスン

「はい……」


「奏ちゃんってさ、どんな男性が好き?」


「私……ですか。

背が高くて、優しくて、

いつも私を愉しませてくれる笑顔が素敵な人」


「そんな魅力的か男性、出会えるととっても素敵よね♪

実はね、女の子を幸せにしてくれる秘密の魔法、お姉さん知ってるんだ。

奏ちゃんがまた元気になれるように、特別に教えてあげよっか?」


「は、はい」


「白馬の王子様ってね、王子様に憧れる女性がどんなに努力を重ね願ったとしても、迎えに来てはくれないの。

知ってる?」


「おとぎ話ですからね。


あ、でもそれじゃあ……」


「話を続けるよ。

奏ちゃんにとっての白馬の王子様ってどんな人?」


「どんな人って、さっき答えた特徴と一緒です。

それと、あと一ついいですか?」


「うん、いいよ」



「私を大切にしてくれる人」


「うん。それ、大事よね!

ところで奏ちゃんはさ、誰かとお友達になったとき、最初の印象と実際の性格や価値観が食い違ったとき、

どうしてる?」


え?


「直感でこの人とは何か違うなと思って距離を置いてみたり、

疎遠になったりとかしない?」


「あー!

確かにあたし、それ、あります!」


「奏ちゃんにとってのいい人像を相手に求めてみても、

相手は相手が思ういい人像しか用意出来ないの。


相手に求めても叶わないときはね、

一度立ち止まって

ゆっくり深呼吸してみよう!」


「はい」


「それからね、一歩前に出てじっくり観察してみるの。


自分にとって都合のいい人かどうかじゃなくて、

相手の素敵な部分はどこなんだろ〜?

ってね♪」


「なるほど!♪」


「そうしたらね、

今までの奏ちゃんには気が付けなかった盲点だった場所とかに案外、

相手の素敵な一面がみつかるかもしれないよ」


「ですかね!?


「うん、きっと!

世の中、子供を作らない夫婦や、

養子をもらう夫婦だっているんだし、

あなたならきっと大丈夫。


子供をどうするか?

それは、奏ちゃんを本当に大切に想ってくれる男性なら、きっと理解してくれるから。

少しは元気取り戻してくれた?」


「はい、もちろんです。

素敵な話ですね。

ありがとうございます♪」

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