第4話 もう少しだけ を聴いて書いてみました。
いつもしないこと
暗いニュース
気持ちが沈んでいく朝
自分は本当に 誰かの あいつの 役にたててるのかな
私も、僕も、誰かの役にたてる……かな
私は、僕は、あなたを思い出した。
その日、いつものように手早く身支度を済ませ軽自動車を運転する私は朝からイラついていた。
「なんなの、あの迷惑な人達?
バイクの路駐って。
対向車が見えないから離合しにくいじゃない。
全く、交通ルールも守れないの?
これだから、最近の若い人達って嫌い!
あぁーも〜、急いでいかないと!」
いつもしないこと。
私は、急いでいたので、直ぐにその場を立ち去ろうと横を素早く横切ったが、
咄嗟に朝のニュースの占いが頭をよぎった。
少し先の通行の邪魔にならないところに車を停めると、私は後ろを振り返り、もう少しだけ彼らの様子をみることにした。
「お兄ちゃん達、本当にありがとうね」
車椅子に乗った年配の女性の声だった。
私は、自分が恥ずかしくなった。
自分の予想はその女性の一言であっさりと覆されたのだから。
あの若者たちは、人助けをしていたのだ。
それも平日の早朝に。
彼らにもきっとこれから学校や仕事があるだろうに。
今朝のニュースで街の被害が報道されていた。
私の通勤ルートとも被るとある道路。
その路上は連日の豪雨で路面の土が流され人々の通行を塞ぐように積もっていた。
そんな道路の砂利を、バイク乗りの二人組はまだ街の多くの住人が起きていないような朝早い時間からシャベルで砂利をかき出していたらしい。
そして、私はさり際に気が付いた。
私が通行の邪魔にならないだろうと車を駐めた場所。
実はその場所もまた、彼らがシャベルで砂利をならした場所だったのだ。
目の前の困難に対して前向きに考えて、
みんなの為にと率先して行動を起こした彼ら。
私はそんな彼らに対して、一方的な先入観からネガティブな想像しかできなかった自分の心の狭さを恥ずかしく思った。
私は、職場の駐車場に着くと、
ルームミラーを覗きながら口紅をかく。
ぷっ!
私は思わず笑ってしまった。
自分の不甲斐なさと同時に、
私の心は幸せな気持ちで満たされた。
その日、僕はイライラしていた。
僕の家のガレージにはツバメの巣がたくさんある。
既にいくつもの巣がかけられ、
その下は無惨にも糞でいっぱいだ。
そして、ついに僕が大切に乗っている愛車の真上にもツバメが巣が……!
「シッ、あっちいけ!」
いくらそこから追っ払っても、
直ぐにそこに戻ってきては再び巣づくりを始める。
僕は自分の愛車が泥や糞で汚れてしまうのではないかと、とにかく不安で不安で仕方がない。
だから、カラスに見立てた黒いハンガーやCD版を使った日光の反射など、とにかくツバメを追い払う為に考え得るあらゆる手段を何日もかけ試行錯誤した。
いつもしないこと。
あくる日の早朝、
僕がたまたま普段より早起きしてテレビをつけていると朝のニュースで占いをやっていた。
僕は普段、占いなんて根拠の無いものには全く関心が無い。
証拠や裏付けの無いことは基本信じないタイプだ。
だけど……、
仕事に行く前で急いではいたが、
何故かテレビの占いの言葉がふと脳裏をよぎり妙に気になった。
僕は、車を出す前に一度後ろを振り返り、ガレージの様子をみた。
あれ?
「ねえ、母さん?
あんなの昨日まであったっけ?」
「あれ、気付いたのね。
実はね……」
母曰く、先日僕が仕事に出ている間、
僕がまだ幼い頃、母と離婚した親父が久しぶりに帰ってきていたらしい。
僕がいない間に親父が来ていたのは頷ける。
おそらく、僕が一番親父を嫌っているのだから。
穏やかな母の性格につけ込んで、母や妹を不幸にした親父を。
親父は僕が帰ってくるまでにとガレージの巣の下に巣箱を作ってくれていたらしい。
僕はついツバメを追い払う手段にばかりとらわれてしまっていた。
それに対し、親父は僕がツバメと仲良くやっていけるようにと前向きに考えて巣箱を作った。
親父の意外な行動に、僕は自分の心の狭さを恥じた。
もちもん、僕はこんなことで決して親父を許せるわけではない。
しかし、今日このことに気付けてよかったと僕は思う。
「それじゃ母さん、仕事行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
自分に不都合な事に出くわしたとき、
どうすることが一番無難かよりも、
みんなが幸せになれる今よりもっといい方法を
より広い視野で考えていく心の柔軟さを
僕は大切にして生きていきたいとそう思った。
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