第2話 夜に駆けるを聴きながら書いてみました。

【なんとなく死にたい 私が欲しかったもの】


さよなら


頑張れだとか

前向きにとか

職場の先輩やSNSを通じて共通の趣味で知りあったネット友達は私のことを思い遣ってそう言ってくれる。

間違いなく優しい人達だ。

本当にありがとう。

でも、本当に本当にごめんなさい。

私が感謝している大切な人達に、

自分の不器用さや不甲斐なさから恩返しどころか足を引っ張ってばかり。

直したいという私の必死の努力はいつもからまわり。


あの子、美人はいいんだけどそれ以外がね。

そうそう、不思議ちゃんだよね。

きっとこの歳まで両親や兄弟、異性にチヤホヤされて甘やかされて育ったんだろうね。

いい歳して人生舐めてるね。


違うって!!


はいはい。



いい、いい。

〜さんは手が汚れる作業とかこういうの嫌いでしょ?

違う?


いえ、先輩ちょっと待ってくださいよ!

私全然そんなことないです!!


いいから、いいから。

これもやっぱ私がやったほうが早いから。

と言うか、〜さんがやったほうが早い仕事なんてあったっけ?


…………。


先輩、流石にそれはちょっと〜さんに言い過ぎじゃないですか〜♪



あら、そう?



クスクス♪



〜さんごめんなさいね。

私、あなたみたいに自分に甘々でジメジメした性格嫌いだから、

使えないときは使えないってはっきり言う主義なのよ。

申し訳無いけど、あっちでお茶でも飲んでて。


いえ、でも……。


あれ、今の私の話聞こえなかった!!?

ねえ、みんなは聞こえたよね?


うん、聞こえた〜!

聞こえたました!


私だってみんなの役にたちたいんです!!!

努力して失敗の中から学ばないと、

最初から何もかもできる人間なんて、

いないと思います。

これって、おかしいことですか!?


え?

ごめん。小声で聴き取れなかった。

もう一回言って?


私のこと何も…………くせに。


何、聞こえなーい?






自分にとってどんなに些細なことでも生きることの意義や自信があればいい。

だけど、それさえも見えなくなっていっぱいな私には、

『生きなくてはいけない』という自分の命への責任感が重くて重くて仕方が無い。

職業柄今のご時世仕方が無いのだけれど、最後にマトモに休みをもらったのはいつだっけ?

頭や心を休める暇もなく、※みんなイライラピリピリしている。

おかしくなりそう。

こんな卑屈な私の感情もまた大嫌いで、

自分が悔しくて悲しくて許せなくなる。


でもさ……

『君が死んだら遺された人達、どう思うかな?』

『長く生きたくても生きれない人達の気持ちを考えるとさ、生きられる君はまだ

幸せなほうじゃないかな?』


剛志は私にそんなこと言わなかったよ…!


君もやっぱり私の気持ちを最後まで聞てくれないんだね。


私みたいに本気で死を意識したことがある人達が、自分の命に責任を持つよう言われると逆に自分を思い詰めてしまう気持ち、君にも理解して欲しかった。


君の意見、それは真っ当で普通の人はみんなそうだと思う。

だけど正直重荷だし辛い。


だけど、事故で亡くなった幼馴染の元彼剛志だけは他の人達とは違った。

剛志は私の話を遮らず最後まで聞いてくれた。


自分の命に責任を感じなきゃなんて、

少なくともお前は考えなくていいんじゃないか?


俺は、みんなは知らないかもしれないけど、お前が毎日同僚が帰った後も遅くまで残って新しく覚えた工程の復習を頑張ってるとこちゃんと見てるから。

確かに俺からみても不器用だけど直向きで優しい奴だって知ってるから、


みんな自分自身が精神的に余裕があるときはいくらでも前向きで綺麗な言葉を並べられるよな。

でもさ、自分自身が精神的にどうしようもなく追い詰められたときも同じように思えるのか俺は疑問だな。

人間ってさ、同じ価値観で団結した時は強いと思わない?

だけどさ、孤立して精神的に追い詰められたときには、やっぱ弱い生き物じゃないかと俺は思う。


お前こんな話知ってる?

実際に昔のあったとされる生後間もない赤ちゃんを対象にした残酷な人体実験の話。


人間の赤ちゃんは例え乳母から完璧な育児を受けたとしても、一切の愛情だけを与えられないように禁止されると、長くは生きられないんだぜ。


俺思うんだ。誰かが精神的に追い詰められて悩んでいたときはさ、他の誰かがそいつに一般論で諭すんじゃなくて、

そいつの気持ちを先ずは認めて手を差し伸べてやらなきゃなって。


だからさ、俺はお前に今更一般論とか綺麗事とか、そんな水臭いこと言うつもりは無えよ。


死を思い詰める程までに本気で苦しんでまで、

お前が生きる責任に縛られて、

自殺したいと思う衝動を必死に抑え込んでまで、苦しむ必要ってあるのかなって?


死にたいとお前自身が必死に思う感情自体に罪はねえよ。

お前の感性くらい、お前が許してあげてもいいんじゃないか?』


剛志の言葉で私はハッとした。

そして、気持ちが少しだけ楽になった。



ありがとう。


剛志みたいに、やっと君も私の気持ちわかってくれたみたいだね。


そう、私が欲しかったのは自殺する人は善か悪かの議論なんかじゃない。


私が本当に欲しかったのは、一緒にいて私の気持ちを受け止めてくれる人。


例え私の性格が普通の人とは違う部分を知っても、

例え意見が違ったとしても、


それぞれの価値観や意見の違いに折り合いをつけながら、ずっとそばにいてくれる人。


※職業は医療従事者でしょうか?

決してそうとは限りません。

中小企業の多い日本。

職業選択の自由といえども、

女性社員がいずれ結婚や子育てから仕事を辞めるかもしれないと考え、

女性社員か男性社員かに関わらず、

結婚や子育てをしながらでも働きやすい職場にしようという努力をしていない企業。

世の中にどれくらいの数存在しているでしょうか?

コロナ渦による経営悪化により

やむを得ずリストラに踏み切る経営者。

リストラされた方の地獄もしかり。

また、今回の登場人物のように、残された数少ない人員で休みを返上して毎日朝早くから夜遅くまで働かなくてはいけない地獄。

若い世代の魂の叫びに耳を傾けてほしい。

少しくらい愚痴を聞いてあげる包容力のある社会であってもいいんじゃないか。

僕はそう思います。


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