第3話 ブラックコーヒー

覚悟は決めた。直接言うべきだと思ったので、今日会えるかメッセージを送ったら、

「今日の15時にここに」

という返事と共に、聞いたことも無い喫茶店の位置情報のリンクが送られてきた。確かに、大女優が一般人と会うだけで記者たちは追っかけ回すだろう。真梨さんは結婚してない。それなのに男子大学生と堂々と会っていたら間違いなく大スクープだ。

15時の10分前に喫茶店に着いた。大通りから小さな路地に入ったとこにある、大人な感じの店だ。一歩路地に入っただけなのに、全然人通りはない。多分真梨さん行きつけの店なんだろう。

「先入って」

メッセージが来て、察したので先に店に入った。

店内はバーカウンターがあり、テーブル席が3つ。落ち着いた雰囲気だ。70歳ぐらいだろうか。白髪で、高身長、タキシード姿のマスターが1人いる。数多くの酒も置いてあるので夜はバーなんだろう。

「いらっしゃいませ。1番奥の席へどうぞ。」

俺を見て理解したのか1番奥の席へと誘導した。2分後ぐらいに、真梨さんも入ってきた。ハットにサングラスにマスクの格好で入ってきた。

「やっほ。」

「すみません呼び出して。やっぱり直接言うべきだと思って。」

「うん。全然いいよ。17時から雑誌の撮影があるからそんなに長くはいれないけど。」

このあとも仕事があるのか。この人はいつ休みがあるんだ。

「類君、コーヒーブラックでいい?あ、もしかしてブラック飲めない?」

「え、あ、いや、飲めます。」

恥ずかしかったので、いつもはカフェラテだか強がってブラックにした。

「渋谷さん。ブラック2つね。」

あの人渋谷さんって言うんだ。

「ここはねー、私がまだ全然売れない時から通ってる店なの。初めて雑誌の表紙飾った時も、初めてドラマの主演が決まった時もここに来た。もちろん、最優秀賞取った時もね。渋谷さんは私が売れない時からお世話になってるの。」

「じゃあ、真梨さんにとってここは大切な場所なんですね。」

「どうぞ。」

渋谷さんはコーヒーを2杯置き、それだけ言ってまたバーカウンターに戻った。

苦い。俺ってまだ子供だなと思い知らされるような苦さだ。それを美味しそうに飲む真梨さんは格好良かった。

お互い一口飲んでカップを置いた時だった。

「で、返事は?」

まさか真梨さんから言ってくると思ってなかったので驚いて、言葉が詰まった。

「わざわざ呼び出して、マネージャーするかしないかの返事でしょ?」

「は、はい。」

「どっちなの。教えてよ。」


「まだ20歳で務まるか不安だし、芸能界の仕組み的なの全くわかんないし、サポートする側なのに、迷惑ばっかりかけてしまうかもしれないし…」

「 ふふっ、気にしなくていいのに。あ、ごめんね。遮っちゃって。続けて。」

「それでも、全力で出来ることをして、真梨さんをサポートします。」


「五十嵐真梨さん。マネージャーの仕事引き受けさせてもらいます。これからよろしくお願いします。」


「もちろん。こちらこそよろしくお願いします、類君。」


こうしてマネージャーとしての俺の人生は始まった。

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