第9ステージ おうち探しは掛け違い!?③
車に乗って、駅近くの建物に案内される。落ち着いた色合いの建物で、見た目は良い。エレベーターで3階に辿り着き、扉を開く。
「ここが、わたしたちのお家ですか~」
「違うよ!? 俺の一人暮らしの家を探しているんだよね!?」
「あー、二人で眠るにはちょっと狭いですね」
「だから、俺の一人暮らしのっ」
「一人ならいいですが、お風呂はもうちょっと広い方がいいですね」
「俺の一人暮ら……」
あずみちゃんを呼んだのは、やっぱり人選ミスだったかもしれない。
けど、こうやって実際に見てみると図面と現物はだいぶ違うとわかる。図面上でこれぐらいの大きさなら許容範囲だな~と思っても、いざ行ってみると印象が違う。寝る場所がない、物が入らない。見るたびに欠点を発見してしまい、不安になる。
けど、理想にあう部屋を探していくと、住む場所が駅からどんどん遠くなっていく。
ある程度、妥協をしないといけないのだろう。ここは譲れないって所を決め、自分の中で優先度を考えていく。お金と、広さと、距離。建物の中だけでなく、周りの環境も重要だ。どんなにその部屋が良くても、1階が飲食店だと匂いが凄いし、飲み屋が多いと騒がしい。悩める要素が多いし、昼間に見ただけではわからないこともたくさんあるだろう。隣人ガチャ、上下階ガチャ、大家さんガチャ。
お金を払えばそれなりのところになるはずだが、運要素も多い。住めば都というが、住む決心は覚悟がいる。
「難しいなー……」
「なかなか、決められないものですよ」
5件ほど内見したが決め切れず、今日の賃貸探しは終了だ。
遅めのお昼タイムとなり、あずみちゃんと店に入った。
あずみちゃんに長い時間付き合ってもらったので、お昼は俺のおごりだ。といっても、ファミレスなので威張れない。けど、チェーン店のハズレの無さは安心できる。知らないお店で冒険して、「うーん……」と唸る微妙な味であることも多い。ハズレがないことは重要だ。うっかりフェア商品を頼むと失敗する。しかし、いつもと同じなのはそれはそれで代わり映えの無い、つまらない人生なのかもしれない。
だから、俺は刺激を求める。ライブに行き、非日常を味わう。
……日常に、刺激を求めてはいなかったのになー。前の女の子の美味しそうに食べる姿を見ながら、「それも悪くないか」と思い直す。
「あずみちゃんがいてくれて良かったよ。女の子視点、超重要」
「ハレさんがわかってなさすぎです!」
「ごめんごめん」
「ハレさんが心配です……。一人暮らしできるかしら。本当に一緒に住んじゃいますよ?」
「それは勘弁してください」
「勘弁って! やっぱり……ハレさんは私のこと……」
急に虚ろな目になって、闇落ちしようとしないでほしい。ビビるって。
「けど、オタク同士のシェアハウスは面白いかもな。アニメ鑑賞やライブ鑑賞も感想を言いながらだと、楽しいしさ」
「話を逸らしましたね?」
「逸らしてないって!」
「まぁ、わかりますよ。私もハレさんと一緒にライブ行くの好きですし」
好き、と迂闊に発言しないでほしい。危うく、箸で持っていた料理を落としそうになる。
「ただ、オタク同士のシェアハウスだと、こだわりも強いから対立も多いかもな」
「わかります。アニメの解釈違いで喧嘩しそうです」
誰かと住むのは家族でも難しい。時間を共有するのは楽しいことだが、ずっと一緒となると話は別だ。嫌な面も見えてくるものだ。
……あずみちゃんと一緒に住む気はないよ?
「一緒に探してくれて、ありがとう」
「ハレさん、私の告白は覚えていますか」
あの時は、「聞き間違いじゃないか」ととぼけたのに、今はしっかりと聞いてくる。帰り際に発した、「私はハレさんに恋しています」という言葉は、まだ耳の中に残っている。
「忘れないよ、忘れない」
あの日からまだ1週間だ。なのに、色褪せず、より色づいている。
「よかったです。あ、ああ~、今日の返事じゃなくていいんです。じっくり、気長にでいいんで。今は、ハレさんと一緒にいられることが楽しいんです」
「そっか。ありがと」
その言葉に甘えてしまう。俺も今の関係が心地よい。
「ハレさんの引っ越し、手伝いますのでいってください」
「さすがに悪いよ。力仕事だし。そこは家族や業者を使うからさ」
「……家族。私も挨拶をしとくべきですね」
「大丈夫!!」
「だって、ハレさんは私の両親にすでに会っているんですよ? 私が会っていないって不平等です」
確かにその通りだ。会うつもりはなかったが、あずみちゃんの両親に出会い、お父様には車で家まで送ってもらった。
「それに、ご両親は当分海外で暮らすんですよね? 挨拶したくてもなかなかできなくなっちゃいます」
親が海外でいない。……アニメでよく見る設定だ。
主人公が高校生ぐらいなのに、両親が海外に行ってしまい、一人暮らし。普通に考えたら主人公が可哀想すぎる。一人暮らしを心配し、足繫く通う幼馴染、ヒロインの突然の共同生活、急に義理の妹が!? となるための設定ではあるのだが、高校生はしっかりと養ってあげてほしい。
「じゃあ準備できたら、唯奈さまライブブルーレイ鑑賞会しましょうね。絶対ですよ、絶対!」
強い圧に、頷くしかなかった。
こうして次の週には住む場所が決まったのだが、その1週間後に引っ越しが決まり、あずみちゃんも夕方以降手伝いに来ることになったのであった。トントン拍子で話は進み、休まる暇がない。
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