第8話1-8生理現象
次にトイレに行きました。朝起きたらとりあえずするのです。まっとうな習慣であり、生理現象です。
そのトイレの木造四角囲いの中で彼女は長く居座るときがあります。その間スマホをいじったりぼんやりと空想するのですが、あまりに長く居すぎると親から心配されるのです。お腹を壊したと勘違いされる時が多いのですが、彼女のお腹は頑丈ですのでそれはあまりありません。
また、何回もトイレに行くことも多いです。女性特有の理由もあるのですが、彼女の場合は快便が原因の時が多いです。1度で出しきれなくて2回目3回目となるときが多いのです。
その2つの理由で母からトイレの神様とからかわれる時がある彼女ですが、それの度にへそを曲げて口をきかなくなります。もともと心夢は母と口数が多いわけではありませんが、さらに少なくなります。母も自分の娘のことですから怒っていることを見通して、話しかけなくなります。
ここでややこしいのは、心夢が怒った理由はトイレの神様と言われたことやからかわれたことではなく、トイレの習慣について言われたことです。彼女は自分のしていることを納得がいく理由なく何か言われることを嫌うのです。たとえそれが褒め言葉だとしても、彼女は唇を尖らせてしまうのです。
この日も2回目のトイレの最中に母がアクアクララの水をピッチャーに入れるために2階に来て、「トイレに入っていたん?」と聞いただけでむすっとした顔をしました。そのまま会話も目を合わせることもせず、ブツブツとつぶやきながら部屋をウロウロするのです。それは彼女がストレス発散のためにすることであり、心夢は気づいていないのですがこれを見たら母は娘の感情を理解して姿を消すのです。
母が階段を下りていく音を聞きながら、彼女は寝ていた時と同じ白のTシャツとねずみ色の短パンのまま仁王立ちしていました。そして、顎から汗が滴り落ちるのを右足の甲に受けながら、扇風機をつけることを決心しました。彼女は汗で濡れた右足を前にスライドさせて、その親指で扇風機の中のボタンを押しました。
扇風機は羽を回すとともに首を回し始めました。彼女は扇風機の後ろのボタンを引っ張り、首を固定させた。そのまま直撃の風で服をなびかせながらソファーに座りました。
でも、すぐに立ち上がりました。すぐに服の下を扇風機の上に乗せて、服の下から風を膨らませました。首元から涼しい風が吹き上げることに満足していました。
それを数分しながら、彼女は自分の脇の下に手を忍ばせました。その脇の下は数日処理していない毛がブツブツとしており、こしょばいものでした。腋毛というものは汗とかの対策になるから生えていたほうがいいと聞いたことがある彼女ですが、さすがにそこまで女を捨てることはしていませんでした。
彼女はその手をそのまま鼻の下に持って行きました。それは少し酸い匂いをしているように彼女は感じましたが、幼き頃よりアレルギーの関係で慢性的に鼻が詰まっている彼女には気のせいに感じました。かき氷のシロップには味の違いがないけど先入観で味が違うと感じるように、彼女は脇の下が臭いと思っているから臭いと感じたのだと前向きに納得することにしました。
それはともかく、彼女は未だに暑い状況に業を煮やして、冷房をつけることにしました。設定温度は28度が推奨されているのですが、そんなことはお構いなく25度まで下げました。部屋の温度計が32度を記録しているなかでの出来事です。
彼女はそのままソファーにヘタリこみながら、ぼんやりとした自分の頭を冷静に働かせました。最近の自分の状況を冷静に考えました。我に返りました。
すると、自分の置かれている情けない状態に泣きそうになりました。でも、泣くのを我慢しながらソファーに力なく寝転がりました。そのまま彼女は熟睡しました。
「暑い」
その声を聞いて、心夢は目を覚ましました。頭の上には心夢の母が立っていました。心夢は幽霊かと一瞬勘違いしました。
「温度下げるで」
そう言いながら娘に承諾を得ずままエアコンのリモコンをピッピッと母が押していた。母はスマホをいじる時に2階のルーター付近に来るのです。この鉄筋の家の性質上、下までワイファイの電波が飛んでこないのです。
とはいえ、心夢や晴美のスマホは下でもギリギリ電波が届きます。ただ、老人用のスマホを母が使っており、そのスマホでは電波が届かないのです。母は長時間のスマホ利用の時は2階まで来るのです。
心夢はエアコンから流れてくるぬるい風を心地よく思いながら母を見上げていましたが、冷房のはずなのにぬるいことを失念していました。心夢はガバッと身を起こし、母からリモコンを取り上げました。そこに表示されている部屋の温度は31度でした。
設定温度を確認したら、25度でした。心夢も母も、この暑さで25度はおかしいと言いたげなへ文字の口で見合わせた。彼女たちは、設定のやり直しやリセットボタン押しやエアコンを叩く等を行った。
25度設定エアコンの31度風は直らなかった。彼女たちは首元や脇の下を汗で黒く染めていました。
「あかん、壊れた」
母は暑さのあまり息絶え絶えでした。心夢は冷静に息を大きく吸っていました。普段から暑がりの母と冷え性の娘は熱い息でした。
「お父さんが帰ってきたら、言おう」
母はそう言いながら足早に階段に向かいました。下では冷房が効いているので、そこにいち早く行きたいのです。スマホは多少のギガ消費を覚悟に下でいじるようです。
「あんたもこんなところにいたら熱中症なるで」
そう言葉を残しながら母はドアをバタンと閉じました。そのドアの押す勢いは部屋の中に熱の空気を響かせました。しかし、すぐにエアコンの熱風に相殺されましたので、心夢に与える影響はありませんでした。
心夢は熱風のエアコンをそのままにソファーにヘタリこみました。まるで、先ほどの母が来てからの出来事がなかったかのように、全く同じ写真のような光景でした。そのまま意識が薄れていくのを感じたり感じなかったりの意識でした。
その意識の薄れは暑さのせいかもしれませんでした。しかし、そうじゃないかもしれませんでした。彼女は暑さも薄れていくことも感じました。
暑さが薄れていくことを通り過ぎて、心夢は徐々に体が寒く感じてきました。もしかしたら冷房が効いてきたのかと思いました。リモコンを確認すると、33度と温度がさっきより上がっていました。
心夢はプルプルと慣れない体幹運動している最中のような震え方をしていました。そのときと同じように体の奥から熱いものが沸き上がってくることを彼女は理解していました。しかし、感覚としてはなくて概念として理解していただけでした。
ふと彼女は幽体離脱したかのように自分の体が俯瞰して見ることができるようになりました。それは研究者がマウスなどの被検体を遠くから見つめるようなものでした。彼女は自分の体がだらしなくソファーに横たわっていることを確認すると、虚脱感を覚えました。
彼女は自分の体を客観視している研究者の立場から、第三者視点で自分を見ている立場から逃れることができませんでした。すると、そこにあの不審者が、最近家の周りで見かける不審な男性が自分に近づく姿を発見し、テレビに話しかけるように自分に避けることを叫びました。しかし、目の前の自分はピクリとも動きませんでした。
そして、自分が静かに首を縄で絞められているのを見るのみでした。その度に、自分の首が締め付けられる感覚に備えていましたが、全く痛いとかの感覚リンクがありませんでした。そのまま、自分が静かに息を引き取る姿を見ていました。
そこで彼女は目が覚めました。びっしょりとソファーについた汗は暑さからなのか悪夢のためなのか。彼女は首を触りましたが何もなく、心臓に血が通うのを感じながら息絶え絶えの中を頭が垂れました。
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