第6話1-6別階からの返事

 彼女は2階に上がると、早速USBファンを接続しました。それは思ったより彼女を満足させるものでした。彼女はそれに満足して小説を書くことを忘れていました。

 すぐにひと世代前のゲーム機を起動させて、一昔前の野球ゲームをやり始めました。自分が作った架空選手を集めたチームと実際にいたOB選手を集めたチーム同士をコンピューターで戦わせて観戦する遊び方に最近ははまっていました。能力だけを見たら架空選手たちの方が強いのですが、何かしらの内部データの影響からか、OBチームが勝つことが多かったのです。

 しかし、この日の30分間の観戦結果、架空選手たちのチームが珍しく勝ちました。彼女の体感では、3割くらいしか起きない出来事でした。バッターの打率と考えたら十分な数字ではありました、このチームの勝率としては不十分でした。


「久しぶりに勝ったな」


 彼女はそう思いながら勝利投手を見たら、知らない名前でした。彼女は不思議に思いながらも、そういう選手を作ったことを忘れていただけだと思い、あまり気に留めませんでした。ところが、スタメンの野手たちも知らない間苗がずらりと並んでいることに今頃気づいたのです。


「こんな選手いたっけ?」


 彼女は知らない架空選手たちを見て、少し気持ち悪い気持ちになりました。何も見なかったことにして、すぐにゲームを切りました。そして、録画したテレビ番組を見ることにしました。

 すると、これまた不思議なことに、知らない番組の録画がズラリと並んでいました。このテレビでの録画は自分以外しないはずなのになぜだろう、と彼女は悪寒を感じました。もちろん、母や妹が録画したという可能性も彼女は考えましたが、だとしても急にどういう心境の変化なのかと彼女には不思議で仕方のないことでした。

 そして彼女は、ゲームと録画の気持ち悪い出来事から、先ほどの男を連想してしまいました。母から見えなかったと思われるあの気持ち悪い男のことです。あれも彼女からしたら知らないものであり、奇怪なものでした。


「まさかね」


 彼女は引きつった顔をしながらテレビの電源を消しました。すると、USBファンの動く音だけが部屋の中に響きました。たいへん音が少ないところでした。

 すると、いきなりパソコンが起動するではありませんか。彼女はビクッと背中を上げてしまいました。しかし、すぐに背中を下ろすとともに胸をなで下ろしました。


「電源ついただけか」


 パソコンは長時間使っていなかったら勝手に節電のためにスリープするのですが、それが何かのきっかけで起動することがあるのです。彼女も小説を書くのがはかどらない時によく経験していました。彼女にとってはよくある出来事ですが、少し不気味なことを考えていた状況ですので勘違いしてしまったようです。


「ふー」


 彼女は安心したようにため息をつくと、暗くなってきたので蛍光灯の紐を引きました。しかし、それは点滅することなく暗いままでした。彼女は何回も引いたが、結果は変わりませんでした。

 彼女は怪奇現象を思い身震いしようと体が冷えた時に瞬時に気づいたことがありました。それは、電源の下であるボタンで常にオン・オフをしているので、蛍光灯の紐を引っ張っても意味がないということでした。どうしてそんな当たり前のことに気付かなかったのだろうと自分に言い聞かせるように笑いながらボタンに向かいました。

 バタン!


「わー!」


 急にリビングのドアが開く音がして、彼女は低い声を叫ばしました。そして、ドアの向こうに妹の晴美がいたのを確認しました。彼女は驚いた自分に笑いながらも、妹が閉じていくドアの向こうに消えていくのを眺めていました。

 心夢は深呼吸をした後、ボタンを押して蛍光灯を光らせました。それは少し点滅しており綺麗には光っていなかったが、中身の電池が切れかけているのだろうと心夢は気にしていませんでした。それよりも、一度ドアを開けたのになかなか部屋に入ってこない妹のことを気にしていました。


「なにしているのよ」


 そう言いながら心夢はドアを開けました。しかし、そこには妹の姿はありませんでした。心夢は嫌な気持ちを持ちながら、下にいるであろう母に大声で聞きました。


「母さん、晴美は?!」


 すると、下から返事が返ってきました。


「まだ帰ってないけど?!」



 心夢は早急にテレビをつけにダッシュしました。怖さを紛らわせるために、何かしらの映像や音が彼女には必要だと感じたのです。機械の向こうからは暖かいテレビ番組が流れてきましたが、彼女の歯は寒さでガタガタいっていました。

 彼女はソファーにかけてあった薄い毛布を体に巻いて怯えるということはしなかったが、その毛布を背中に踏みつけてソファーに腰を下ろしました。そして、自分が寒さを感じるのは冷房が効きすぎていることに気付きました。ソファーの正面から髪の毛を揺らしてくるその冷たい風の効果を弱めるためにテーブルの上のリモコンを手に持ちました。

 それは、10年以上前から家で使われているクーラーだったので、そのリモコンも古いものでした。少しボタンを押すと謎の点滅を始めたり画面が突然真っ白になったりしていました。心夢は何回かいろいろなボタンを押したり時にはリモコンを叩いたり、さらには電池を入れ替えたりしました。

 その結果、黄ばんだ白いリモコンからこれまた黄ばんだクーラー本体へと温度上昇と風力弱体化の連絡が伝わった。その間に暖房への変換だとか風量・風向のリセットが勝手に行われたことに彼女は目をつぶっていました。とりあえず、彼女の体に走っていた寒気は治まりました。


「それにしても、あれはなんだったのかしら?」


 心夢はだるそうに肩を落としながら、先ほどの妹と思われる者の姿を思い出していた。よくよく思い出したら、その顔は薄暗くてきちんと思い出せないものだった。しかし、それはあらゆる記憶に対して言えることなので、これで彼女が特殊な状態に置かれているとは言うことはできないのです。

 彼女はぬるくなった部屋で服の胸元を指でつまんでパタパタと仰いでいました。そこまで大きくない胸がブラジャーで覆われているのを意識せずに、汗が谷間に流れていくことだけを意識できました。それとともに、胸の下に汗が溜まっているだろうから風呂で丁寧に洗うことを今決心したのです。

 彼女は数分前に上げた冷房の設定温度を下げることを決心しました。力なくソファーから滑り落ちてハイハイしながらテーブルの上に置いたリモコンのところに手を伸ばしました。すると、彼女は手首をぐねらせたわけでもないのに体のバランスを崩して亀のようにひっくり返ったのです。

 そのままひっくり返った亀のように立ち上がれない彼女は、屁をこきました。普段の運動不足により起き上がれないのに腹筋を力強くしたことが原因だと思われます。そのガス自体は冷房の風によりそのまま彼女の足の先の方向に流れていった。


「なにしているの?」


 そのガスが向かった先であるドアのところから晴美が姉に訝しい顔で尋ねた。姉がズボンを履いているとはいえ股を大きく広げた卑猥でだらしない姿には、家族は汚れた雑巾を見るような目になるのは仕方のないことであります。それが愛嬌のあるペットの犬なら可愛いかもしれませんが、人間で姉で愛嬌がないのですから、仕方ありません。


「ちょっとコケて」

「ふーん」


 そう会話と言えるかどうか不明の会話をした後、晴美はリビングを通り過ぎて自分の部屋にこもりました。心夢は脚をたたんで肘をついて立ち上がり、静かにリモコンを操作しました。クーラーはピッという音を出したと思ったらグォオーと元気な音を出しながら、リビングに冷たい空気を張り巡らせました。

 心夢は床に座りヘタリながら頭を冷やしていました。そして、あることを確認する必要を感じました。ハイハイしながら晴海の部屋のドアをノックしました。

 ガラガラっという音とともに晴美が部屋から出てきました。彼女はそのまま歩みを進めようとしたら、すぐ足元に姉が寝転がっているのを見て、ガクンと急ブレーキをした車のように手で壁をついて踏みとどまりました。角度的には妹のパンチラが期待できる状況でしたが、妹は季節に合わない長いパンツを今日も履いていたので、姉からしたらあってもなくてもどちらでも良いパンチラは起こりませんでした。


「なに?」


 妹は角度的に姉を見下していました。


「あんた、一回2階に上がった?」


 角度的に2階を見上げるような姿でした。


「なに言っているの? 今上がってきたばかりよ」

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