第11話 決着! 絶酔魔拳VS激流槍拳だにゃ!

「おっおおお……おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 煌々こうこうと輝く酒気の波動に包まれながら――しかし、シャコナイトは左手の両刃剣を振るい、この光弾を弾き飛ばして見せた! 


「剣が――剣が噛み砕かれたところでどうした!? 負けて、負けてなるものか! 私は強くなければならぬのだ! 貴様のような、貴様のようなふざけた小娘如きに! この私の夢が! 終わらせられてたまるものかァァァァァァァ!」


 強くなければ。

 強くなければ、何も守ることができない。


 強くなければ――名家としての誇りを守ることが出来ない。

 強くなければ――何もかも奪われてしまう。

 強くなければ――夢すら見ることが叶わない。


 シャコナイトは超級絶酔爆裂弾ちょうきゅうぜっすいばくれつだんを弾き飛ばした衝撃によってえて吹き飛ばされながら、ローリエルと意図的に距離を取る! その距離は、およそ五十メートル! 奇しくも初撃と同じ距離!

 着地と同時に折れた刺突剣と両刃剣を放り捨て、構える! 低い体勢からなる、独特の構え!

 左腕を前方に突き出し、右足は抱え込むように!

 全身のあらゆる関節をバネの如く収縮させ――溜めて溜めて溜めて溜めて!!


「人間を辞め! エビ男と蔑まれようとッ!! 私は強さを手に入れて! ここまで来たのだッ!! それが、こんなところで終われるかーーーッッッ!!」


 この時、シャコナイトはすべての関節に凄まじい力を溜め込んでいた! 今にも解き放たれんとするバネの勢いを、留め具状の構造をした関節によって強引に引き留めている状態!

 そう、剣士である彼がシャコの魔物と融合する道を選んだのは――ひとえに、この特殊な肉体の構造を手に入れるためだった! 言うなれば、デコピンの原理!

 デコピンは、親指という留め具の存在によって力を溜め、一気に解き放つことで凄まじい威力を発揮する! それと全く同じことが、シャコナイトの全身で起ころうとしているのだ! この爆発的な力の解放こそが、彼の刺突剣を神速へと至らしめていた理由である!

 しかもシャコナイトは今まで、この驚くべき特性を、降り注ぐ雨のような刺突へと昇華させていたが――いま彼は全ての力を、次の一撃に注ぎ込もうとしている!

 手数は百分の一になるものの、|強化された速度と威力によって破壊力は一万倍百×百=一万となる!


「愚かな人間をこの世から滅ぼし尽くすまでッ! 私の夢は終わらないッ! ――激流槍拳・光芒一閃 ル・ク・ドゥ・フードルッ!!」


 激流槍拳! それは剣技ではなく、拳技! 剣を捨て、拳で敵をほふり去るための最終奥義! 空前絶後のスピードから放たれる、最速・最強の正拳突き!

 解き放たれたシャコナイト、そのスピードは音速――! 否――神速! 否否――光速ッッッ!! シャコナイトはこの瞬間、間違いなく光速に達していたッ! 空前絶後の疾駆しっく、その背後には、虹彩こうさいが弾け飛ぶ! 空気中の魔力が摩擦によって蒸発したために発生する現象だ! この幻想的な光景を目で追える者は皆無!


 ただ一人――ローリエルを除いては!


「さすが、魔王軍最速っていうだけはあるにゃ! 流石の私も、!」


 刺突拳を繰り出そうとしたシャコナイトの眼前には――すでに、拳を振りかぶったローリエルの姿が!!


 (――分かる)


 シャコナイトは直感する。

 光速に至った今だからこそ、分かる。

 あの拳は――光よりも、さらにはやい、何かだ。


「絶酔魔拳奥義――狂華酔天破墜砲きょうかすいてんはついほうだにゃ!!」


 ローリエルの拳が、シャコナイトの腹部へと深々と突き刺さり――そしてほとばしる酒気の波動砲がシャコナイトを貫通!! 暗雲に包まれた夜空すらも突き抜けて! どこまでも、どこまでも――暗雲を、夜空を、天を突き抜けて!!

 すべてを無に還さんとする凄まじいエネルギーの奔流が、夜の帳を白く染め上げたのだった……!

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