第21話 不思議のなんとか

この魔術洞の特徴は、『視界』と『罠』にあった。魔物がうじゃうじゃ~、なんてことがないのは幸いだが、『罠』はかなり厄介だ。

 自然生成される「落とし穴」や「落石」だけでも危険で厄介なのに、どうも人口的な罠……例えば、「毒ガス」や「睡眠ガス」なども混ざっている。

 まあ、落とし穴は思いのほか分かりやすいし、落石はアーロとヘイルがだいたい砕くなり防ぐなりしてくれるため何とかなっている。ガス系は全部俺が無効化できるし、別段問題ではない。


 ただ、視界があまりにも悪いのが最大の問題だ。灯魔法ランパーでアーロが照らしてくれているのだが、一メートル先が見えるかどうかというような視界の狭さ。そのせいで、見た目に分かりやすい「落とし穴」もかなり警戒しなきゃならない。


 幸いにも、道自体はレイの痕跡追跡サーチの応用で迷わず進めている。


「そこ、左です」

「うむ、落とし穴もない。大丈夫だ」


 今のところ、別段ハプニングは起きていない。魔物にも遭わないし、落とし穴に落ちかけたのも俺だったから飛んで脱出したし、ガスは何とかした。

 見張りがあの二人以外見ていないのが怪しいが、まあ、今のところ大丈夫だし……?


 と、突然アーロが立ち止まった。


「どうしたんだ?」

「むう、此処からは通路が狭くなっておってな。一列に並ばねば通れまい。先頭は吾輩が務めるが……」

「なら、私がその後ろ、続いてヘイルさん、ヒルフェさんの順でどうでしょう」

「せ、先生がいいのなら……」

「俺が一番後ろかぁ、まあいいけどさ」


 狭い通路で一列。ますますどこかのゲームみたいに思えてきた。いやまあ、ここは現実なんだけど。


 この通路には罠が仕掛けられていなかったようで、何事もなく進む。そして、開けた場所に出ようとした時だった。

 俺がその通路から一歩踏み出した時、カチッという音がした。


「へ?」


 その瞬間、足元から網が出てきて俺はそれにかかった。

 網は浮き上がって、吊り下げ式のコンベアーみたいに動き出す。


「先生?!」


 ヘイルが止めようと動いたものの、突如高速で動き出した網には追い付けず、俺はそのまま運ばれる。


「おわあああ?!」


▼▼▼



 すごい速さで運ばれていたかと思えば、歩くくらいの速さになった。急過ぎて酔いそう。なんか遊園地にこういうアトラクションあったよね。 

 ところでこれ、何処に運ばれているのだろうか。もしや、焼却炉とかじゃないよな??(多分)死にはしないとはいえ、熱いのは嫌だな。


 なんて考えているうちに、突然視界が明るくなった。そこは何と言うか、洞窟を利用した秘密基地という感じの部屋……間?だった。

 その部屋で網が止まった。そして、俺に向けて短剣を向けている、The・女盗賊といった格好の女性と目が合った。


「……」

「……」


 なんだか気まずくなり目をそらすが、この無言に耐えられなかったので再び目を合わせて、なんか言うことにした。そうだ、初対面なんだし、なんか挨拶しよう。


「あー……おはようございます?」

「……はぁ?」


 うん、まあそりゃそんな反応になるよね。俺だってそっちの立場ならそう言ったよ。


「アンタ、侵入者だな?何処の誰か名乗りな」

「え、俺?」

「それ以外に誰がいるんだ?」


 女盗賊は短剣を突き付けてくる。

 そうだよね!うん、小ボケかましてないで名乗れってことか。うん、わかってるから睨まないで。


「あー、俺はヒルフェール・ケセド。この辺に住んでる魔族だよ」

「は?どう見ても人間にしか見えんが」

「羽あるから!羽、ほら!」


 軽く羽を動かすと納得したのか、「ほーう」と呟いた。目が怖いです、お姉さん。


「で、何のためにここに来た?」

「えー……」


 短剣を突き付けられているので、下手なことは言えない。いくらでも傷とかは治せるとはいえ、痛いのは嫌だ。とはいえ、馬鹿正直に話すのもなぁ。

 と、いうことで、ごまかすことにした。


「いやー、住処の近くに洞窟があったからさ、調べてたら罠に掛かっちゃって」

「見張り2人を氷漬けにして気絶させて、か?」


 え、あ、知ってんの?!と思うが、何とか口に出さないようにする。しかし、表情には出ていたらしく。


「情報共有の方法があるからな。内容は秘密だが」


 【解放の魔】を使い、女盗賊のスキルを見ようと試みる。



《解析結果:ペーヴィル・ケムダー

 種族名:人間族

 称号:”アルイバル盗賊団団長”

  所持スキル:【風魔法】【視覚共有】【思念伝達】》


 成功。なるほど、盗賊向きのスキルだ。【風魔法】の中には会話を聞くものや、姿を隠蔽できるものもあったはずだ。【視覚共有】は対象の視覚を盗み見るスキル。本にも記載されているような大盗賊の団長も持っていたとかなんとか。


「それにな、アンタのかかったその罠は『四人目以降』を捕らえるものなんだよ。少なくとも、お仲間さんが三人いるってことだ……なぁ?」

「うっ……そ、それはそうとさ!なんでペーヴィルさんは盗賊なんてやってるんだ?」


 あ、ついつい名前を。女盗賊……ペーヴィルは怪訝そうな顔をするものの、「名前くらい売れてても仕方ないか」と呟くのが聞こえたのでセーフだ。



「アンタ、命の危機の中でそれを聞くのか?……まあ、敵意が見えないし、暇だからな、気まぐれだ。変な動きしたら殺すから、な?」

「あっはい」


 ペーヴィルは短剣をホルダーにしまうと、網の近くに座る。あ、俺この状態のまま話聞くのね。


「……オレ達は元々、行き場のない奴らの集まりなんだよ。その日暮らしでも支え合ってな、それがいつの間にかこんな盗賊団になってんだよ。中には冒険者になれるほどの実力の奴もいるけど、なんか付いてきてくれてんだ」

「スラム街出身とか?」

「ああ。この国じゃなくて、逢情国モルガナってとこのだ。この国にはスラムらしいスラムはないからな」

「へー」


 スラムらしいスラムがない、もしくは見当たらないというのはすごいことだと思う。格差はあるのだろうが、それでも最低限の生活ができているのならば、ある種の理想の国の形の通過点だろう。


 ちなみにモルガナは、結構昔からある国だ。塔にあった歴史本によれば、今から二百年程前に興された国だ。たしか、魔王が治めていたような……あー、名前が出てこない。


「とにかくな、オレ達はこの盗賊団が居場所なんだよ。で、まあ……クソみたいな領地になだれ込んで、盗るもん盗って次へ次へ……」


 話を聞けば、思いのほか義賊のようなことをしていた。

 事故で死ぬことはあれど、人殺しはしない。魔物を狩りつつ、悪徳領主などを襲って、金をばらまく。今回村を襲おうとしたのは、村が悪徳村長によって云々だと勘違いしたからだそうだ。


 ぶっちゃけ、どこからどこまでが本当で、何処から何処までが嘘なのか判断はつかない。実際、バグミラージをけしかけてきたから、一部は嘘なのかもしれない。


 ただ、行き場のない者達の居場所ってのは多分本当だ。うーん、何とかできないものか。




 そして、沈黙。どうしよう、気まずい。どうしようか考えていると、轟音が聞こえ、ひんやりとした冷気が、部屋の隙間から漏れ出てきた。

 そして、盗賊団の下っ端と思われる男が駆けこんできた。


「お頭、侵入者です!」

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ほぼこもり転生魔族は平和に暮らしたい。~魔王認定されたのが解せない~ 冷凍みかん砲 @Reitoumikankyanon

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