第3話 面倒でも動くべき事ってあるよね

 さて、本当にどうしたものか。


 何処で知ったかはさておいたとして、やはり目当ては俺の回復のチカラか。

 別に、協力するのが嫌なわけではない。自分で言うのもおかしな話だが、俺は捻くれている訳では無い。頼られるのは嫌いじゃないし、困っている人がいるなら手を差し伸べたいとは思う。


 ただ、どうして悩んでいるのかと言うと、理由は三つ。


 一つは、本当に俺でいいのかということ。

 もう少し詳細を聞かなければ判断できない部分もあるものの、まだ、ハートフィルとヘイルの戦争は開始されていない。

 本や、村の人達の話、それからレイ達の口ぶりからして、「魔王」は確かに人知を超えたものではあるが、極端に畏れるようなものでもない感じだ。もしかしたら、ライ達や村の人が例外なだけかもしれないが。

 戦力が欲しいなら、他にもいるであろう「魔王」に頼んだ方がいいと思うのだ。俺には戦闘能力は、ほとんど皆無だ。


 二つ目は、これが本当のことなのか。

 俺が外のことをあまり知らないということに付け込んで、騙して協力させようとしてないか。

 戦争はまだ準備段階のようなのだが、これがもし、ハートフィルとヘイルの立場が逆で、ハートフィルの方がヘイルに戦争を仕掛けようとしていたら?

 もしそうだとして俺が協力したら、おそらく、色々な者に目を付けられてしまうだろう。悪い意味で。いや、目を付けられていることに関しては、既に手遅れな気もするが。

 ただ、これに関しては俺が疑いすぎているだけな気もしていたりはする。


 三つ目は、この先、のんびりできるのか。

 二つ目の理由が本当か嘘か、どちらだったとしても、おそらく、俺のほぼこもり生活に何かしらの影響があるだろう。

 確かに、「異世界転生!チート無双してやるぜぇ!」とか考えていたことはあるし、未だにあこがれている節はある。だが、俺は死にたいわけじゃない。

 なんだかんだと、今のこの暮らしが結構気に入っているのだ。まだ塔内の本を全読破できてないし、よく遊んでいる子供たちがもう少し大きくなったら魔法を教えるという約束もある。それに、あの夫婦の赤ちゃんの成長する様子も見たい。


 やりたいことは、思いのほか多いのだ。だから、ここに住めないなんて事態になってもらっては困る。


 とにかく、聞けそうなことを片っ端から聞いていこう。分かることなら応えてくれると言ったのは向こうだ。


「いくつか質問。まず、魔王って何人かいるんだろ?どうして俺に声をかけたんだ?」


「……はい。理由はいくつかありますが、一番は、あの村……メーレシェス村の存在です」


 近くの村とずっと呼んでいるが、あの村の正式名称は『メーレシェス村』だ。随分前の、二代くらい前の村長に聞いた話だと、名前の由来は「かつてこの地に巣喰っていた邪竜を退け、水をもたらした英雄の名」だそうだ。本で読む限り、もともとこの辺は乾燥地帯だったのだが、ある時を境に水が豊富な森に変貌したようなのだ。


「村が……どうしたんだ?」

「メーレシェス村は、一応はハートフィル領内に存在します。このデイザード大森林にある結構な僻地だったため、今まで噂以外では存在を確認されていませんでしたが、新たな魔王の神託を受け、所在を調査していたところ、あの村を発見しました」

「つまり?」

「ヘイルは侵略した土地を、一度毒素で染め上げます。なので、本格的に侵攻が始まれば、この地も危ないでしょう」


 うわぁ。思った以上に、ほっといたらヤバそうな案件だ。

 というか、「侵略した土地を毒素で染め上げる」ってなんだよ!殺菌消毒のつもりか!

 ……とは思ったが、おそらく、ただ楽しいというだけの理由に違いない。話に聞く限りの情報からの推測、だが。


「それについては分かった。けど、俺は戦力にならないのだけど……本当に俺でいいのか?間違ってない?」

「私共が今最も欲しているのは、ヘイルの毒素への対抗手段なのです。戦力面は勇者様がおられます。しかし、戦力以前に毒素で無効化されてしまうと、意味がないのです」


 『勇者』と聞こえた気がするが、今は気にしないでおこう。

 まあ要するに、状態異常対策がしたいってところか。確かに、状態異常は厄介だろう。俺も前世でゲームをやっていた頃、状態異常を無視して火力でゴリ押そうとして詰みかけたことが何度もあったっけ。

 その『勇者』がどれほどまでにチートな攻撃手段を持っていようが、その力を発揮する前に毒素で倒されては意味がない。

 なるほど、そういう意味では戦力がなくとも強力な回復役である俺が最適解って訳か。


 こうなると、『二つ目の理由』を度外視しなければならない。「騙そうとしてませんか?」と聞いて、素直に「はいそうです」と答えるわけがないし。なにより、こんな僻地までわざわざ騙しに来るような暇人ではないだろう。


「分かりました。この辺りがピンチになるってんなら協力しましょう」

「本当ですか?!」


 ライとロイも小さくガッツポーズしたのが見えた。

 ただ、一個だけ、個人的に聞きたいことがある。



「……ところで、俺が魔王だってこと、撤回する手段ってないの?」


 そう尋ねると、「それマジで言ってんの?」とでも言いたげな表情が三つ返ってきた。すぐにレイが咳払いして我に返ったようだが、そこまで変なことを言っただろうか?

 だって、のんびり本を読んで子供たちと遊んでただけでなぜか魔王認定されたんだぞ?しかも、片方だけでも認定される条件を、役満で。


 三人はしばらく悩む様子を見せながら、何やら相談を始めた。

 「前代未聞だぞ」とか「初めてきいたぞ」だとか聞こえてくるが、気にしない。


 それから、レイがまた代表で言う。


「分かりませんが、ことが終わり次第、方法探しに協力しましょう」

「あ、ありがとう」

「それでは、準備ができ次第お声掛けください」

「分かった。あ、紅茶飲み終わったんなら回収するから」

「は、はい……」


 準備ついでにカップも片付けてしまおう。

 ……ところで、旅支度って何を持っていけばいいのだろうか?

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