六章 第九圏
第33話
ぼくたちは銃口を突きつけられ、格納庫を開くように命じられた。エディが渋々応じると、〈ファントム〉を包囲していた内の半分の戦闘機が開いた格納庫に押し寄せてきた。
〈諸君らの中で動けるものは手伝いに来い。戦闘服(スーツ)を着用でな〉
一方的に命令した後、アドルフは通信を切った。
「……ぼくが行ってくる。あいつとは面識もあるからな」
「わたしも――」
クレアがいいかけたのを「一人で大丈夫だ」とぼくは制止する。
「カイル」歩き出したぼくをエディが呼んだ。「銃は置いて行けよ」
ぼくは逡巡のあと、携行していた拳銃をテーブルに置いた。
格納庫は〈サークレット〉の戦闘機でひしめき合っていた。戦闘服(スーツ)姿の兵隊が荷下ろしや機体の固定作業でその隙間を駆け回っている。中でも大声を張り上げて指揮を執っている者がいることに気づく。注目すると、そいつはついさっきモニターで見た顔をしていた。
「防衛主任殿が直々に指揮とは、ご苦労なことで」
傍にいたアドルフの部下がぼくに気づき、後ろから肩を掴んで床に押しつけた。アドルフはぼくをしばし見下ろして、それからいう。
「船の乗組員だぞ。離してやれ」
アドルフは作業の手を止め、まじまじとぼくを見た。
「何だよ」
「途中で棺とすれ違った」
ここはまだ〈ミグラトリー〉が在った宙域から離れている。間違いなく、それはマクスウェルだ。
「哂いたいのか?」
「ぼくを馬鹿にするのはいいけどな――」
いいながらアドルフに掴みかかろうとしたが、奴の部下にそれを阻まれた。
「あいつは――」
「勇敢に戦ったんだな」
「え?」
「戦った者を、どうしてわたしが愚弄する。そこまでわたしは落ちぶれてはおらん」
アドルフは手にしていたタブレット状の端末に視線を落とし続けた。
「これからカーゴに収容した生存者を移送させるから、お前は誘導を手伝ってくれ」
そして、その移送作業とやらが片付くと、アドルフは部下を引き連れ、艦橋にまで押し入ってきた。
「これが構造解析の結果だ」
エディは渋々〈スフィア〉の内部構造について説明を始めた。
「光線照射用のレンズを除けば、恒星を包む〈スフィア〉は全部で九つの層がある。そしておそらく、制御システムが設置されているのは、その最奥。九層目だ」
〈スフィア〉を縦に真っ二つに割った断面図がホログラムになって、艦橋の中央に表示された。ぼくとフランシス、それからアドルフとその部下はホログラムを囲む。〈プロテージ〉は〈コントラクター〉の残党がいないか周辺の宙域を哨戒中で、クレアは移送した生存者の世話を自ら引き受けたため、不在だ。
「構造はソナーを飛ばした調べたとして」とアドルフ。「制御システムが九層目にあると思う、その根拠は?」
「〈スフィア〉から一つ。……たった一つだけ、生体反応が検出された」
「その反応が、九層目にあるってこと?」とフランシス。
「そうだ」エディはいって、ぼくの方を向く。「その正体は……。カイル。君は見たんだろう?」
「〈ミグラトリー〉の残骸の中にいた化物だ」
「化物?」とアドルフは首を傾げる。演技ではなさそうだ。
「ぼくたちは呼び名を知らないんでね」とエディはいいながら、マクスウェルが遺した映像データを流した。〈サークレット〉の基地で隠し撮りしたというやつ。それから、〈プロスペクター〉のカメラが録画した交戦記録だ。
「この映像……初めの映像はどこで?」
「あんたたちの基地って話だよ」とぼく。「知らないのか? 知らないフリなのか?」
アドルフは苦い顔をした。「わたしだって、全部知っているわけではない」
「それで」とエディ。「〈スフィア〉について知って、あんたたちはどうするつもりだ」
「わたしの見立てによれば、あれはまだ活動中で、その砲口はこちらに向いているとみた」
どうだ? と聞く代わりに、エディはぼくを見た。
「おそらく……あんたの思う通りだよ」
「ならば、あれを止めねばならん」
「いっておくが」とエディ。「〈ファントム〉にだって、あれと戦う余力はもうないぞ」
「そんなことくらい承知している」アドルフは艦橋の窓から煌々と輝く〈スフィア〉を眺めた。「あれと戦うのは〈サークレット(我々)〉だ」
アドルフはぼくたちの方を振り向いて続けた。
「準備が整い次第この船は、生存者を連れてこの宙域を離脱しろ」
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