第30話

「誰かこっちを手伝ってくれる奴はいないか?」

〈こっちも手一杯!〉とクレア。

〈これって、外にいた連中が戻ってきたんじゃないか?〉マクスウェルが続く。

 助けは見込めないか。一人で対処しなくちゃならないのなら、群れが散開して四方八方の対処を迫られるような事態は避けたい。ぼくは壁面の穴に向かって、持っている火力の全てを叩き込む。しかし、押し寄せる量に対して、ぼく一機の火力では到底及ばず、撃ち漏らした敵軍が壁面の大穴から飛び出した。

「〈アトラクト〉!」

〈そいつらには効かないっていっただろう!〉とエディの通信だ。

「引き寄せるのは、あの虫たちじゃない。壁だ」

〈壁?〉

「早く組成のコードを!」

〈ファントム〉から送られてきたコードを〈アトラクト〉に送信する。

「セット!」

〈アトラクト〉が起動すると共に、壁の大穴から無数の瓦礫が飛来して、空間を舞う。〈プロスペクター〉なら当たったところで装甲が歪む程度の勢いでも、人の拳程度の大きさしかない〈コントラクター〉の虫たちにとっては大打撃だ。

 ぼくの機転が功を奏したのか、無数の敵機が散開して来た道を戻っていった。

「案外呆気ないな」

 いうと、エディが声を震わせていった。〈違う〉

「違う?」

〈《スフィア》が動き出した。ぼくたちを……この基地を狙ってる!〉

「自暴自棄にでもなったか?」

〈解からない。だが……来るぞ!〉

 エディの言葉を受けて身構えるが、〈プロスペクター〉には熱線をどうにかできる手段なんかない。諦めるな。どうするかを考えろ。そう。そうだ。せめて、遮蔽物を探さなくては。〈ファントム〉から送られてきた予測射線を参考に、ぼくは敵機が逃げた道を辿って少しでもそこから離れようとした。すると、先ほどいたのとは別の広い空間で、惑星基地の中枢から戻ってきた〈プロテージ〉と出くわした。

「退避は間に合わない」

 ぼくの顔を見るなり、〈プロテージ〉はそういった。

「適確な指摘をどうも」ぼくは突きつけられた現実を前にやるせなくなって、溜め息を漏らした。「そんな精度の演算装置を持ってるなら、是非、打開策を見つけるために使って欲しいね」

 マシン相手に皮肉をいったところで気分は晴れないが、〈プロテージ〉は反感を抱いたのか、銀色の粒子をその背から撒き散らし始めた。

「これでどうにかなるのか?」

「あくまで、時間稼ぎ」

「遺書でも遺しておけって?」

「わたしは守れと頼まれたから」

「あんたが守るのは〈ファントム〉だろう?」

「マクスウェル・ロバーツ」

「マクスウェル?」

「自分が合流するまでの時間が必要だと」

 銀色の粒子が密集し、射線を遮るように五層の防壁を形成した。

 空間の壁面が大きく振動を始めた。いよいよか。

 頭上が赤熱し、そして光線が差し込んだ。五層の防壁がそれを受け留める。しかし、数秒と持たず一層目が溶け、二層目も同様に消失していく。そして、三枚目の防壁が消失したのと同時、後方で大きな爆発が起こった。なんだ? いや、なんであれ、構っている余裕はない。四枚目の防壁が破れ、遂に残る防壁は一つになってしまった。

〈良く保たせた!〉

 その声の主はマクスウェルだ。ぼくたちの傍を高速で通り過ぎていったマクスウェルの乗機は、ぼくと〈プロテージ〉を背にして〈エーテル〉を展開した。

 光線を浴びた〈エーテル〉が急速に肥大化していく。これで、あの攻撃を受け切れる。そう思った矢先。ぼくはマクスウェルの機体が赤熱し、腕の装甲の表面から、泡が立ち始めたているのに気づいた。

〈ファントム〉の〈セイル〉は集めたエネルギーを〈ウェーブ〉に還元できる。〈グリッター〉もそうだ。〈ミグラトリー〉と衝突したとき、そのときまで蓄えていたエネルギーを衝撃に換えていた。だけど、元が採掘機である〈プロスペクター〉には大量のエネルギーを瞬間的に消費する手段はない。

〈プロテージ〉は〈エーテル〉を説明するときに話していた。飽和した分のエネルギーは装着者が受けるって。

「そいつを離せ! マクスウェル!」

〈離して、相手が攻撃を止めてくれるか?〉

「お前の身が持たないんだよ!」

〈こいつを手放したら、全滅だ。おれもお前も〉

「そうだけど――」

 ぼくはマクスウェルの手から〈エーテル〉の盾を奪おうとした。

〈《プロテージ》〉マクスウェルはいう。〈そいつを捕まえておけ〉

〈プロテージ〉は頷き、ぼくを羽交い絞めにする。

「どうしてお前がマクスウェルのいうことを聞くんだよ!」

〈彼の判断の方が合理的。全滅は避けるべき事態〉

「計算じゃないんだ。あいつに死なれたら困るんだよ!」

 しかし、〈プロテージ〉はぼくを解放せず、マクスウェルの〈プロスペクター〉が赤熱し、光の中へと消えていくのを見ていることしかできない。

「放してくれよ……頼むから」

 そういうと、〈プロテージ〉はゆっくり、ぼくの拘束を解いた。しかし、既にもう〈スフィア〉からの光線は止み、辺りは瓦礫と化し、マクスウェルの〈プロスペクター〉は無残な姿でその中を漂っていた。

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