第2話 砂漠の探索

 ゆっくりと空中に浮かぶ飛行船。障害物がなく進むため三日ほどで北の砂漠の街まで来れた。

 これ以上先は飛行船では進めない。というのも人間が管理できている区域の外は魔物や、異常気象が多発するためそこを進もうとすれば飛行船は墜落してしまうためだ。


「ここから先は歩いて行くしかないわけだけど……覚悟はいい?」


 アリシアは俺の方に向き、辺り一面の砂漠地帯を背に問いかけてくるがここまで来て行かない選択肢などない。


「もちろん、覚悟はして来た。古代遺跡の捜索をしていこうか」


 俺とアリシアは砂漠地帯を突き進む。

 肌を焦がすような、ジリジリと照り付ける灼熱の気温。喉は乾き、身体中から水分が奪われる。


「そこに空いている大きな穴には気をつけて。あれタイラントワームが通った後だから」


 アリシアが言った方向を見ると砂漠の大地に巨大な穴が空いていた。


「てことはこの辺りにタイラントワームがいるのか?」


「当たり」


 アリシアが当たりと言うと地響きのような音が聞こえる。恐らくはタイラントワームがこちらに気づいたのだろう。


「私にくっついて離れないで!」


 そう言われてアリシアの側に行くとアリシアに脇腹のところを片腕で回し掴まれ抱き抱えらる。

 アリシアはタイミングを測り、前方へとものすごい勢いで飛ぶと先程までいた場所には見上げる程の巨体なミミズのような怪物、タイラントワームが巨大な口を開き飛び出していた。

 アリシアに掴まれていなければ俺は今頃タイラントワームに食われていただろう。


「レイト、逃げるから落ちないようにしっかりと私にしがみついてて!」


「わかった!」


 俺はアリシアに言われた通りにしがみつくと腰回りも細く華奢な身体であり、どこに俺を片腕で持ちながら素早く動ける力があるのか不思議に思ってしまう。


 ーーー《重力転換》ーーー


 アリシアは俺を掴んだまま、先程までの比ではない速度で砂漠地帯を駆ける。そしてその速度はどんどん加速していく。まるで垂直に落下しているようだ。

 タイラントワームが見えなくなるまで走り続けてようやく速度を落としていく。


「はあ、はあ、ここまで来ればひとまず大丈夫でしょ」


 流石に息が荒げているが疲れている様子はあまりない。こいつ化け物なのか。


「なに、その化け物でも見るような目は?」


「ソンナコトナイデスヨ」


「なんで片言なのよ、目を逸らさずにこっちを見なさい……はぁ、私の恩恵の力で重力の向きを変えただけよ」


 恩恵とはこの世界に生まれた時から使える超常の力であるが恩恵を持って生まれる者はごく一部だけの人間だけだ。

 恩恵の中には使えないようなくそみたいな力もあるが重力を操る恩恵となればアリシアはかなり有名な冒険者だったのかもしれない。


「言っとくけど私と私に触れているもの限定で重力の向きを変えるだけだからね。あなたが想像している程、強力で使いがってのいい力ではないわ」


「そうか、さっきのは重力の向きを前方に変えたことによってあの速度を出せたのか」


「そう、無限に落下して行けるから落下すればする程加速していけるの」


 思ったほど強力ではないけどそれでもかなり凄い力だと思うのは俺だけなのか。


「というか話変わるんだけど、この先行けないけどどうする?」


 アリシアは指を差して示した先には流砂がいくつも出来ており、ここを抜けて行くのは無理であろう。


「そうだな、流砂に呑み込まれれば命はないしな。迂回して行くか……」


「どうしたの、何か気になることでもあるの?」


 俺が急に立ち止まって流砂の方を見ているのでアリシアから声をかけられる。


「いや、まさかな……ちょっとだけみて見るか」


 俺は鞄からロープを取り出してその先に重しをつけ流砂の中に放り投げる。


「ちょっと、なにやってるの?」


 俺の行動に不信感を抱いたのかアリシアが尋ねてくる。


「この流砂の中に古代遺跡あるんじやないかなってちょっと思っただけ」


「そういえば、あなたと会った時に地中の中にあるかもって言ってものね」


 俺の行動に納得がいかなくもないがまだ疑問があるようでアリシアは続けて質問してくる。


「でも、なんでロープと重しを入れたのかがよく分からないのだけど」


「俺も恩恵を持っているんだ、手で触れたものの過去を見ることが出来る力。大昔の過去を知ろうとするとしばらく動けなくなるくらい疲れるし、余計なことばっかり見えるからそこまでいい恩恵じゃないけどね」


 俺は恩恵を持って生まれてしまったせいで間違いを起こしてしまった。それにアリシアのように実用性はそこまでない。ハズレのような恩恵だ。


「凄くいい恩恵じゃない!」


 アリシアから返ってきた言葉は俺が予想していた言葉とはかけ離れていた。


「凄くいい恩恵?」


「ええ、だってあなた考古学者でしょ。なら過去の謎が知れるならぴったりじゃない。むしろそのためにあるような恩恵と言っても過言じゃないくらいに」


 あまりに純粋にそう言われ、少し面食らってしまう。恐らく今の俺の顔は間抜けな顔をしているだろう。

 この恩恵を聞くとだいたいの人は俺のことを警戒するようになる。自身の過去がバレるからだ。後ろ目たい過去の一つや二つ生きていれば誰しもが持っているだろう。そのため、俺の恩恵を知ると大抵の人は距離を置く。

 今回もそうだと思っていた。でもアリシアは俺の恩恵を凄くいいと言ってくれた。


 何故だか心が軽くなったような気分だ。


 俺は自身の恩恵のせいで家庭を崩壊させてしまったことがある。そのせいでこの恩恵に対するトラウマのようなものがあった。だけどアリシアのおかげで俺は何故考古学者となったのかを思い出させてくれた。あの頃の純粋な気持ち。わくわくとする高揚感とドキドキとする緊張感。大人になっていろんなことを知り、勝ってに擦れていた俺は子供の頃の気持ちを思い出させてくれた。


「……ありがとう」


「何が?」


「気にしなくていい。一人言だ」


 ロープを引っ張り、重しを持ち上げる。そして俺は手袋を外し直接素手で重しに触る。


 ーーー《過去看破》ーーー


 重しに触れた手が一瞬輝くと脳を揺さぶられるような不快感が起きる。恩恵を使った反動だ。少しの過去を見るだけでもこれだけの反動が来るコスパの悪い恩恵で本当に嫌になる。


 不快感と込み上げてくる嘔吐感に苛まれながら、見たこともない鉱石で作られた壁に古代文字が刻まれている空間が見えた。灯りもないはずの地下の空間は何故だか明るかった。


「うぅっおぇ……」


「ちょっ、ちょっと大丈夫?」


「ああ、大丈夫だ。それより見えたぞ、うぇっ」


 込み上げる嘔吐感をなんとか抑えこむ。アリシアを見ると不安そうな表情で俺の顔を除きこんでいる。そんなアリシアの不安そうな表情を掻き消すように俺は笑いながら言った。


「あったぞ、古代遺跡」


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