第3話 癒る事のない過去
俺の家は貧しくもなければ裕福でもない、ごく普通の家庭だった。俺が恩恵を持っているのを知った両親は喜んでいたのを覚えている。俺の恩恵の副作用を知ってから手袋を着けるように言われて今でも着けている。というか着けてないと俺の身体が壊れてしまうので着けざるを得ない。
ある日、町にある大樹はいつからそこにあるのだろうと思い恩恵を使ったことがある。何千年と言う昔からそこにあった大樹の過去を除いていたら古代の文明がそこには見えた。
見たこともない奇抜な服装。夜中なのに何故か昼間みたいに明るい街並み。見るもの全てが新鮮だった。
子供の俺は副作用のことなんか頭から抜け落ちていた。酷い頭痛や込み上げる嘔吐感全てを無視するほど夢中になって過去を見ていた。その時に俺は古代文明の虜になっていた。
その後に溜まった反動が来て一週間は寝たきりで両親には心配をかけた。
寝たきりの状態から起きた俺は両親を見るやすぐに「俺は将来考古学者になる」と言った。
あの時に見た景色が忘れられなくて、ずっと追い続けている。あの頃の気持ちを忘れていた今でも。
俺の気持ちが伝わったのか両親は俺にたくさんの本を買ってくれた。貧しくはないが本は高価なものだから買ってくると生活が苦しくなってくるはずだ。子供の頃は分からなかったが今思えば両親は俺のために頑張って節約したり、仕事を増やして稼いでくれていたのだろうと今なら分かる。
ここまで育ててくれた両親には感謝しかない。
そんな順風満帆な家庭が崩壊したのは数ヶ月後のことだ。
たまたま手袋を外した時に父親に触れてしまった。そのときに過去の記憶が見えてしまった。この頃はまだ恩恵の力を制御しきれていなかったせいで偶然見えてしまった過去。
まだ九才になったばかりの俺にはその見えてしまった過去の意味は理解できていなかった。
父親が仕事に行って帰ってくるのが遅いある日、母親が「今日もお仕事頑張っているのね」と呟いた時に俺はこの間見えてしまった過去の話をする。
「お父さん、綺麗なお店で働いているよね」
「綺麗なお店?」
俺の言葉に母親は不快な表情はして俺に聞き返してくる。
この時の俺はわるぎなしに喋ってしまった。過去の記憶を。
「このお店だよ。お母さんより若い女の人と入っていってた」
母親にお店に案内して欲しいと言われお店に案内した。ちょうどそのお店から父親と若い女性が二人で出てきた。その光景をみて母親は肩を震わせて立ち尽くしていた。
父親も俺と母親がいるのに気が付いたのか酷く焦っていた。
父親は不倫をしていた。幼い俺にはその意味など分かるはずもなく、ただわるぎなしに恩恵の力で見た過去を喋ってしまったことで家庭を崩壊させてしまった。
その後、父親と母親は離婚した。
「何でお父さん、どこかに行っちゃうの?」
自分が何をしたのか分からずにただ父親と離ればなれになりたくはない俺は目に涙を浮かべながら問いかけた。
父親は俺の方を見てが何も言わずに去っていった。
不倫や離婚の、この時のことはもう少し大人になってから分かった。自分がしてしまったことも。
父親は最低な人であったがもっと別の方法があったのではないかと今ならば思う。まだ世の中のことを知らな過ぎた。
この辺りからだろう、自分の恩恵はいいものじゃない、誇らしいものじゃないと、こんな力持たずに生まれれば良かったと思い始めたのは。
この後に考古学者となり多種多様な人たちと触れ合う中で様々な人の闇をみてしまい、大人になるにつれどんどん心が擦れていき考古学者を目指した理由もあの時の気持ちさえ忘れていた。
それなのにアリシアはこんな恩恵を、いいと言ってくれた。
「凄くいい恩恵じゃない!」
この言葉にどれだけ救われただろう。
子供のころに心を奪われた古代文明のあの景色を初めて見た時のように今はワクワクが止まらない。この流砂の下にある古代遺跡の謎を解き明かしたくてじっとしていられない。
──だって俺は考古学者だから。
レイトの擦れた心を写したような濁りった目は夢を見る子供のようなキラキラとした澄んだ瞳に変わっていた。
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