第13話:信仰の街5

 建物の中に入ると、平場が広がっていた。そこには老若男女問わず様々な人がいた。裁縫をする男性、壁に釘を打ち付ける女性、腕立て伏せをする老人。


「シスタートカ」


 先ほどの子供たちと同じような反応があった。トカは大人たちからも慕われているようだ。


「サイ、服の修理ありがとう」

「どういたしまして」

「ギク、壁の修理ありがとう」

「とんでもない」

「セフ、健康ありがとう」

「滅相もない」


 やはりトカはシスターなんだ。皆に優しく接する。そして、トカに答える者たちは皆笑顔だった。


「ところで、犬がいますが」


 誰かが言った。オイラがいたら悪いのか?


「こちらの少年が連れている犬です。こちらの2名は今日から少しの間皆さんと暮らしますので、よろしくお願いします」


 トカはオデコの前で右手拳を握った。すると、皆も同様のポーズをとった。おそらくここのお約束なのだろう。オイラ達も郷に従った。

 ポーズを解くと、各々は再び各々のしていたことを続けた。それはトカも同様で、オイラをどこかに案内しようと歩みを再開しようとした。そこにシューは呼びかけた。


「トカさん」

「はい?」

「やはり、ここの人々はいい人たちが多いですね」

「またお世辞を」

「お世辞なわけがあるものですか。先ほどの繰り返しになるかもしれませんが、ここの人たちは礼儀正しい。前の街では、いきなりモノを売りに来たり、会話に割り込んできたり、大変な人ばかりでした」

「そう言ってもらえると光栄です」



 小さな個室の電灯のスイッチに指を触れた。複数のベッドのうちの一つに指さした。トカはオイラ達に説明をしながら指をピンとした。


「ここがあなたたちの寝床になります。ほかの方と同室ですみません」

「いえいえ、ありがとうございます」

「なにかお困りのことがありましたら、なんなりと」


 トカは例のポーズをとった。神に祈るのだ。


「そういえば……」


 シューはすぐにお困りのことがある風だった。早すぎるだろ。少しは空気を読めばいいのに。


「……そういえば、ここはなんの街ですか?」

「働く街、と言われています」


 トカは嫌な顔一つせずに答える。よくできた人だと思った。


「そうですよね。僕もこの街でそう聞きました。先程まではそうだと思いました。でも、ここは違う。失礼ですけど、ここにいる人々はそういうふうには見えません。遊んでいる人がいても咎めませんし、働いている人もそこまでガツガツしていない。ここは一体なんなんですか?」


 トカは聞いている途中に手を口元に上げて黙っていた。そして、シューの言葉が終わると手を下ろした。


「ここは、迷える子羊が来る場所です。働くことに馴染めなかった人々が来る場所です。たしかに、この街の人々は他の街の人々に比べて、異常な程働きます。ここに来る人たちは皆、口を揃えてそう言います。そう、今のあなたのように。でも、街の全員がそれに馴染めるわけではありません。異常な働き方についていけない人々もいます。ここでは、そういう人たちが集まって暮らしています」


 頷くシューに向かって教義を説くように続けた。聖母の本領発揮だ。


「あなたたちもそうでしょ? この街に来たけど馴染むことができなかった。それで、町のはずれで気落ちをしていました。私はそれを見ましたので、あなたたちに声をかけたのです。ですが、それは罪ではないですし恥でもありません。人には向き不向きがあるのです。あなたたちは自分の向いたことを探せばいいのです。そのために私たちはなんでもお手伝いします」


 淡々と慣れた口調だった。おそらく、今までも何回も同じような事を言ってきたのだろう。


「なるほど。ここの人たちに対する違和感は解決しました。そして、ここが信仰深い人々が集まる街なのかなと思いました」

「信仰……街……?」

「ええ。最初に会った時にも言いましたよね?旅の途中で信仰深い人が集まる街の噂を聞いてきたんです。でも、来てみたら働く人々ばかりでイメージと違いました。でも、もしかしたら、この場所のことを言うていたのかもしれませんね。きっと皆さん、助けてもらって嬉しかったんですよ」


 シューも淡々と分析したことを述べた。それを聴くトカは口元を少し緩めながらも淡々と答えた。


「そう言ってもらえると光栄です」

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