デート日和2

 昼食の後は少し街をうろついた。時計がみるといい時間だ。

 エンティーナはふいに土産物屋を目に止めた。地面に広げたマットにアクセサリーがたくさん並べてある。


「ちょっと見ていこう」


 先に小さな宝石がついているペンダント、シルバーのリング、木製のブレスレットなどが売られている。【総鑑定】で見てみると、偽物は混じっていないようだ。


「何か買っていこうか」

「よろしいのですか?」

「せっかくだしね。ほら、こういうのとか」


 ペンダントを手にする。蒼いサファイアが付いている。


「本物よ。のわりには安いわね」

「なんだ姉ちゃん【鑑定】持ちかい?」

「はい。これはサファイア、こっちはルビーですよね」

「指輪用とかにカットしたあとの余り物だから安いんだよ」

「なるほど。サマンサ、好きなのひとつ買いましょう。私もひとつ選ぶから」

「ありがとうございます……では、これを」


 そう言ってルビーの付いたペンダントを指差す。

 サマンサも元貴族だ。エンティーナの財布事情は想像できるだろうし、この位の値段なら遠慮せずに受け取った方が良いことを理解している。


「あいよありがとう!良いのを選ぶね。お友達の髪みたいな赤色だ」


 店主の一言を聞いてサマンサが固まる。顔を伏せて耳が赤くなっている。


「じゃあ私はこれにしよう」


 キャンディトパーズという、本来イエローに近いトパーズがやや濁り、飴色になった石が付いているペンダントだ。サマンサの濃いブラウンの髪に1番近いと思う。

 ふたつ購入して店から少し離れる。

 赤い方を取り出して付けてあげようと首に手を回す。


「いや!大丈夫です……自分でできます!」

「私が買ってあげたんだから。ほら手をどけて」

「う……はい」


 再度首に手を回してペンダントをつけてあげる。陶器のように白い素肌に手が触れる。顔を真っ赤にしているが、首元はひんやりとしてした。

 思ったより手間取ってしまい、長く触れてしまう。


「これ、向き合うんじゃなくて、後ろからつけて上げるのが正解だった?」

「今気が付いたんですか?」

「ごめんごめん。言ってくれたら良かったのに。はい、出来た」


 からかったわけではないが、上目遣いで睨んでくるのは可愛い。


「ありがとうございます……では私も」

「私は大丈夫だよ」

「目の前に使用人がいるのに自分でする人がいますか?」

「あー……確かに」


 ちゃんと自分から後ろを向いて付けてもらう。今まで付けてもらう側だったはずなのに手際が良い。サマンサの指先が首筋に触れると、ムズかゆい気持ちになる。


「はい。できました」


 こうして色違いのペンダントをつけることになった。

 いきなりお揃いはなんだか恥ずかしいと気づいたが、サマンサは嬉しそうにペンダントを眺めているので、やっぱり買ってよかったかなと思う。


「ありがとうございます。宝物にしますね!」


 花が開く──サマンサの笑顔はその言葉が相応しい。

 これはフレイム王子も落とされるわけだなぁ。サマンサには、大人びた美人とは違う、無垢な可愛らしさがある。


 その時、サマンサが私の後ろに視線を向け、何かに気がつく。その表情が驚愕の色に変わり、次いで恐怖の顔に変わる。

 青ざめた様子に異変を感じたエンティーナは、素早く振り返り視線の先に何が有るのかを探す。しかし、特に異常は感じられない。


「どうしたの?何があった?」


 エンティーナの声で冷静さを取り戻したサマンサは、バツが悪そうにうつむく。


「申し訳ございません。一瞬、フレイム王子に似た人が私を睨んでいるように見えてしまって……他人の空似だと思います」

「別人だった?」

「はい。王子にしては格好が、その……みすぼらしいというか」

「なるほど。それは違うかもね」

「ですので、あれは別人です」


 子犬のように落ち込むサマンサを見て、エンティーナは手を頭に乗せて撫でる。


「色々あったからね。帰ろうか」

「……はい」


 その様子を、特から睨みつけている人物が居た。サマンサがフレイム王子と勘違いした人物……いや、見間違いではない。まさにフレイム王子その人である。

 もう何日も剃っていない髭面、ボサボサの髪、そして、王子とは思えないボロのマントを羽織っている。

 サマンサがエンティーナの元にいると聞きつけ、帝都まで追いかけてきた。ヴィエント家の邸宅付近で張り込みをしていたら見つかるだろうと彷徨い続け、ようやくサマンサを発見したのである。


「おのれ……エンティーナめ」


 彼の目に映る光景は、エンティーナと向かい合い、恐怖の表情をするサマンサの姿であった。サマンサが恐怖したのはフレイム王子に似た人物を見たからであるが、王子からはエンティーナに支配され、虐げられる姿に見えた。


「サマンサ……待っていておくれ。必ず助ける」


 去りゆく二人の後ろ姿を目に焼き付け、フレイム王子は踵を返す。


 秘策は有る。エンティーナからサマンサを助け出す秘策が。

 例えそれが、人の道を踏み外すものだとしても……。

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