ドーリエ伯爵領3
翌日。レブライト率いる使節団一行は、ドーリエ伯爵の住む屋敷を訪ねた。
大都市のど真ん中、広い庭と豪華な屋敷だ。ひとつひとつの部屋が平民の家よりも大きい。下手な王族よりも良い生活をしているだろう。
事前に話は通してあるので、屋敷の執事はあっさりと応接間へ通してくれた。
レブライトを先頭にネロスとケフネが続き、数名の役人と近衛、そしてエンティーナ。
最後に入ってきたエンティーナを見て、執事が僅かに狼狽した表情を見せた。すぐに動揺を隠して去っていったが、確かに驚いた様子を見せた。
ネロスとケフネもその事に気がついたようだ。
「エンティーナ様がいらっしゃると、何か問題でもあるのですかな」とネロスが言う。
「エンティーナ様、伯爵とお会いしたことはありますか?」ケフネが確認をする。
「いえ、ありません」
「で、あれば……」
「【総鑑定】か……」
一行に緊張が走る。他の人間にはなくてエンティーナにあるもの、【総鑑定】のスキルである。
【総鑑定】で見られるとマズイものがあるとなれば、思っていたよりも大事なのかもしれない。
「確認なのですが。もし伯爵が操られていたり、偽物と入れ替わったりすれば、エンティーナ様にはわかりますか?」
「はい」
別人に入れ替わっていたら名前で、操られていたら状態異常として確認ができる。真紅の勇者を前に隠し事や小細工は不可能である。
「エンティーナ。この屋敷の人間を見かけたら全員を鑑定してくれ。俺が許可を出す」
「……わかりました」
【鑑定】系のスキルは相手の情報を丸裸にしてしまう。それ故、忌避されることも少なくない。それなので【鑑定】は相手の許可無く使用しないという暗黙のルールが存在する。
守られているかどうかは信用するしかないのだが、エンティーナは真面目な人間なので、無闇に見てまわったりはしていないだろう。
レブライトやネロスのこともまだ鑑定していないはずだ。
少しして、数人のメイドが紅茶を用意してくれた。メイドが出ていったあと、エンティーナから「メイドたちに異常はありませんでした。紅茶にも何も入っていません」と報告が入る。
【総鑑定】はアイテムの鑑定もできるため、毒や薬が入っていたらわかるのだ。
「先程の執事がもう一度姿を見せてくれれば良いのですが」
ケフネがそう話す。
緊張が続く中、レブライトが口を開く。
「全員ソファより低く伏せろ。敵が来る」
その言葉に全員がすぐに従う。
直後、庭から窓を突き破って何かが襲いかかってきた。激しい轟音と振動。
正体は、大きな獣の手だった。黒い体毛と鋭い爪が見える。
近衛が素早く対応する。
「庭へで出ろ。廊下からも来るぞ」
全員で庭へ飛び出す。戦うには充分な広さだ。
「文官は壁へ!伏せて大人しくしていろ!」
非戦闘員を避難させ、敵と向かい合う。
黒いライオンがいた。頭が2階に届くかというほどの大きさで、明らかにこちらに敵意を向けている。その隣に、先ほどの執事が立っていた。
周囲を数十名の武装した何者かが取り囲む。
魔物も執事も、そして武装した人間たちも、身体から瘴気が漏れ出ている。あきらかに異常な事態だ。
「これはこれは、報告書にあった通りの事態ですな」
壁際まで避難しているネロスが呟く。
漆黒と紺青を襲撃した敵──瘴気をまとった人間と、魔物に変身した人間。
気配の無いところからいきなり魔物が出現したとなると、あれは紺青の勇者が戦った敵と同じ原理で現れたのかもしれない。
「漆黒と紺青を襲った奴と関係がありそうだな。エンティーナ。そこの3人を従者にしてくれ。全員で叩くぞ」
レブライトは落ち着いて指示を飛ばす。
勇者は3人まで従者を選ぶことができる。従者は若干の能力アップと、【弱瘴気特攻】のスキルを得ることができる。従者の権利は簡単に回収ができるため、ここで3人を従者にしたからといって、一生ついていく必要はない。
レブライト自身は既に、周りの近衛から3人を従者に設定している。エンティーナが残り3人を従者にすれば、2人の勇者を含めて合計8人に【瘴気特攻】が付くことになる。
だが、当のエンティーナは驚愕の表情で魔物を見つめたまま動かない。
「エンティーナ!聞こえているか!?」
「レブライト様……あれは……?」
「なんだ?魔物くらい見たことはあるだろ?ちょっと大きいだけだ」
「そうではありません……」
エンティーナの瞳が大きく震えている。
「あの魔物……あれがドーリエ伯爵です」
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