黄金 皇帝からの任務2
獅子宮殿の玉座の間は、建物の豪華さに比べるとシンプルな造りをしているように見える。
高い天井が生み出す広い空間には、数本の柱が飾りとして立っている他、目立った装飾はない。
汚れひとつない赤い絨毯と、いくつかの燭台の他は、階段を5段登った所に据えられたら玉座のみである。
しかし、その玉座の後ろは、外からの光を反射させて室内へ送り込む集光装置になっており、座る者の背後から後光が差すようになっている。
当時の設計担当者に「皇帝の神聖さを演出する為」だと力説され、好きにしろと言った結果である。
いざ作ってみると周囲からの評判は高く、それなら良いかとそのまま次代へと受け継いでいった。
当時は玉座に座る側であった為、こうして玉座と向かい合うのはレブライトに転生してからであるが、こうして下から玉座を見上げてみると…。
めちゃめちゃ眩しい。
いやもうめっちゃ眩しい。
なんだこれ?何度経験しても慣れない。皆よくこれで人の話聞けるよな?
なんで昔の俺はこんなのにOKを出したんだろう。当時に戻って殴ってやりたい。
部下も子どもたちも、普段は文句ばっかり言いたい放題の妻たちも、こればかりは凄く良いと言っていたから疑問に感じなかったけど、なんで誰も反対してくれなかったの?
確かに逆光のおかげで、顔色が悪かったり狼狽した表情が見えたりしないが、今まで200年で廃止の案は出なかったのか?
隣にいるネロスは涼しい顔で立っている。眩しくは無いのか?
こいつも普段は物怖じせずに問題点をバシバシ指摘するんだから、この逆光装置も廃止するべきだと言ってくれないものか。
「ビーツアンナ家とヴィエント家の話は聞き及んでおるか?」
逆光で顔の見えない親父が低い声で言う。
真紅の勇者の件か。
「は。関係修復の為に取り結んだフレイム王子とエンティーナ様の婚約が破談になったと」
ネロスが答える。相変わらず小さい声だが、不思議とよく通る。
「うむ。その件でヴィエント家から文が届いておる。余に宛てたものだ」
隣に控えた大臣の一人が書状を手に持っている。皇帝に直接手紙を送るとは随分と大事だな。もし親父殿がヴィエント家に肩入れするようなことになったら、王家に責任があると周囲は感じるだろう。
「これによると、フレイム王子が他に女を作って、そちらを王妃としたいと言っているらしい」
「ぶっ」
つい吹き出してしまった。周囲は眉を顰めるが、隣のネロスも肩で笑っているのが見える。
「他の貴族からも文が来ており、概ね相違ないようだ」
「それは困りましたね。王家側に非があるとすれば何かしらの手打ちが必要でしょう。しかしそれで勇者側に力が傾くと、婚約を結んでまで関係改善をしようとした思惑が破綻します」
そもそもが「両家でちゃんと仲良くしましょう」という目標があったはずだ。
その目標は優先されるべきだが、そうなると顔を潰された勇者側が割りを喰うことになる。が、かと言って厳しい対応をすると最初に決めた仲良くしましょうという目標が達成できず…。
「それで、帝国側に仲裁を求めてきたわけですな」
「その通りだ。当事者であるエンティーナ本人も厳しい対応は求めてはいないらしい。両家が揉めて困るのは民であるからな」
自分の婚約を台無しにされて、それでも民を思う。
勇者の姿としては正しいが、14歳にしてそこまで考えるか。真面目で正義感の強い人なんだろう。
「ビーツアンナ王室は何と言っているのですか?」
「うむ。第2王子がドーリエ伯爵の娘に誑かされて困っておると」
「で、あれば陛下。ここはドーリエ伯爵に泥を被ってもらうしかありません」
ネロスが提言をする。まぁ実際のところがどうかはさておき、王子は騙されていたという方向で収めようということだ。婚約者のいる王子に色目を使った者が悪い。と。
もちろん、王子という立場で騙されて国を混乱させたのは問題であるが、それでもまだ最低限の処罰で切り抜けることも可能だろう。
「うむ。そなたら2人には、その方向でまとめてきてもらいたい。エンティーナは2月に入学を控えている。それまでにはなんとかしたい」
「畏まりました」
◇◆◇◆
「ドーリエ伯爵は王家派だったはずだが、問題は無いのか?」
玉座の間を出た俺とネロスは、廊下を歩きながら打ち合わせをする。
「あくまで悪いのは伯爵側であって、ビーツアンナ王家に非はないという方向に致します。王子は騙されていただけ。伯爵に責任を負っていただいた後、あらためて縁談を進めましょう」
「王家と勇者は仲良くしようとしていたのに、ドーリエ伯爵が謀略をもって邪魔をした。と?」
「そういうことです。国王は勇者と仲良くする気があるわけですので、そこまで的外れな話でもありますまい」
実際はフレイム王子がやらかしたのだが、伯爵の娘が原因でもある。それなりに責任はあるたろう。
当のフレイム王子はお咎め無しという所が不公平だが、国のために誰かが罪を被るのは貴族や王族ではよくある話だ。
この手の政治的な話に未だ違和感を覚えるのは、日本で育った最初の生活が原因だろう。
「書類関係は私が用意します。皇子には護衛が必要ですから、そちらだけ手配しておいてください」
「わかった。出発はいつにする?」
「私は明日には出られます」
「用意がいいな。そうしよう」
ネロスの事だ。この事態を想定して事前に準備を始めていたのだろう。
俺は護衛団を手配せねばならないが、そもそも第2皇子である俺には専属の近衛がいるので、隊長に一言伝えれば良いだけだ。俺に雑用をさせるほど帝国の役人は馬鹿ではない。
そうして翌朝。俺とネロス、3人の文官と16名の護衛部隊が帝都を発った。目的地はビーツアンナ王国ドーリエ伯爵領だ。
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