第13話 去来と魚雷〜カードプレイヤー鋏目友禅

「『光姫パトローナ』の効果を発動!場の『シザー・デス』の攻撃力を1000上げるよ」


「『強翼の精霊サイフォン』の攻撃力を上回っただと!」


「『シザー・デス』で攻撃!デス・シザー!」


「カニニ!」ズバァ

相手の場はガラ空きだ。

「とどめだ!もう一体の『シザー・デス』で攻撃!」


「ぐわぁぁぁぁ」ズバァ!


やった!なんとか逆転することができた。


ザワザワ…ザワザワ


「あいつ、すごいぞ。最弱の雑魚クリーチャー『シザー・デス』を使いこなすなんてな。」


「ほう、大したものですね。同属性同コストに攻撃力1500以上のクリーチャーは多くいるのでそちらの採用が優先されますが、それらは魔法カード『エビル・ハンド』の対象になり破壊されてしまいます。元々のパワーが1500の『シザー・デス』であればその対象に取られることは無いのでその札を腐らせる事ができるのです。」


「いや、好きで使ってるだけだと思うぞ…」


見物人達の話が耳に入ってくる。誰もが驚いて感心しているようだった。


…カードゲームで大切なのは能力の強さじゃない。使いたいと思う気持ちが一番だと思うんだ。


だけど、あいつは違った。


「キルザークの効果発動!俺のターンをもう一度行うぜ!」


「馬鹿げてる、こんなの絶対におかしい。おかしいよ…」ズドーン!!


馬鹿みたいな効果によってひっくり返る盤面。無茶苦茶だ!カードによる駆け引きこそが楽しいのに…


…………………


小学生の頃の話だ。そいつはマイナーカードである『シザー・デス』を使いこなし、地区大会優勝まで登り詰めた猛者だった。

だけど、勝負の世界というのはそんなに甘いものじゃない。勝利とは最高のカード、最高の戦略、最高の運で成り立つものなのだと数多の戦いを通じて俺は理解していた。

だから、県大会の準決勝で当たった時も容赦しなかった。

それ以降彼の姿を見なかったが…


「こんなところで会うとはな。久しぶりだな…遊禅」


異世界で侵略者をやっているとは流石に思わなかった。


「人違いだ。僕の名は

『鋏の復讐者十シザー・リベンジャー十』

お前に復讐するためこの世界に転移してきた。」


何か叫んだと思ったらこれだ。この歳になって今更厨二病とか程度が知れる。何が奴をこんなにも狂わせてしまったのだろうか?


「…復讐?なら、俺だけを狙えば良かっただろ。何故無関係な街の人々を巻き込んだんだ。」


「お前に絶望を与えるためだ。」


「たかがそんな理由か…呆れたな。あの頃のお前の方がとてつもなく輝いていたぜ。」


「その輝きを奪ったのはお前じゃないか!」

遊禅は激昂した。

「王よ、戦いの主導権を私に戻して下さい。」


「よかろう。存分に暴れるがいい」

カザコはうなづくと、自ら前線に躍り出た。


(さっきと言っている事が違う…本当にカザコなのか?)

オルカマンはやっと違和感に気づいたようだ。


「これはあの時の借りだ!受け取れ!『激流波』」ザッパーン!


「⬛️⬛️⬛️…」

大波に飲み込まれキルザークは消え去った。

『激流波』は自分フィールド上の魔法カードが破壊された時に発動する事ができ、相手の攻撃力が一番高いクリーチャーを破壊する効果を持っている。

無双の龍といえど、こうした除去には無力なのだ。


「速攻魔法カードか…一杯食わされたな。」


「これは終わりの始まりに過ぎない。僕は魔法カード『漆黒海の暗掌』を発動。」

友禅のガントレットから闇が溢れ出し、ベルガとカザコを包み込んだ。


「素晴らしい力(パワー)だ」

「うおおお!みなぎってきたぜ!」

彼らからこぼれんばかりの邪気が放たれている。


「これで漆黒海の攻撃力は500ポイント上がり、貫通能力を得た。これで終わりだな。」


今の魔法カードだが、本来の『漆黒海』デッキでの採用例は少ない。それ故に警戒を忘れていた。


「…オルカマン。やれるか?」


「当然だ。」

彼は目の前の敵に立ち向かった。


「別れの時間だ!ベルガでオルカマンに攻撃!漆黒海拳!」


「それは…どうかな?」

キーーーンッ!

地の底からミサイルのような物体が現れた。


「あれは魚雷オルカ?!」


「まあ、見てな。」


魚雷は急旋回するとオルカマンの方へ飛んでいった。


「ハハハ!自分の武装に謀反を起こされるとはな!エンデのジジイに聞かせてやりたいぜ。」


「ベルガよ、油断は禁物だ。奴なりの考えがあるのだろうよ。」


ギュルル!

接近するにつれ加速する魚雷。

誰もが自爆すると思っているだろう。

だけど、俺は信じる。

オルカマンとの絆を!


「とうっ!」

激突寸前、オルカマンは魚雷に飛び乗った。


ドガァァァン!

そして、魚雷は敵陣に激突。


「ぐわぁぁぁぁ!」

漆黒海のみなさんは爆発四散した。


「『魚雷オルカ』のもう一つの効果。『オルカマン』が場にいる時に墓地のこのカードを除外する事で相手クリーチャー一体を破壊できる。」


「し、しかし、その効果は自分のターンにしか発動出来ないはずだ。何をやったんだ?」


友禅は動揺を隠せていない。


「…詩人アリオンの逸話を知ってるか?」


「!…誰のことだ?」


「彼は船上で殺されそうになった際、呼び寄せたイルカ達によって救出されたと言われている。…で、オルカはイルカに近い動物。これで分かっただろ?」


「窮地の時に力を発揮するということか。…これでターンエンドだ。」

ガタッ

彼は頭を抱え込んだ。実際、今やったことはとんでもなく無茶苦茶な理論からなってるのでそうならない方がおかしいのだけどね。



「でも、僕のライフは8000もある。お前が使えるのは今からドローするカードのみ!それ次第で全てが決まるだろう。」


「ならば、決めてやるぜ」


「ドロー!俺は魔法カード『死者蘇生』を発動!」


「地獄の底から舞い戻れ!無双龍-キルザーク!」

地面が割れ、陽の光を浴びた無双の龍が再臨した。


「⬛️⬛️⬛️⬛️!」


「こんな…こんなはずじゃ…」


「オルカマン!キルザーク!

タンデムアサルトアタックを仕掛けるぞ!」


ズドドドドドドドドドド!


拳の雨が友禅に降り注ぐ!

炎と水が合わさり最強…

9400のダメージに耐えられず地面に叩き付けられた。


「俺がカード達を信じた結果だぜ。」


ふと窓を見る。

遠目だが、広場のシザー・デスは全て消滅して人々が手を取り合っている様子が見えた。


ガチャ…


「やりましたね!マサルさん」


「マサル!心配したよー」


部屋に入ってきたのはトレカとルルであった。

「2人とも無事で良かった。」


トレカは広場で人々を敵から守っていため疲れているはずだが、やり切った顔を見せた。

俺たちはこの戦いに打ち勝ったのだ。《ルビを入力…ルビを入力…

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