第12話 漆黒海の玉座

ベルチア大聖堂。戦士ベルチアを祀るために建てられたバロック様式の建造物だ。

私は主の命を受け、一番高い尖塔の上に上がった。


バァン!


扉を蹴破ると厳かな聖堂にはふさわしくない絢爛豪華な『漆黒城大広間』が現れた。


「我の玉座(スローン)に辿り着くとはな。褒めて使わそう。」

漆黒海の狂王であり、かつての主君。私が離反した時と変わらぬ姿で彼は玉座に座っていた。


「私の名はオルカマン。正義の味方だ!守るべきベルチアの人々のためここでお前を討つ!」

彼に同情する余地は無い。私は急速に距離を詰め、彼に殴りかかった。


バァン!


「一つ教えてやろう。王とは前線(フロントライン)に立たぬのだよ。」


渾身の拳は王に届かなかった。

山のような体格、鍛え上げられた筋肉、上顎から下顎に伸びた鋭利な双牙。

そう。彼の名はゼイウ。あの時と変わらず、王の側にいたのだ。


「ふんっ!」

ゴッッ!

鋭い右ストレートが顎を直撃した。


ドシャァァ…

その一撃はあまりにも重く、私はなすすべなく地面に叩きつけられた。まずい。

今の衝撃でマスクが外れてしまった。


「貴様…まさかオウガなのか?」


「おいおいおいおい。こりゃ驚いたぜ。あんたが王に牙をむけるとはな。」


正体がばれた以上顔を隠す意味は無くなった。私は立ち上がり、彼らと向き合う。

「もう、過去は捨てた。全力で君達を倒す。」


「良い心掛けだな。だが、貴様はゼイウに絶対に勝てぬよ。我の玉座の効果。よく知ってるだろ?」


「事前に発動していたか。相変わらず姑息な手を使うようだな。。」

私はあの玉座がすでに発動済みな事に驚いた。あれは『漆黒海』の攻守を上げる永続型の魔法カード。ベルガはその効果で私の攻撃力を上回ったのだ。


「一つ提案をしよう。漆黒海に戻らないか?さすれば貴様も玉座の恩寵を受けゼイウに勝てるだろう。」


「私は戻らない。絶対に…だ。」

私は隙を見せていたゼイウに向け飛びかかる。


ドォン!

私の一撃は寸前でいなされ、激しい一撃が体を貫いた。


「おいおい、俺に着いて来れないのか?めちゃくちゃ鈍ってんな。」


体を起こそうとするが力が入らない。もはやここまでか。…


「⬛️⬛️⬛️⬛️!」


私の思考を遮るように咆哮が轟く。


ミシッ…ミシッ…バァァァァン!


私の闇を祓うように壁から爪牙が突き出る。

それらは瞬く間に壁を粉砕した。

シュウウウ…

「待たせたな!ここからは俺のターンだぜ。」

そして、私の前に希望が現れた。


…………

キルザークが壁を粉砕すると大広間が現れた。そこではカザコの部下がオルカマンにトドメを刺そうとしていた。

間に合った。トレカが出してくれた地図のお陰だ。


「少年、すまない…私では勝てなかった…」

ハア…ハア…

オルカマンは肋骨を折られたようで息が切れかけていた。


「オルカマン、諦めるのはまだ早いぜ。カードゲームってのはどんなピンチでも手札と戦略さえ有ればひっくり返せる。」

俺は倒れそうな彼の体を支え、彼に言い聞かせた。

「…戦略は俺が持ってきた。手札さえあればいつでもやれるぜ。」


「ハハハハハ!我々を倒す?不敬にも程があるぞ!」

カザコは

「少年、私はもう駄目だ。彼らには勝てない。」

彼はもう諦めかけていた。

だから…

「あんたは1人じゃないぜ。」


「…!」

彼は、はっと気がついたようだ。


パァァァ…


偶然にもガントレットが輝き始めた。まるでオルカマンに反応するかのように。

俺はガントレットをオルカマンの方へ差し向けた。

「オルカマン、こいつに手をかざして欲しい。あんたが望む物を引いてくれるぜ。」


「分かった。その呼びかけに応えてみせよう。」

そう言うと、オルカマンはガントレットに手を伸ばした。

「ドロー!」

シュッ

ドローされたカードが俺の手札に飛んでくる。


「君に託したぞ。」


託されたカードをじっと見る。


「…ああ、任せてくれ!」

ここに、勝利の方程式は繋がった。


「俺は手札の『魚雷オルカ』を捨て効果発動!」

魚雷型の鯱が現れ、真っ直ぐ天井に突っ込んだ。


ドゴーン!ビシッ!パキパキ…バァァァァン!


「貴様!よくも我が玉座(スローン)を…万死に値する!」

激昂するカザコを無視するかのように空間がひび割れ、無機質な白い壁の部屋が現れた。


シュウウウ…

呆然と佇むベルガ。頭を抱え込むカザコ。そして…


「永続魔法が破壊された…だと」

俺と同じようなガントレットを構えた男がそこにいた。…ん?どこかで見たことあるような。


「こんなところで会うとはな。再び僕の邪魔をする気か…遊導 勝!」


侍の様に束ねた長い髪に、シザー・デスの柄を象った友禅染の着物という容姿。そして、俺の名前を知っている。

記憶の中に1人だけ思い当たる奴がいた。

なら、かける言葉は…これだ。


「久しぶりだな…遊禅」

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