第10話 [百合園家]




 なぜかゴスロリの服をタダでもらい、服屋を後にした。


 もちろん制服に着替えたよ?



「いや〜〜!今日はすごくいい一日になりました!!」


「そう……ならよかったよ……」



 今日はこれにて帰ることになった。


 なんだか疲れがすごい溜まった気がするから家ではゆっくりするとしよう……。



「じゃあ姉貴、また明日〜!!」


「うん、じゃ」



 私は手をひらひらと振って帰り道まで歩き始めた。



〜〜



「ただいまー」


「お帰りー。今日は遅かったわね」



 お母さんがヒョコッと顔をこちらに覗かせていた。

 私のお母さんは同じ茶髪で琥珀色の目、そして髪型は私と同じぐらい伸ばし、ゆるふわである。

 周りからはお母さんとは見えないほど若く見えるらしい。



「ちょっと友達と買い物してた」


「あら〜。やっぱり隠しきれなかったのね〜」


「……まぁ……」



 お母さんには友達作らず一人ぼっち作戦を宣言していた。

 失敗するとわかっていたのだろうか。



「でもまだいける…!挽回のチャンスはある!」


「どうかしらね〜」



 お母さんはニコニコとこちらを見つめていた。



「手洗って部屋でゆっくりしててちょーだい」


「はーい」



 言われた通り、自分の部屋で晩御飯ができるまでダラダラと時間を過ごした。

 ちなみに私が住んでいる家は一軒家で私の部屋は二階だ。



「疲れた〜」



 私は自分の部屋に入ると一直線にベッドに向かい、そのまま倒れ込んだ。


 そしてそのまま眠りについてしまい、晩御飯ができるまで寝てしまった。



「呼んだら一回で来なさいよ〜?」


「ごめん、お母さん」



 私はお母さんと二人でご飯を食べようとしていた。


 そう……お父さんは……私の好きだったお父さんはもういないのだ。

 遠い過去に消えていった……。


 よくキャッチボールとかもしたっけ……。それで顔面にボールよく当ててたなぁ。



 私が思い出に浸っていると、後ろから気配を感じた。

 振り向くと、そこには焦げ茶色の髪で癖っ毛、そして同じ琥珀色の目をした男がいた。



「文乃ちゃんただいま〜〜!!もう仕事中心配で心配で死ぬかと思ったよ〜。怪我してない!?変な輩に絡まれてない!?」



 現れたと同時に私の周りをぐるぐると回り大声で私に喋りかけてきていた。


 これはお父さんだ。


 昔は優しくてクールで、近所からも有名だったが、いつしか超過保護な父になってしまったのだ。

 昔のお父さんは死んだも同然。なぜこうなってしまったんだ……。



「お父さん、うざい」


「へぇぇぇあっ!?」



 お父さんはショックを受けたようで固まっている。

 だがすぐに正気を取り戻し、私に構ってきた。



「そんなこと言う子に育てた覚えはありませんっ!!」


「誰のせいでこんなこと言わなきゃならないのか自分の胸に聞いてみろっ!!」



 お父さんがベタベタと触って来たので、みぞおちをクリティカルヒットさせた。



「ぐぉぉぉ……。なんてことするんだっ!」


「くそっ!このゾンビが…」



 一瞬腹を抱えて痛がっていたが、すぐに元気になった。


 私のお父さんは昔から怪我などの治りが早いらしく、骨折しても数日で治ったり、擦り傷なんかは一瞬で治る。


 そしてそれは一応私にも引き継がれていたのだ。



「あなたたち〜、手洗ってご飯食べましょうね〜」



 お母さんは笑顔だ。だが周りからゴゴゴゴ……と文字が見える……。



「「は……はい……」」



 百合園家のヒエラルキーはお母さんが一番上で、お父さんが一番下なのだ。



〜〜



「ちょっとトイレ行ってくる」



 ご飯中、トイレに行きたくなったので食事をするのを一旦やめた。


 トイレの前までやって来てドアを開けたのだが、後ろに気配がする。

 案の定、お父さんがいた。



「なんっっでトイレまでついてくるの!?」


「あぁん、文乃ちゃんのい・け・ず♡」


「キモ」



 脊椎反射で出た二文字出会った。



「大丈夫大丈夫!耳塞ぐし後ろ向くから!ほら!!」



 そう言うとくるっと後ろを向いて耳を塞いでいた。



(ああ……そうかそうかやっぱりこいつはそういう奴だったんだな……)



 ご飯中もこんな感じか……。仕方ない、またあれをするか……。


 私はお父さんの腰をガッと掴んだ。



「え!?ふ、文乃ちゃんデレ期———」


「覚悟はいいか、私はできてる……」



 一瞬花を咲かせたような顔でこちらを向いたが、私が放った言葉を聞いた途端顔が真っ青になっていった。



「ちょ、それ本当に嫌だからやめてほひいっていうか———ゔぁあ!!」


「オラァ!!」



 私はさっきの状態からブリッジをし、お父さんを顔面からトイレにインさせた。



「ふぅ……お父さん、そこで頭冷やしといてね」



 私はお母さんのところへ戻り、ご飯を食べるのを再開した。



「あら?お父さんは〜?」


「トイレの精霊になるってよ」


「またかしら〜」



 百合園家は、今日も平和です。

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