第10話 さよなら(みにらさんからいただいたお題「春の装い」)
ふわりふわりと淡いピンクの花が散る。太陽の日が透けて時折白く輝くその花びらを手を伸ばして受け止めた。
「さよならわたし。こんにちはあなた」
冬を司る巫女がこの景色を見るのは今日が限界。
春の陽気に芽吹く草花や土の中から這い出てくる生き物たちがこれからさきを浮き立つような気持ちで迎える日々を共に味わうことはできない。
とても残念なことに。
それでもぽかぽか陽気に誘われて桜の花が咲く頃に「花冷え」と呼ばれる寒の戻りのお陰で、こうして青空に枝を伸ばし美しい花を堂々と咲かせる姿を見ることができるだけでも儲けもの。
「さようならあなた。こんにちはわたし」
春を司る巫女の衣は薄紅色と若草色が重ねられた華やかなもの。にこりと微笑む頬と唇の紅さがおっとりとした彼女の愛らしさを彩っている。
「美しくきれいなあなた。色がなくさみしいわたし」
そっと見下ろした冬の巫女の衣は純白に銀糸と青糸の縁取りがなされた重く厚いもの。軽やかさとは程遠い。
「浮ついて落ち着きのないわたし。真っすぐで凛としたあなた」
眉を下げてどこか悲しそうな表情で春の巫女は返す。そしてすぐに笑うと枝から桜の花を一輪取り冬の巫女の髪にそっと挿した。
「わたしのだいすきなあなた」
「あなたがだいすきなわたし」
さようなら。
さようなら。
会えるのは一年後。
さよなら。
さよなら。
また会いましょうね。
だいすきなあなた。
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