1-3 焚き火3

「貴女の世界は、貴女の中にあるのですか??」


違う話題にしたかった。

何故だかそうしたいと思った。

しかしエレノアは、一瞬きょとんとした顔を見せた。


「ふふふ、そうですね。もちろんありますよ」


「え、何ですか??そんなに可笑しかったですか??」


率直に質問してしまった。

そんなに変な質問だったのか。そんなに笑わなくても…。

自分には同じ様な事言い放ったのに…。


「ふふ、いえ…。まさか自分が聞かれるとは思わなかったもので、つい…」


エレノアは全く笑いを堪えられていなかった。

口元を押さえてくすくすと笑っている。

最初こそ、何なのだこの人は…。

と困ってしまったが。それも直ぐに別の感情へと変わった。


世界の記憶に触れる旅。

それは教皇である彼女の使命だった。

教皇になった者は、3つのクリスタルの元に赴き、そこで世界の記憶に触れる。

1つは、闘争のクリスタル。

1つは、叡智のクリスタル。

1つは、豊穣のクリスタル。

全ての記憶に触れた時、教皇は過去、現在、未来を司り。この国の安寧と発展の為に人々を導く。

これにより現在に至るまで幾千年もの世代に渡り、災いの類は未然に防がれ、秩序が保たれているという。

国家全ての政についても教皇の教えに基づいて設計される為、王政ではあるものの実権はドゥクス教が握っているに等しく、その力は強大だった。


「ふぅ…。失礼しました」


落ち着いたのか、エレノアは一つ咳払いをした。

少女の様な笑顔は一瞬にして元の、まるで優しい母親の様な笑みに戻る。


「私の中には私の世界。貴方の中には貴方の世界。皆、一緒なのですよ??何も違わないのです…」


"世界の記憶に触れる"

それはこの世界の過去から現在までのあらゆる人物、事象に干渉するらしい。

聞くのは容易いが、想像するとどうだろう。

膨大な記憶という情報をその身に受けるのだろうか。そうだとしたら、自我など保てるだろうか??

廃人になってもおかしくないと思う。

彼女はそれを受け入れた。


…そして現に、彼女は変わってしまった。

少なくとも私が最初にあった頃とは別人に見える。

世間知らずのシスターは今や、全てを悟り、全てを受け入れ、全てを愛する存在。


「…まるで、神様ですね」


私は、精一杯の作り笑いで言った。

エレノアも静かに微笑んでいる。

側から見たら、これはいい雰囲気に見えるだろうか。

見つめあう、相思相愛の恋人同士。

何故だろう。私からも、エレノアからもそんなものは微塵も感じられなかった…。


残るクリスタルは、豊穣のクリスタルただ一つ。

それで、この旅も終了だ。

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