1-4 焚き火4

不意に胡座を組んでいた足元に、わさわさした感触がやってきた。

その"わさわさ"は擦り寄って来るなり、ンニャゴ。と聞いた事のある不細工な鳴き声を発しその姿をオレンジの光に晒す。

全身真っ黒な毛並みは焚き火に照らされても黒さを失わず、じっと金色の瞳をこちらに向けていた。


「あら??オド。貴方も起きてしまったの??」


エレノアもその黒猫を確認して話しかけた。


"黒猫のオド"

こいつは気が付いたら私の側にずっと居た。

こいつとどうやって出会ったのか全く覚えがないが、名前がオドと言う事だけは知っていた。

いつもすぐに姿を眩ませるくせに、妙なタイミングでひょっこりと現れては何かを言いたげに睨み付けてくる。唐突にその可愛げのない鳴き声をいつも掛けられるものだから、姿を確認しなくてもオドが来たと直ぐに分かってしまう自分が少々嫌だった。


「…お前、少しは空気を読めよな」


オドを両手で持ち上げる。

同じ目線の高さまで持っていき、こちらも同じく睨み付けてやると、ンニャゴ。と一瞥され、それを見たエレノアはまた笑った。

馬鹿にされた気分になるが、こう言ったやりとりは今に始まった事ではないので慣れている。

しかしながら、いい雰囲気を邪魔された事に対しては覚えておくぞ。


オドを離してやると、そのまま闇の中へと消えていった。本当にあいつは何しに来たのやら。考えてもやるせ無い気持ちになるだけなのでそれ以上は深入りしないでおくとしよう。



ーーーーー。


それからは、他愛ない会話しかなかった。

お互い特段踏み込んだ事も聞かず、ただ揺れる炎を眺めながら独り言の様な言葉と適当な相槌を打ち合って沈黙が流れた。

お互い、あまり深く考えていなかっただろう。

睡魔が来るまでの時間潰し。それが自分にいつやって来るのか分からないが。


「…そろそろ寝ましょうか。明日には"ノーテル"に着くはずです。私達が訪れる最後の街になるでしょうから、出来ればゆっくりしていきたいですね」


エレノアから切り出してきた。

ふわりと立ち上がって、焚き火とは逆の方向へ歩き出す。暗闇の中に消えそうになる後ろ姿を眺めていたら、立ち止まって、


「それではトーヤ、おやすみなさい…」


と言い残して、あっさりと暗闇に溶けて消えてしまった。


…。


「最後の、街か…」


旅の終わり。

その時、自分は何を思っているだろうか。

その後、自分はどうするのだろうか。

彼女は、この国の為に教皇として尽力するだろう。

私は、その側にいるのだろうか。

或いは、別の場所にいるのだろうか。

パチパチと火の粉が舞う。

オレンジ色の光が揺れる。


それから暫くして、私の意識は闇に溶けていった。

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