第23話 悲鳴

「死ぬかと思ったぜ・・・」

「そうだね・・」


 吉岡と田中は、ずぶ濡れのまま滝を見上げていた。


 川に突き落とされた二人。

 服を着たままでうまく泳げず、もがいていたら・・


 すぐに、川幅は狭まり急流になったのだ。


 おまけに両方の岸は切り立った岩。

 川から岸に上がることもできず、急流に飲み込まれていった。


 そして・・・滝から落ちたのである。


 

 気が付くと、滝壺のそばの岸に打ち上げられた状態。

 なんとか、おぼれ死なずには済んだのではあるが・・



 まずは、ずぶ濡れなのを何とかしたい。

 このままだと体温が奪われて、凍えて死んでしまう。



 服を脱ぐのは良い。

 問題は、暖の取り方だ。



 幸い、川岸には流木が落ちている。

 火をつけることができれば、焚火を起こすことができる。


 火をつけることができれば、である。



「田中君、ライター持ってたりする?」

「タバコ吸わないからなぁ。お前はどうなんだよ」

「持ってない・・」


 二人とも、タバコを吸わない。

 ライターも、もちろんマッチも持っていない。


「こういう時は、どうすんだ・・?火打石とかか?」

「あとは・・木の棒を板にこすりつけるとか?」


 石はたくさんあるが、どれが火打石になるかわからない。

 木は・・・まっすぐな棒を探してみるが見つからない。


 ナイフでもあれば切り出したりできるだろうが、残念ながら剪定鋏しかポケットには入っていなかった。


 二人は気づいていないが、火打石でも木をこすりあわせる場合でも火種を受けるような燃えやすいものが必要になる。

 しかしながら、そういうももの無いのだ。


「どうしよう・・」

「まずは脱ぐか・・・」


 来ていた服を脱いで、日の当たる岩に広げて干そうとする。



 二人ともパンツだけの姿になる。

 しかし、これはこれで・・・物凄く寒い。


 冷たい風にさらされた裸体。


 日が当たっているところにいても、どんどん体温が奪われていく。




「・・・・・」

「・・・・・」


 二人見つめあう。

 


 本来なら、そんなことはしたくない。

 でも、今は生命の危機。

 生きるためには仕方のない事なのだ。



 そう、自分に言い聞かせる。


 やがて、吉岡が恥ずかしそうに眼をそらす。

 その吉岡の手を、田中が握る。


 冷たく冷えている。



 もう一度、二人・・・目を合わせた。

 吉岡が・・田中の目を見て・・うなづいた。



 


 20分後。




「〇×△×〇〇!!」


 女の子の大きな悲鳴が、渓谷に響き渡った。

 彼女の目の前の光景。

 そこには、岩陰でしっかりと抱き合う裸の2人の男がいた。

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