第22話 閑話 旅の吟遊詩人①

 村長は、一面の麦畑を見ながらしみじみと思った。

 かつて、この場所は戦場となり荒れ果てた土地。

 それが、みごとに緑に覆われた畑になったのだ。



 もともと、この村は乾燥していてろくな作物が育たない土地ではあった。

 せいぜい芋などを細々と作ってなんとか生活していた。


 その畑も、カルマン帝国が攻めてきたときに踏み荒らされ、あっという間に荒れ地となってしまった。


 もうだめか・・


 そんな時、異世界から来たという勇者と言う人物がカルマン帝国の軍勢を退けた。

 でも、それだけではなかった。


 やがて、この村にやってきた青年。やたらと腰の低い人物だ。

 その青年は、畑の作り方。作物の育て方にも詳しかった。


 我々があきらめる中、彼はこの村で畑を耕し、作物を植えた。


 それだけではなかった。この乾燥した土地に用水路を引いてしまったのだ。 

 いままで、何度か挑戦はした。しかし溝を掘っても水はすぐに地面に吸収されて流れていかなかったのだ。


 ところが、この青年の言葉。

 ”粘土質の土に麦藁と麦わらを焼いて灰にしたものを混ぜて水路に塗ればいい”

 試しにそうしてみると・・その土は固まり、不思議に水が吸収されなかったのだ。


 奇跡だった。


 今では、用水路に水が流れ麦を育てることができるようになった。

 また、様々な作物を育てることができるようになった。


 食料が増え、村はだんだんと栄えるようになってきた。


 その青年こそが、異世界から来た勇者。


 村にとっての大恩人。

 この恩を決して忘れることはできない。


 だが、その勇者様が国を追放されてしまったという噂が流れてきた。

 何があったかはわからない。

 でも、国よりも勇者様への恩の方が大切だった。

 国への不信感。だが、勇者様の行方が分からないため何もできなかった。





 ある雨の降る夜、村長の家の扉がノックされた。


「はいはい、こんな夜更けに誰じゃ?」


 扉を開けると、大きな帽子をかぶった髭の人物。

 背中には楽器を背負っている。


「すみません。旅の吟遊詩人なのですが。突然の雨で難儀しています。

 納屋の隅でいいので今夜屋根の下をお借りできないでしょうか?」


 おそらくは、変装しているつもりなのであろう。

 でもその人物は、どう見ても異世界から来た勇者様。


 あまりに、へたくそな変装にどう反応していいか固まる村長。


 ”ところで、旅の吟遊詩人っていったいなんなんだ?”


(作者注:この世界では吟遊詩人と言う職業は存在しません。

     なおかつ、”旅行”という概念は一般的には知られていません)

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