第15話 脱走

 帝国初・異世界初の花火。

 打ち上げ花火が上空で花開いた。


 全員が上空を見上げて、唖然としているさなか。


 何本かの導火線の上を火花を上げて進んでいた。


 そして、その導火線の火花は・・・兵舎に吸い込まれていった。



 花火の余韻も冷めやらぬ中。

 最初の爆発が兵舎の1階から起こった。


      どおーん!!!


 続いて2階。


      どおーん!!!


 壁や窓が吹き飛んでくる。

 あちこちからの爆発音とともに、煙と土煙が立ち上がる。

 屋根が崩れてきた。


「アラ大変」


 ぜんぜん大変そうじゃない声でエリザベスが言った。

 いつの間にか口にハンカチを当てている。


 

 つぎつぎに起こる爆破。

 


 やがて・・その音もしなくなり、あたりにパラパラとがれきが落ちてくる。

 ”ガタン”といって、窓枠が落ちてきた。

 そこにあるのは、廃墟となった兵舎であった。


 茫然と見ていた帝国の兵士たち。


 やがて・・・真っ赤な顔になったラーシン将軍が、”ギ・・ギ・・ギ”という擬音が似合いそうな動きで振り向いた。


「き・・・貴様らぁ!!!!なにやってくれてんのじゃ~~!!」


 真っ赤になって怒りの形相のラーシン将軍は、腰につけていた大剣を抜きはらった。


 ジャラン!!


 大剣を構えて、ゆっくりとこちらに向かってくる。


 吉岡は思った。これは危険だと。

 明らかに殺す気だ。


 吉岡は、かっこよくエリザベスに言おうとした。

 ”エリザベスさんは先に逃げて!”と。


 振り向いた、吉岡。

 だが、そこにはエリザベスさんも藤島さんもいなかった。


 見ると、はるか遠くを全速力で走り去っていこうとするエリザベスさんと藤島さん。



 吉岡も、田中も置いてけぼりになっていた。




 二人の口から出たのは、情けない言葉。

「まってくれ~~~~!!!」



 吉岡と田中は、遅れながらも走って逃走した。

 エリザベスと藤島の後を追いかけるように。


 それこそ、金魚のフンのように。悪臭を漂わせながら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る